第38話
同日、ウェルキエル帝国学院下層食堂にて。
「そんなに落ち込むなよ、フォーマルハウト」
「そうだぞ、選ばれなくて悔しいのはみんな同じだ」
「……はい」
夕食を半分以上残して席を立ったユーフィアは重い足取りで女子寮へ向かった。ライオネルやルドウィンが心配してくれているのはわかるが今は一人になりたい。そんなことを考えていたからだろうか。角を曲がったユーフィアは人影に気付かず、出会い頭に衝突して小さく悲鳴を上げる。この時ユーフィアは一人で帰れると言ったことを心の底から後悔した。
「……なんだ、フォーマルハウトの娘か」
「きゃ! も、申し訳ありません! 私、前方不注意で……」
ぶつかった相手を確認したユーフィアは慌てふためきながら頭を下げる。一方のアルヴィスは気にした素振りも見せずに手を振った。
「気にするな。小動物にでも当たったのかと思ったぞ。ちゃんと飯を食っているのか?」
「え? あ、はい……申し訳ありませんでした。失礼いたします……」
機嫌を損ねる前に退散しようとするユーフィアを、アルヴィスは片手で制す。
「待て。随分と浮かない顔だな。どうした?」
「いえ、そのようなことは……」
「当ててやろうか?」
思わず否定したユーフィアの顔を覗き込みながらアルヴィスは笑った。
「アグラシアに選ばれなかったから、だろう?」
「っ……」
「当たりか」
ユーフィアの返答を待つことなく、アルヴィスは自分の中で結論を出す。ユーフィアは一度唇を噛み締めると覚悟を決めて口を開いた。
「あ、あの……!」
「なんだ?」
「チェスカー先輩は……誰かを殺すことについて……どう、考えていらっしゃいますか……?」
それがどうしても聞いてみたかったこと。ユーフィアもアルヴィスのことは噂で聞いて知っている。一年前、とある女子生徒との決闘で二名の命を奪っていると。彼は、どのような思いで今を生きているのだろうか。
「どうも思わん。所詮この世は弱肉強食。戦争中ならなおのこと。死んだ人間はその程度の命だったに過ぎん」
「……そう、ですよね」
わかっていた。ユーフィアとアルヴィスでは価値観が違い過ぎる。今のユーフィアにはきっと、親の仇ですら殺せない。
「どうすれば……チェスカー先輩のように、なれますか……?」
「それはお前の気持ちの問題だ。俺がどうこうしてやることはできん」
「……申し訳ありません、ご無理を言ってしまって……」
「……」
自嘲気味に苦笑して俯くユーフィアの顎に指を添え、アルヴィスは顔を上げさせた。
「ただ一つ助言があるとすれば、相手の命を刈り取るに足る理由を見つけろ。どんな理由でもいい。憎いから、嫌いだから、誰かに認めてほしいから、誰かの隣に立ちたいから。自分なりの理由で敵を殺せ。あとは慣れだ」
「相手の命を、奪う理由……」
ユーフィアが真面目に考え込んでいるとアルヴィスは闘技場の方向へ視線を向ける。
「お前のような武闘派タイプは頭で考えるより実戦でこそ答えを見つけられるだろう。俺が一肌脱いでやる」




