出会い
(はぁ…はぁ…。どうして俺はいつもこんな目に遭わないといけないんだ。)
俺は路地から路地へと走り続ける。俺を追いかけているソレは他の人には見えていないようだった。
必死に走り続けていて気づいた。
(しまった、ここは行き止まりじゃないか。
ミスった、追い詰められた。)
「最悪だ。」
人間のような形をしているソレは、人間とは大きく異なる点があった。全身が黒く蝙蝠のような翼に細長い尻尾。大きな鉤爪。そしてなにより顔がないのだ。いや、正確には大きな引き裂かれた口しかない。
ソレは俺を追い詰めたことに気がつくと、大きな口でニタニタと笑った。
大きな鉤爪を振り上げ、今にも俺の身体を切り裂こうとしたとき、俺は反射的に身体を丸めていた。
おかしい…。いつまで経っても予想していた痛みが襲ってこない。恐る恐る顔を上げると、そこには1人の女性がいた。美しくたなびく長く黒い髪、頭の後ろで一つにまとめられたそれはこちらを誘うかのように揺れていた。
「君、大丈夫?」
「あ、はい。あの化け物は?」
「もういないから安心していいよ。君も災難だったね。もう大丈夫だから家に帰りなさい。」
「はい、ありがとうございます。
あの…、後日改めてお礼をしたいんですけど…。」
「お礼?そんなの別にいいんだけど、まぁ何かあったときはここにおいでよ。」
そう言って彼女は1枚の名刺を渡してきた。
『風華霊能探偵事務所 風華雫』
これが俺と彼女の出会いだった。