第42話
三日後。ライロレーブ市上空にて。
スピカは観測魔導師として三年生の少女と共に空を飛ばされていた。二人一組を組んでいる少女の名はシャローラ・ローズリー。今回招聘された中ではスピカの次に経験が浅い。スピカが来るまでは最年少飛行魔導師として観測任務に従事していたという。
「ほえー、じゃあスピカちゃんは名門生なんだ。すごいなぁ。私は平民出身だから……」
「そんな、戦場では身分なんて関係ありませんわ。ローズリー先輩こそ……」
「ふふ、シャロでいいよ」
シャローラは栗色の髪の穏やかな少女だった。後輩のスピカにも優しく接し、今もこうして緊張を解そうと気を遣ってくれている。
「シャロさんは……その、飛行時間とかって……」
「実戦三十時間、訓練六十時間だよ。まだまだだね。隊長は併せて千時間近く飛んでるから」
シャローラはこう言うが百時間飛べば実戦でも十分通用するレベルだ。千時間も飛んでいる隊長が異次元なのである。スピカは一瞬躊躇ったものの意を決して口を開いた。
「隊長ってコレオプシス先輩、ですよね?」
「うん。シエロ・コレオプシス。コレオプシス家の最高傑作。それがどうかした?」
「シャロさんから見て、コレオプシス先輩はどのようなお方ですか?」
「んー。スピカちゃんだから言うけど、ここだけの話ね。不憫な人、かな」
シャローラは少しだけ表情を曇らせる。思わずスピカは続けて問いかけていた。
「不憫、ですか?」
「うん。あの人自身もとても優秀なのに、それ以上に後進の育成が上手いから育てた後輩を片っ端から陸軍に引き抜かれてるの。育てても育てても自分の手元には残らない。みんな上層部に取り上げられちゃう。そしてシエロ先輩は飛び級卒業を認められずに後輩を育て続けている。また取られるって、わかってるのにね」
それはどんな気持ちなのだろうか。自分が育てた後輩を横から奪われ自分の知らない部隊で、自分の知らない上官に使われる。千時間近く飛んでなお飛び級すら許されず、卒業まで後輩の育成を続けなくてはならないなど。
「シエロ先輩はいつか自分の部隊を陸軍に創設して、育てた後輩を招集したいんだって。だから、スピカちゃんも……」
シャローラは言葉の途中で口を閉ざす。不思議に思ったスピカが顔を上げると視線の先には協商連合の敵魔導師の姿があった。シャローラは即座に首から下げた無線機へ手を伸ばす。
「こちら観測魔導師より作戦本部へ! 協商連合軍、視認いたしました! 航空魔導中隊です!」
「こちら作戦本部より観測魔導師へ。了解。増援を上げる。しばし待たれよ」
「こちら観測魔導師より作戦本部へ! 一時撤退の許可を! この数では無理です!」
「遺憾ながら許可できない。持ちこたえてくれ」
それを聞いたシャローラが唇を噛み締めた。そしてスピカを一瞥する。
「せめて二人一組解除の許可を! 私はまだしも彼女はまだ一年生なんです!」
「シャロさん……」
こちらの状況など作戦本部には見えていないというのにシャローラは必死で声を張り上げた。
「却下だ。二人で掻き回せるだけ敵魔導師を掻き回せ」
だがそんな要望が通るはずもない。応答できないシャローラに代わり、スピカが無線機を手に取った。
「こちら観測魔導師より作戦本部へ。了解」
「スピカちゃん……」
「私とて、帝国の魔導師です。覚悟は、できておりますわ」




