第1話 異世界の別荘を受け継ぐ
投稿はじめました~!!
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「お久しぶりです。明石 杏輔様。突然申し訳ございませんが、お祖父様の最後のお願いを聞いて頂けないでしょうか?」
とても綺麗なメイドさんが話かけられた。胸はとても大きかった。
今日は大好きなじいちゃんの四十九日。嫌に重たい曇り空。今のじいちゃんは灰になって墓の中。
月残業100時間越えのブラックな仕事も辞めて、現在無職な俺には話しかけられることすらもったいない美人なメイドさんである。
「えっと……もしかしてシルフィ……? 何年振りですか? 多分、15年振りくらいですかね?」
見間違える訳がない。
俺が小さい頃、じいちゃんの別荘に遊びに連れていった頃、その別荘に住んでいた小さい子の面影がある。
綺麗な顔立ちに金髪。青い瞳。そして無視できない質量をお待ちになられたおっぱいは明らかに日本人離れしている。
曰く、じいちゃんがメイドを雇った時に連れてきたらしい。
そこら辺の細かい事情とかは知らないけれど、俺がシルフィさんと初めて会った時はすごく小さかったのを覚えている。
「それぐらいだと思います。とはいえ、杏輔様の昔と変わらずかっこいいままでございますわね」
シルフィさんは嬉しそうに笑みを浮かべて答える。
「いやいや、今年で30才ですよ?? もう立派なおっさんなんでかっこいいは……」
とはいえ、美人な人に『かっこいい』と言われて悪い気がしないけれど。
「それで……じいちゃんのお願いってなんです?」
「それはですね……権三郎様が住まわれてた別荘を受け継いで頂きたいのです。杏輔様が幼少期にいらしていた場所でございます」
「じいちゃんの別荘か……」
毎年の夏休みになると遊びに連れていかれたあの場所《別荘》。
就職してからは行くこともなくなった。
ずいぶんと綺麗で温泉も気持ちが良かった印象が強かったけれど……、
「でも相続とか大変なんじゃないかな?」
行く時は何故かいつも眠っていたから、どこの場所にあるか分からない。
でも毎年じいちゃんは車が迎えに来ていたから、恐らく国内にあるんだろう……そのくらいの感覚。
「その点は問題なく対策しておりますので、杏輔様がお気にしなくも大丈夫でございますわ」
「分かりました。それなら一度移動しましょうか」
「そうですね。積もる話もあるでしょうから」
シルフィさんは優しい笑みを浮かべる。
大学を卒業して、新卒で建築士自体の仕事はそれなりに楽しかったけれど、
正直言ってかなり多忙だった。
就職してからはじいちゃんとシルフィさんとは連絡を取れていなかった。
ただの言い訳だけれど、就職してから残業と上司からのパワハラ祭りで連絡を取る暇がなかったのだ。
意地で3年続けてから先は、転職活動をする余力もなくズルズルと仕事を続けていた。
結果としてはじいちゃんは亡くなってしまった。
今更後悔しても遅いが、ちゃんと連絡をとっていれば良かった。
その後悔もあって、俺は新卒から8年も働いたブラック企業に退職届をそっと置いたのは1週間前のこと。
「……杏輔様は私が知らない間に随分と苦労されていたのですね」
「……そう見えますか?」
仕事を辞めてからの1週間。
疲れはだいぶ取れたと思っていたのだけど、
「顔を見れば分かりますわ。まるで戦争を終えた英雄のような顔立ちをされておりますもの」
「ははは……戦争の英雄なんて大層なものじゃないですよ」
俺の苦痛はきっと誰にも理解なんてされない。
とはいえ、戦争の英雄なんて大それたものでもない。
ブラックの社風では自分を守ることで精一杯だったから。
だけど、シルフィさんに労われて救われたような気がした。
もしかしたら、俺は誰かに認めてもらいたかったのかもしれない。
そんなことを思っていたら駐車場に辿り着いていた。
天板が上がるタイプの駐車場。
窮屈そうにビルに囲まれている。
「それではこちらにお立ち下さい」
シルフィさんが手を差し出した先は精算機。
「えっと……」
駐車料金を払えってことかな?
