第2話 懐かしの露天風呂
「それじゃあ、いっちょやりますか」
俺はスーツから茶色の革製の服に着替えて外に出る。
見た感じは現代日本にはない装い。
ザ・異世界といった服に少しだけ心躍る。
建物の中は急ぎではないから、明日以降にやろうという話になった。
場合によっては事実上のDIYをする必要がある。一人でもできなくはないかもしれないが……それなりの労力は覚悟しなくてはいけない。
そこは建築士の経験でどうにかなりそうだけれど……。
やるとしても道具や資材の準備とかがあるから。
「杏輔様……お似合いですわ」
メイドのシルフィさんは笑顔で頷く。
まるで馬子にも衣裳……そんな感じの眼差しさえ感じる。
「ははは……ありがとうございます」
俺はじいちゃんの別荘を見回る。
現状、建物が倒壊するような緊急性の高い箇所はない。
しかしながら全体的に放置をしていたら問題なところが多い。
特にひどいのは屋根裏。
「ゴホッ! ゴホッ! これはひどいな」
さすがに屋根裏はほこりだらけだった。
「今はいいかもしれないけれど、寒くなったら冷え切りそうだもんな」
ただ、見た感じ雨漏りの心配はなさそうなのは救いか。
俺は梯子を下り、屋根裏を出る。
服はほこりまみれになってしまった。
「さすがにこのまま動き回ったら、部屋を汚しちゃうからな」
俺は服を脱いで、埃を丁寧に落とす。
屋根裏に繋がる部屋は一つしかないのだけど、綺麗な部屋が埃だらけになってしまった。
ちょっとだけ罪悪感を感じる。
掃除用具の場所は……シルフィさんに後で聞けばいいか。
「失礼いたします……杏輔様。お食事の用意が……まぁ♥」
現在、俺はパンツ一丁。
そんな俺を扉の先からシルフィさんが口に手を当てて、見つめている。
うわぁ……シルフィさんが来ることを想定してなかったから、めっちゃ恥ずかしい。
とはいえ、俺の落ち度であることは間違いないけれど。
「すいません……ちょっと埃を落とそうかと思いまして……」
俺は申し訳ない気持ちで脱いだ服を着始める。
しかし、シルフィさんは着替えている俺をずっと見つめている。
「掃除でしたら私にお任せ頂ければよろしいのに」
シルフィさんは困ったように笑う。
シルフィさん的には掃除をお願いしてほしいかもしれないけれど、
俺が汚しているようなもんだから、後片付けくらいは自分でやりたい。
そこでシルフィさんを頼るのはおかしい気がするから。
しかし、それはそれとして、
「あの……しるふぃさん。さすがにお見苦しい恰好なので見ないでいただけると……」
「そんなことはありませんわ。私にとっては十分、目の保養でございます♥」
30歳おっさんのパンツ一丁姿が目の保養とは、これ如何に。
いや、ひょっとしたらシルフィさんだって気まずいと思っていて、
気を遣って誤魔化しているだけなのかもしれない。
その割には、シルフィさんはうっとりとした顔をしているような気がするけれど。
「それはそうと、そろそろお食事なんていかがでしょう? それともお風呂で汗を流しますか?」
「お風呂か……」
そういえば、じいちゃんの別荘って温泉だったよな。
しかも露天風呂……いいな。久しぶりに温泉で息を抜くのもいいよな。
「申し訳ないけど、先にお風呂でもいいかな?」
「もちろんでございます。場所は……覚えておいででしょうか?」
「変わっていなければ」
「さようでこざいますか。それでは行ってらっしゃいまし」
「ありがとう」
俺は適当な場所にほうきを置く。
明日以降も使うだろうから、ほうきはそのままにした。
俺はお風呂場に向かうために階段を降りる。
場所は1階の通路の奥。
暖簾の先が脱衣所。
「良かった。記憶通りだ」
場所は変わっていなかった。
脱衣所はかつての面影のまま。
ちょっと古めかしい感じはあるけれど、当時の雰囲気のままだった。
「さて、入るか」
俺は温泉の扉を開ける。
目の前は景色は当時と変わらないまま。
源泉垂れ流しのシャワーに石造りの広めの露天風呂。
昔、じいちゃんと入る露天風呂が好きだった。
「そっか……温泉なんて維持するの大変だろうに……シルフィさんにお礼を言わないとな」
俺は源泉垂れ流しのシャワーで汗を流す。
置いてある石鹸は新品だった。
きっとシルフィさんが今日のために用意してくれたのだろう。
本当に頭が上がらない。
俺はささっと身体を洗って、温泉の中に入る。
「くぁ〜!! 効くぅ〜!」
乳酸が溜まった筋肉に温泉が沁み渡る。
ほど良い熱さが全身の筋肉をほぐしていく。
「こんなに良い湯だったんだな」
子供の頃。筋肉痛とは縁がなかった。
ひょっとしたらあったかもしれないけど、意識することはなかった。
大人にならないと分かるのは、少し損した気分。
「景色も最高だしな」
夕暮れと星空のコントラストが綺麗だった。
疲れたところに入っている訳だからなおのこと別格だと感じる。
ずっと温泉に浸かっていたい。
時が流れるのも忘れるくらい……。いや、忘れちゃいけないんだけどね。
「じいちゃん。明日はもう一歩前進できるように頑張るよ」
俺は独り露天風呂の中。
満天の星を見上げて、独り呟くのであった。
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