ある夏の日のこと
暖かな日が差し込む昼下がり、今日の風華霊能探偵事務所は閑古鳥が鳴いていた。いや、怪異関係の事件が起きていないということは喜ぶべきことなのだが、事務所としては暇で仕方がない。
「雫さん、最近仕事ないですけど経営的には大丈夫なんですか?」
「1回の依頼で結構な量を稼げるからね、生活する分にはまだ大丈夫だよ。」
「それにしても、もう1ヶ月ですよ?」
「まぁね、でも君が来る前は半年ぐらい仕事がない時もあったし、むしろ増えた方だよ。
君の巻き込まれ体質のおかげかな?
それに、君は怪異に襲われるからよく助けているじゃないか。」
「うぐっ…、それを言われると何も言えないですけど……。
とりあえず暇なので、昔解決した事件の話でも聞かせてくださいよ。」
「うーん、仕方がないなぁ。
じゃあ、私がずっと忘れられない、いや、忘れてはいけない事件の話をしてあげようか。」
ある夏の人のこと、世間はもう夏休み真っ盛りで学生たちは浮き足立つころだった。
事務所に1人の少女が依頼しにきた。十文字星乃、18歳。可愛らしいボブにした少女だったが、どこか疲れた様子を見せていた。
「では、ご依頼はなんでしょうか?」
「あの、私を殺してくれませんか?」
依頼内容を聞いたらいきなりこれだからね、びっくりしたよ。
詳しく話を聞いてみたら、どうやら最近身体が誰かに操られているかのように自分の意思で動かせなくなり、時には人を殴ったりもしているらしい。まるでもう1人の自分がいるかのようだ。しかも、意識だけははっきりしているらしく、精神的に追い詰められているようだった。
「なるほどね…、そういったことが起きる前に何か変わったことはありませんでしたか?」
「変わったこと……、あ、そういえば事故に遭いました。医者の方によると、死んでいてもおかしくなかった、無傷だったのは奇跡だよって言われましたね。
私も車にぶつかったと思ったんですけど、どこにも怪我はないし、検査の結果も何もなかったのでびっくりしました。」
「事故…死んでいてもおかしくない…。
なるほどね、思い当たる節がないわけでもない。しかし、まだ確証が得られないのでもう少し調査してみましょう。そういうわけなので、依頼は殺すではなく、解決するってことで受けますが問題ないですか?」
「はい、それでお願いします。」




