第37話
二重能力持ち。天は二物を与えずと宣う聖職者を嘲笑うように、この世界には二物を与えられた能力者が存在する。例えば、ニーナの眼前に立つこの少女。
彼女は飛行能力者でありながら、防御に特化した異能でニーナの刃を防いでみせた。続く二撃目、三撃目もすべて光のハニカムに退けられる。完全な誤算。飛行能力者が一人で突っ込んできた時には何を考えているのか全く理解できなかったが、つまりはこういうことだったのだ。
彼女は自分が攻撃を食らう可能性を端から考慮していない。剣戟のタイミングをずらしても死角からの攻撃もあらゆる技を光の障壁一枚で弾かれる。要するに、完全なる自動防御。この能力相手に物理攻撃は意味をなさない。
彼女を殺せるとしたらそれは相手の異能を封殺するセヴラールか、毒使い、精神操作の能力者のみだ。恐らく少女の能力で毒ガスの類は防げないし、精神に干渉する異能にも対応できないはず。とはいえニーナは無能力者。精神操作の異能など当然扱えない。かといって手持ちに毒を発する武器もない。催涙ガスを封入した手榴弾と制圧用の閃光手榴弾はあるがこれで逃げ切れるだろうか。
「めんどくさいわね……」
相手の能力さえ知っていたならばニーナが遅れを取るような相手ではない。その事実が彼女を無性に苛立たせた。しかしこれは戦争なのである。繰り返すが、戦争だ。負ければ死ぬ。であれば手段を選んでいる余裕はない。否、手段を選んで確実に勝たせてもらう。結局すべては命あっての物種だ。ニーナが腹を括って無線に呼びかけようとした、その時。背後で扉が開く場違いな音がした。
「……は?」
思わずニーナが振り返ると、そこには帝国学院の制服を身に纏った妖艶な雰囲気の美少女が立っている。だが制服はかなり着崩されており、肩が大きく露出している上に豊満な胸元はこれでもかというほど強調されていた。辛うじて校章とスカートの色で五年生であることがわかる。
「お取込み中失礼するわね。申し訳ないのだけれど、これ以上ウチの後輩ちゃんをいじめるのはやめてもらっていいかしら? お嬢さん」
「……な、な!」
突然の乱入者に協商連合軍の少女はわかりやすく狼狽した。それも当然だろう。ニーナですら戸惑っているのだから。
「……くっ! 帝国の悪しき軍人が一人増えたところで私は屈しないわ……!」
つい数分前にも聞いたことがあるようなセリフを吐き捨て、少女は健気に銃剣を構えた。
「そう。私はディアネット・アルレリー。あなたを葬る去る者の名よ。冥土の土産に覚えておきなさい」
そして周囲の景色が一変する。ディアネットの身体に纏わりつくように瘴気が発生し紫色の靄となって少女を飲み込んだ。
「ぐ……うぅ……あぁぁぁあぁあ……!」
断末魔の絶叫と床に崩れ落ちる音。ディアネットが異能を解除すると協商連合の少女は血を吐いて息絶えていた。それを無感情な瞳で見つめ、ディアネットはニーナに向き直る。その口元は笑っているが、目は全く笑っていない。ニーナの背を冷や汗が伝うと同時に、ディアネットは口を開いた。
「あなた、チェスカー先輩のお気に入りよね?」




