第36話
『ニーナ、今からこっちの航空魔導師に敵さんを誘導してもらう。二分後、前を通過するから同士討ちに気を付けて撃ち落とせ』
無線機を通じてセヴラールの指示がニーナに届く。ニーナは狙撃銃を構えたまま短く応答した。
「了解」
『位置的に先に俺の前を通るはずだから俺が仕留め損なった奴を頼む』
無線が切れ、遠くの空に航空魔導師同士の小競り合いが見える。だがその姿は徐々に大きくなり、すぐに銃声が聞こえ始めた。
(……来る)
直後に協商連合の航空魔導師が眼前を通過。想像以上に速く、なかなかタイミングを掴めない。自身の経験と勘を信じて引き金を引くがやや遅く撃墜には至らなかった。手早くリロードを済ませ、ニーナは即座に誤差を修正。二名を瞬く間に撃ち落とす。
「……よし」
手応えを感じつつ次弾を装填するニーナの耳にセヴラールの舌打ちが響いた。
『ニーナ、すまん! 一人逃がした!』
「大丈夫、任せて」
『気をつけろ、スピードが他の連中の比じゃねぇ』
セヴラールが警告するほどの相手。ニーナは慎重に狙撃銃を構えるが、猛スピードで飛翔する魔導師にまるで対応できなかった。ニーナが放った銃弾は敵の遥か後ろで着弾し目で追うことすら困難。しかも一度通り過ぎたはずの魔導師は空中で反転し、ニーナ目掛けて突っ込んできた。
「っ! なんで私なのよ!」
悪態をつきつつ、ニーナは銃を投げ捨て窓から距離を取って《アルクトゥルスの宝剣》を展開する。敵魔導師は窓ガラスを突き破り民家の中へ転がり込んできた。
肩まで伸びた栗色の髪と大きな瞳が特徴的な少女。協商連合の軍服に身を包み、胸元のバッジが彼女が少尉であることを教えてくれる。年はニーナよりやや上だろう。
「帝国の悪しき能力者め……! 覚悟なさい……!」
少女は面倒なことにニーナへの敵意を隠そうともしない。帝国に親でも殺されたのだろうかと思うほどの敵意と殺意。こちらが入学したての一年生であることなど、もちろん考慮されそうもない狂気を感じてニーナは眩暈がした。
しかしこれは戦争である。死ぬくらいなら殺した方が百倍マシだと考えているニーナは《アルクトゥルスの宝剣》を構えた。
「くっ……! そんな悪魔の道具でこの私を殺そうというのね……!」
「いや、戦争なんだから当然でしょ? 死にたくないし」
「数多の命を奪っておいてなんて身勝手な……!」
ならば協商連合は帝国の軍人を一人も殺していないとでも言うのだろうか。これ以上は時間の無駄であると悟ったニーナは一瞬で踏み込み《アルクトゥルスの宝剣》を横に薙ぐ。が。
「……ッ」
「無駄よ! 悪しき帝国軍人なんかに私は殺せないわ!」
少女を守るように光のハニカムが展開され、ニーナの刃を防ぎ切った。