まぁ、美人なメイドさんに駐車料金を払わせるより、
パッとしない俺が払った方が地球の精神衛生上いいだろうし。
「何番で清算したらいいですかね?」
「いえ、その必要はございません。少しばかり目をお閉じ下さい」
「え? は!? なんだ!?」
駐車場の精算機を中心に緑色の魔法陣が現れた。
俺とシルフィさんは緑色の魔法陣の中に入っている。
突然のこと過ぎて、俺は混乱した。
「あっ……申し訳ございません。しばしお顔を失礼致します」
シルフィさんは後ろから俺を抱き締める形で俺の目を手で覆う。
「えっ……!?」
圧倒的おっぱい。
背中にとんでもない柔らかさと圧を感じる。
めっちゃ甘くて良い匂い。
それとお手てが柔らかい。
様々な情報が俺の脳をパンクさせる。
だけど一番混乱したのは、
「杏輔様。大変失礼致しました」
「は? え? ここは?」
目の前には二階建ての白い館。
困惑しながら辺りを見渡すと木々に囲まれた土地だということが理解できる。
深い森と、その森を囲う山々。
のどかに鳥が鳴いているが、この場所以外に人が住んでいそうな気配はない。
たしかに、ここは俺がじいちゃんに連れて来られていた別荘《場所》。
でもコンクリートジャングルに囲まれた駐車場の精算機にいたはずなのに、
俺は景色が大きく変わって困惑した。
「ここは……」
「改めまして、おかえりなさいませ。杏輔様。普段であれば魔法をかけてお眠りさせておりましたが、もう必要ございませんので」
「え? 魔法?? 俺、知らぬ間に魔法にかけられてたの??」
「はい。場所を知られないように魔法で眠らさせてから……」
「あぁ……だから場所が分からなかったのか……」
そりゃあ、分からない訳だわ。
普通に生きてたら魔法に掛けられてるかもしれない……なんて思う訳ないし。
「あまり驚かれないのですね?」
「いや、驚いてるよ? まだ状況が読み込めないだけで……ちなみに、ここはどこなの??」
「権三郎様曰く、異世界と仰っておりました」
「異世界!?」
俺、知らぬ間に異世界に行ってたんか!? 30年生きた中で一番衝撃的だよ!
「とはいえ、私から見たら杏輔様や権三郎様の故郷の方が異世界でございますが」
「あぁ……そうなるのか」
異世界から見れば、日本も異世界だもんな。
「とりあえず、中に入ってもいい?」
「もちろんでございます」
俺は三段ほどの階段を登って、
木造の扉を開ける。
「ずいぶんとボロくなっちゃったな」
歩く度に床が軋む音がする。
家具は最低限。
たけど別荘の中は懐かしさの面影を残している。
「申し訳ございません。権三郎様が天に旅立った今、ここには今や私一人しかありません故……できる限り、清掃をしておりますが……」
「え? この広さをシルフィさん一人で?? 大変だったんじゃないか?」
「メイドとしての最低限の矜持でございます。労われるものではございませんわ」
シルフィさんはそんなことを言いつつ、少しだけ嬉しそうに微笑んでいる。
「……とはいえ、この現状を伝えなかった私は卑怯だと罵られてもおかしくないですが」
シルフィさんは自重気味に笑う。
その笑みはどことなく寂しさを感じた。
「いいよ。そんな気にすることじゃないから」
別に直そうと思えば直せるから。
「実は、ここまでひどくなったのは権三郎様が亡くなった後からでございまして」
「じいちゃんが亡くなってから?」
じいちゃんが亡くなることと別荘がボロボロになるのが結びつかないけれど、理由があるのだろうか?
