第43話
「中隊長! 帝国の航空魔導師二名を捕捉しました! 観測要員かと思われます!」
「よし、観測手を潰せば市街地への突入も容易になる。一個小隊で奴らを落とせ! 他はライロレーブへ急行するぞ!」
スピカとシャローラに迫る協商連合の航空魔導部隊は仲間内での作戦会議を終えたのか一斉に散開。追い縋ってくる小隊規模の魔導師を振り払うべく二人は上昇を続けるが、高度八千に到達した途端スピカの全身から力が抜けてしまった。すでに五時間を超える連続飛行に加え、ベテランの航空魔導師ですら忌避する高高度の空。成熟しきっていない少女の身体では長期戦にはとても耐えられない。
その時、マナコントロールが乱れたスピカを協商連合の魔導師が狙う。スピカの背筋が凍り付くと同時にシャローラがスピカの前に飛び出した。
「スピカちゃん!」
突き飛ばされたスピカの身体は射線から逸れ、明後日の方向に銃弾が飛んでいく。しかしスピカを庇ったシャローラは数発被弾し、異能を維持できず一気に下降を始めた。
「シャロさ……!」
スピカは必死で手を伸ばすもわずかに届かない。背後で渦巻く大量のマナを感知し、スピカは断腸の思いで身を翻す。直後、先ほどまでスピカが飛んでいた空を無数の銃弾が通り過ぎて行った。
(シャロさん……どうかご無事で……!)
スピカは小銃型のASSを展開すると先陣を切って突っ込んできた魔導師に照準を合わせ、引き金を引いた。銃口から吐き出される無数の光弾が大気を引き裂いて敵魔導師に殺到する。
だが敵もさる者。敵魔導師は咄嗟の判断で掃射を躱し、協商連合御用達のライフルを構えた。ASSが普及していない協商連合では未だに実弾と実銃が使用されているため、スピカの持つ小銃よりも威力がある。正面から食らえば墜落死は免れない。
スピカは胸元に忍ばせていた手榴弾に手を伸ばすと安全ピンを引き抜いて投擲した。数メートル先を飛翔する魔導師の眼前で爆発したソレに、彼らは対応することができない。反射的に顔面を庇った魔導師の両腕が吹き飛び、続いて木霊する絶叫。たちまち接続回路のマナ循環が乱れ、飛行不能に陥った魔導師は高度八千の空から墜落していった。
「クソ! カバーしろ!」
すかさず小隊の一員がフォローに入るが間に合うはずもなく、スピカの小銃が二人目の魔導師を狙う。放たれた光弾は狙い過たず片翼を潰し、もがれた光翼の再構築が遅れた魔導師は為す術もなく落下。瞬く間に二名を撃墜したスピカは四方から浴びせかけられる銃弾を回避しながら一時的にスピードを上げた。
既に限界ギリギリまで接続回路を活性化させているスピカには猶予がない。極限の空にて最後に狙うは小隊長のみ。右手に小銃、左手にダガーを構えたスピカは気力だけで意識を保ちつつ小隊長目掛けて急速接近。右手の小銃でフェイントをかけ、すれ違いざまに左手を振り抜く。的確に急所を切り裂いた一撃はスピカに確かな手ごたえを感じさせた。
続いて頸動脈から噴き出す鮮血が大空に血華を咲かせ、コントロールを失ったマナが小隊長の体内で荒れ狂う。途端に光翼の輪郭が朧気になり主の身命を手放した。だが、それと時を同じくしてスピカの身体にも限界が訪れる。
酷使を重ねた接続回路が軋みを上げ、体内のマナは枯渇寸前。急激に高度を上げたせいで霞む視界の中、スピカはろくに狙いも定めないまま手榴弾を放り投げた。続いて自動的に異能力が解除され、宿主を延命させるべく残ったマナが防御力に全振りされる。
全身に張り巡らされた接続回路を駆け巡るマナの感覚に身を委ね、スピカはゆっくりと目を閉じた。




