第35話
ライロレーブ市からはすでに大半の市民が退避させられており作戦本部が設置されていた。半数程度は帝国学院の学生であり、正規の軍人は想像以上に少ない。それだけ状況が逼迫しているということだろう。
鉄道が整備されているライロレーブは補給線であり、陸軍上層部もここだけは死守したいに違いない。セヴラールに続いて作戦本部となっているテントの中に足を踏み入れると上層エリアの生徒たちが無線機の前で何事かやり取りをしていた。
「よその学院には応援要請してないのね」
「ウチが一番近いしな。帝国は領土が広い分、守らなきゃならない範囲も広い。人手が足りないからといってそう簡単に戦力を引っ張ってくるわけにはいかないだろ」
皮肉なものである。広大な土地を保有していることが戦争で足枷になるとは。
「状況は?」
「協商連合が航空魔導部隊をライロレーブに投入するようです。監視に上げていた航空魔導師からの情報なので間違いないかと。恐らく、一撃離脱狙いでしょうが」
無線機の操作をしていた男子学生をセヴラールが捕まえて問いかけると、彼からは想像もしていなかった言葉が吐き出される。まさか現着直後に一戦交えることになるなど誰が想定しただろうか。運が悪すぎる。ニーナは思わず舌打ちした。
「仕方ない、これが戦争だ」
「わかってるわよ……」
敵は当然、こちらの事情なんて考慮してはくれない。すぐに迎撃の準備を整えなくては。
「到着まで、猶予はどのくらいだ?」
「恐らく十分後にはライロレーブに入るかと」
「さすがは航空魔導師。機動力はピカイチだな」
歩兵やら砲兵隊やらを引き連れていないだけまだましではあるものの、大抵の軍人は航空魔導師が嫌いである。ほとんどの人間が飛べないのをいいことに上から銃弾を撒き散らす彼らの厄介さといったらない。
「指揮官はなんて?」
「我々も航空魔導部隊で応戦します。すでに上がる準備も済んでおります」
「なるほど、了解だ。ニーナ、行くぞ」
「え? どこに?」
セヴラールはニーナを連れてテントから出ると仮の武器庫にされている民家に入り、狙撃銃を差し出した。
「航空魔導師を援護する。持ってけ」
「そんなこと言っても……奴らは飛ぶのよ? 一体どうやって……」
「協商連合の狙いが一撃離脱ならある程度高度を下げる必要がある。民家の二階で窓から銃口だけ出して構えてろ」
「……わかった」
セヴラールの考えを完全には理解できないまま、しかしニーナは頷く。言われた通りにしていれば、自ずとわかることだから。小型無線機を制服に取り付け、ニーナは手近な民家の階段を駆け上がる。ASS以外の武器を扱うのは久しぶりだ。軽量化されていない銃の重さに辟易しながら二階にたどり着くとニーナは片膝立ちになって銃口を外に向ける。少し離れたところでセヴラールも同じように銃を構えていた。
『協商連合の航空魔導部隊、視認しました!』
『数はおよそ六十! 想定を遥かに上回る人数です!』
『固まるな! 散開して囲い込め!』
『『オン・エンゲージ!』』
どのくらいの時間、そうしていただろうか。やがて作戦司令部と繋げた無線から戦闘開始の合図が告げられた。




