第30話
「――今回の報告は以上だ」
ウェルキエル帝国学院、学院長室にて。セヴラールは事の顛末を学院長に報告していた。
過去の因縁を清算するため、セヴラールとベレスが中間試験を利用した決闘を行っていたこと。ベレスが試験内で不正を働いていたこと。そして大型召喚獣、ケルベロスの召喚について。
すべてを聞き終えた学院長はため息をついて口を開いた。
「なるほど、ご苦労だったね。疲れているところ申し訳ないが、最後に一つだけ質問を。現在学校医の治療を受けているベレス君の怪我について、説明がなかったようだが?」
「……アイツの脇腹を刺したのは俺だ。あの時は、一刻も早くニーナの……生徒の救出に向かいたかった。他に言いたいことがないなら、これで失礼する」
セヴラールは刹那の逡巡を経て事実とは異なる報告を行った。学院長はそれを怪訝そうな表情で聞いていたが、最終的には頷いてセヴラールに退室を促す。
「そうか、わかったよ。引き留めて悪かったね」
「いや、構わないさ」
セヴラールは手にした報告書の束を学院長に差し出し、学院長室を後にした。直後、廊下の影が蠢き一人の少女がセヴラールの眼前に立ち塞がる。少女の藍色の瞳は困惑に揺れていた。
「……なぜ、本当のことを言わなかったのですか。ベレス・ラシアイムは私が……」
「皆まで言うな。アイツを刺したのは俺だ。そういうことになったんだよ。お前は何もしていない。だから、何も背負わなくていい」
ノエルの言葉を遮り、セヴラールは苦笑する。そもそもノエルにベレスを刺すよう命じたのはセヴラールだ。その罪はセヴラールのもので、ベレスとて生徒に刺されて瀕死の重傷を負ったなどと自分の格を下げるようなことはわざわざ言わないだろう。
「で、今日は何の用だ?」
「……我が主の推薦状を受け取りに参りました」
ノエルは明らかに納得していない様子だったが、大人しく引き下がると本題を切り出した。
「あぁ、あれか。もちろん、用意してある。これでいいんだろう?」
中間試験終了後、アルヴィスがセヴラールに要求した代償は自身の推薦状を書くというものだった。アルヴィスの希望進路である《研究所》に就職するには、学院在学時に二名の教員から推薦状をもらわなくてはならない。だが、頻繁に暴力沙汰を起こすアルヴィスに自身の名で推薦状を書いてくれる教員は一人も存在しなかった。そのため、今回アルヴィスに借りを作っているセヴラールが彼を推薦することになったのである。
「ありがとうございます。では……」
ノエルはセヴラールに一礼すると、一瞬で影の中へと姿を消した。