「さようでございます。こちらの別荘は権三郎様と魔力的な契約がありました。お亡くなりになる前、日本に戻られてから魔力が供給できない状態になっておりました」
「その結果、建物がボロボロになると……?」
「そうですね……魔力が足りないと存在するための概念すら消えかけてしまいますので……」
「そこまでなのか……」
日本の事情と異世界の事情は違うだろうけど、いないだけで存在すら怪しくなるのか……。
「今現在はこちらの屋敷の所有権が杏輔様に移っている状態でございます。なので、杏輔様にいらしていただけなかったと思うと……」
シルフィさんは安堵の溜め息を吐く。
彼女が本当に不安だったのだと痛いほど伝わった。
「あぁ……たしかに、じいちゃんが入院してからは、俺も忙しくて連絡取れなかったしな……」
実はじいちゃんがいる病院からちょくちょく連絡があった。
ブラック勤めとはいえ、連絡を取らなかったのは俺の責任。
まさか、こんな感じで影響が出ているとは思っていなかった。
正直に言えば魔力とかよく分からないけれど、
少なくともじいちゃんの連絡をちゃんと出ていれば、シルフィさんが困る自体にはならなかったはず。
「ちなみに、私も杏輔様に所有されております」
「え? 別荘にいるから?」
「違います。私が杏輔様が所有されているのは、幼少期の頃……私が5歳の頃でございます」
「シルフィさんが5歳の頃……?」
シルフィさんが5歳って……俺が15歳の頃?
「覚えておりませんか?」
シルフィさんは少し悲しそうな顔をする。
『おにいちゃん! シルフィとけっこんしてくだしゃい!』
『ははは……シルフィが大きくなったらいいよ』
『やったー! シルフィ! おにいちゃんとけっこんするー!』
「あー……」
いや、たしかに小さい頃にそんなやり取りをしたけれど、
シルフィさんはそれでいいのか??
「結婚とは契約ごとでございますから……今の私の主人は杏輔様でございます」
「いやいやいや……」
いきなり、結婚と言われても困る。
そもそも彼女ですらできたことないのに。
「どうしても私が杏輔様に仕えることが嫌なのでございましたら、謹んで解除承ります。その際は私の命をもって契約解除になりますが……」
「え? いきなり重くない?」
「私にとって契約を解くには、そういうことですから」
たしかに契約ごとって重いけど……死んで欲しいとはさすがに思わない。
「まぁ……俺で良いなら……」
「ありがとうございます。そう言って頂けてとても嬉しいですわ」
シルフィさんは俺の答えにとても嬉しそうに笑った。
正直、この笑顔が見れるだけでも受け入れた価値はあるんじゃないかって思った。
「ま、まぁ……とりあえず今は家の修繕が先だよな」
室内を見渡すとところどころ、不器用ながら木の板で壁を塞いだ後が見える。
「これは……シルフィさんが?」
「お見苦しいものを見せて申し訳ございません。ですが杏輔様の手を煩わせる必要はございません」
俺がシルフィさんに尋ねると、シルフィさんは頭を深々と下げる。
「というと?」
「私としては杏輔様がこちらにいらっしゃるだけで満足なのでございます。後のことは私にお任せ下さいませ」
そう言って頭を下げているシルフィさんの手の表面は傷が見える。
きっと不慣れながら、ここを維持するために頑張ってきたんだよな。
「せっかくなら俺にも手伝わせてよ。これでも前職で家に関する仕事をしてたから」
「……よろしいのですか?」
シルフィさんが恐る恐るといった感じで声を出す。
「よろしいもなにも、俺が望んでいるからさ」
もう仕事なんて辞めている訳だし。
じいちゃんが亡くなったから、俺に身内と呼べる人間はもういない。
両親はとっくに空に飛び立ったから。
それなら、今くらいは俺の好きに生きてもいいはずだ。
じいちゃんが残したこの別荘をいつまでも残してあげたい。
そうしてあげた方が、きっとじいちゃんも天国で安心できるだろうから。
「杏輔様……! 私は大変嬉しく思いますわ……!」
シルフィさんは目に涙を浮かべていた。
「それじゃあ、これから宜しく頼むよ」
「もちろんでございます。このシルフィ、全身全霊をもってお仕え致しますわ」
異世界の別荘を建て直そう。
天国で見守ってくれているじいちゃんのためにも。
ここを維持するために頑張ってくれたシルフィさんのためにも。
なんなら前よりも快適にしてあげたら、2人は喜んでくれるだろうか?
だったら、ちょっと頑張ってみるか。
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