郷愁
懐かしい夢を見た。とても優しくて、温かくて、そして残酷な思い出。あの夜から私の今の人生が始まったのだ。
時計を見ると、まだまだ夜は深い時間だった。私は椅子に腰掛け、窓から月を眺めた。
「雫、眠れないのかい?」
アヤメがテーブルに飛び乗ってきてそう問いかける。
「いや、そういうわけではないんだ。
ただ懐かしい夢を見てね。」
その横顔は懐かしい夢を見たという割にはどこか郷愁を帯びていた。
「そうか…、まだ夜は冷え込むから風邪を引かないようにね。」
「あぁ、ありがとう。」
(気を使わせてしまったかな?)
アヤメの立ち去る後ろ姿を見ながら、私は感謝とともにそう考えていた。
そういえば、師匠は今頃何をしているのだろうか? 私に力の使い方を教えて生活できるぐらいまで育てたら、置き手紙をおいてどこかに行ってしまった。
何が『雫はもう一人前だよ、私がいなくてもやっていけるさ。』だよ…。まぁ自由なところは昔からだけど、たまには連絡ぐらい寄越してもいいのになぁ。
私は師匠に想いを馳せながら窓の外を眺めていると、だんだんと空が白みがかってきていた。
「さて、今日も頑張りますかね。」
私はそう意気込み今日も仕事に臨むのであった。




