第33話
「なんで……」
私ではないのですか? と続く言葉は喉の奥に引っかかって出てこない。授業終わりにセヴラールの後を追ったユーフィアは血が出るほど強く唇を噛み締めていた。セヴラールはユーフィアを空き教室に誘導すると扉を閉める。そして椅子を引いて座るように促した。
「納得がいかないみたいだな」
「それは……」
「別に怒ってるわけじゃない。当然の疑問だろう」
「では、なぜ……」
なぜ、入学試験の順位で劣る彼女らを選抜したのか。ニーナは、まだわかる。セヴラールの一番弟子であり、特待生として入学した彼女は選抜生としてふさわしい。だがスピカは、リーヴィアは、私より弱いではないか。そんなどす黒い感情がユーフィアを支配していく。自己嫌悪に陥りながらユーフィアは俯いた。
「今回、交戦が予想されているのはライロレーブ市。つまり、市街戦がメインになる。お前に市街戦は向いてない」
「どうして……ですか」
「お前の能力だと敵味方関係なくぶった斬れちまうからな。お前は団体戦より個人戦に向いてるんだよ。現地にお前と連携して動ける人間はいないと判断した」
「ニーナさんとなら……」
「ニーナは俺と動く」
やはり、そうなのだ。どれだけ努力してもセヴラールの隣はニーナでニーナの隣はセヴラールしかいない。ユーフィアの居場所は端から存在しなかった。わかっていたはずなのに。ニーナは、ユーフィアがいなくても困らないと。
「それにお前は怪我が治ったばかりだろう?」
「……もう、問題なく動けます」
「無理はするな。頼むから退いてくれ」
「では教えてください! 私が外された理由を! 市街戦向きじゃないから、それだけとは思えません!」
気が付けばユーフィアは椅子から立ち上がり、声を張り上げて捲し立てていた。普段のユーフィアであれば絶対にしないであろう行為。セヴラールは静かに息を吐いた。
「なら聞くが、お前に人が殺せるか?」
「……え」
予想外の質問にユーフィアは思わず後退る。
「ニーナは、できる。そうなるように俺が訓練した。スピカもリーヴィアも、恐らくできるだろう。でも、お前は? ニーナに聞いたよ。試験中、召喚獣相手にも同情していたらしいな。その優しさは、戦場では命取りになる。俺は、お前に死んでほしくない」
「……」
何も言えなかった。躊躇うことなく相手の命を奪う覚悟が、ユーフィアにはなかったから。
「いいじゃないか。人殺しの才能なんかなくたって。お前の優しさは今の狂った世界じゃ美徳だよ」
「……でも」
それでも選ばれたかったと、ニーナたちと同じでありたかったと願うことは、罪なのだろうか。