第41話
「何なのよ、あの女ッ? 怖すぎでしょ、協商連合の魔導師なんかより百倍怖かったわよ! そもそもあんな死霊術師好きになる物好きなんてそうそういないっての!」
「落ち着け、ニーナ……」
その日の夜、ニーナは割り当てられた民家にてセヴラールに向かって喚き散らしていた。セヴラールは激しく上下に揺さぶられながらも何とかニーナを宥める。その様子を眺め、スピカとリーヴィアは呆れ果てたようにため息をついた。
「そんなにヤバかったの? そいつ。毒使いだっけ?」
「有名ですわよ。アルレリー家のご令嬢ですもの」
「令嬢ッ? あれがッ? ただの毒蛇女じゃない!」
スピカがポツリと溢した一言を耳聡く聞きつけニーナが噛みつく。余程脅されたらしい。リーヴィアは付き合っていられないという顔で手をひらひらと振った。
「お前の方はどうだったんだ、スピカ。やっていけそうか?」
「あぁ……私は……そうですわね……」
どうやらスピカはスピカで何か厄介ごとを抱えているようだ。ニーナは少し落ち着いたのかセヴラールから離れてスピカに視線を向ける。
「何々、下級生いじめ? 殺す? ねぇ殺す?」
前言撤回。全く落ち着いていなかった。
「そういうのではないのですが……少し癖の強い先輩が……」
「……ふーん?」
「明日からしばらくは飛びっぱなしの予定ですわ」
スピカは飛行能力者として帝国の航空魔導部隊に編入されている。今の部隊長はウェルキエル帝国学院の五年生と、ニーナは噂で聞いていた。
「コレオプシスか……確かに気は強いし口は悪いしニーナと並んで扱いにくい生徒の筆頭だよな」
「ちょっと! 今さらっと私侮辱されたッ? されたわよねッ?」
「何だよ、事実だろ」
「うぐっ……」
ニーナは返す言葉が咄嗟には思いつかず言い淀む。セヴラールは表情の硬いスピカを一瞥して口を開いた。
「ま、後方待機で延々と飛ばせてもらえないよりはマシだろ。たまにいるからな。自分の飛行時間稼ぐために後輩を一切飛ばさない奴」
「……そうですわね」
「今のうちに戦場の空に慣れておけ。お前を飛ばすってことはコレオプシスも育てる気はあるってことだ」
航空魔導師は飛べば飛ぶほど優遇される世界。一時間でも長く飛んだ方が成績も上がり、卒業後の配属先もよくなる。上層エリアの生徒は卒業までになるべく長く飛びたがるものだ。だというのに一年のスピカを飛ばすのは彼女を育成するつもりがあるということ。才能を見込まれている証拠なのだ。
「リーヴィアはどうなの? 上手くやれそう?」
「……私は、完全にいないもの扱いよ。入学したての一年なんて足手まといにしかならないから」
「そう。いいじゃない、楽で」
ニーナは楽観的に言ってのけるがリーヴィアは悔しそうに爪を噛む。
「ムカつく。使えないと思われてるなんて」
「……私は働かなくていいなら絶対に働きたくないクチだけどね。今からそんなこと言ってると仕事人間になるわよ」
「余計なお世話」
「はいはい」
どうやら全員、この戦場には思うところがあるらしい。




