私は魅了使いの義妹。やっと本当の愛を手に入れられた。-いえ、それって本当の愛かしら?-
ルディアは牢に入れられていた。
魅了の魔術を使って、このカルド王国のレッドル王太子殿下や、騎士団長子息、宰相子息を魅了していた罪である。
レッドル王太子と共謀し、自分の異母姉、プリメリア・カレドリス公爵令嬢を婚約破棄した上、やってもいない罪で、断罪しようとした罪。
プリメリアはレッドル王太子の婚約者だった。
銀の髪を持ち、生まれながらにして高位貴族の令嬢として、気品を備えたプリメリア。
羨ましかったのだ。
未来の王妃になる異母姉が。
自分はカレドリス公爵家に引き取られて。もちろん、父の血は引いている。母が違うだけだ。
自分だって貴族である。それなのに。
引き取られる15歳まで市井で育ったルディア。
17歳の生まれながらの貴族であるプリメリア。
あまりの違いに、落胆した。
だから、盗った。
レッドル王太子殿下を、そのついでに側近たちも。
自分は魅了の力を持っている。
それに目覚めたのは、引き取られた後だ。
だから、使った。
自分の方に向いて貰う為に。
父も母も、公爵家のメイドや使用人達も。
王立学園の皆も、レッドル王太子もその側近たちも。
皆に愛されたかった。
生まれながら、全てに恵まれている義姉。プリメリアを陥れたかったのだ。
だから、だから、だから、魅了を使った。
自分に関する人達に貪欲に魅了を使った。
だから、後悔はない。私はたとえ、首が落とされようが、何をされようが後悔はない。
ルディアは笑った。
「私は愛されていたの。お義姉様よりずっとずっと愛されていたの。だれよりも愛されていたの。だから後悔はない。同じお父様の子で、なんで違うのよ。ずるいと思ったの。だから、魅了を使った。後悔はないわ。後悔はない……」
「本当に後悔はないのか?」
牢の外で声がした。
よく知っている男、レッドル王太子殿下だ。
「レッドル様。何故、ここに?貴方様は私に魅了を使われて、連れていかれたはず。ここにいるのは幻?」
レッドル王太子は牢の前で腰を下ろして、話しかけてきた。
「私はね。恋を知らなかったんだ。だから、魅了をかけられていたと聞いた時はがっかりした。だけど、今は魅了を封じられているのだろう?それでも、私の心には君への想いが残っている。もちろん、プリメリアには謝罪した。私は王族を降りて市井へ下るよ。こんな気持ちで未来の国王になれない」
「ごめんなさい。私のせいなのね」
「ああ、全てを失っても、後悔はない。有難う」
レッドル王太子は去って行った。
次に来たのは騎士団長子息ハリスと、宰相子息チャールズだ。
「ああ、こんな所に閉じ込められて。かわいそうに。何も出来ない私を許してくれ」
「君と過ごした日々は幸せだったよ」
二人にそう言って貰えて、ルディアはあまりの嬉しさに涙した。
「有難う。ハリス様。チャールズ様」
幸せだった。
魅了を封じられても、自分はこんなにも愛されているんだ。
両親から手紙が来た。
自分の事を凄く心配してくれている手紙だ。使用人達も、心配してくれている。
嬉しい嬉しい嬉しい……
「どう?貴方の満足した人生は」
義姉が牢の前に立っていた。
「お義姉様?」
「すべては魔術師団が見せた幻なのですわ。貴方が引き取られた時から、魅了の持ち主だって解ったの。だから、王宮の魔術師団に引き渡した。どう?偽りの学園生活は。どう?貴方の前に現れたレッドル様も、ハリス様も、チャールズ様も皆、“まぼろし”。わたくしは自分が虐げられるのをヨシとしないのよ。だから先手を打ったの。貴方は幻の中で幸せを夢見ていた。そんなにわたくしは憎まれていたの?」
「え?噓でしょ。私は皆に愛されていたの。愛されていたはずなの。それが皆?幻だったと言うの?」
「まぁ、いいわ。わたくしは実際にはレッドル様に婚約破棄を言い渡されてもいない。わたくしを陥れるような義妹はわたくしはいりませんの。魅了をどう使うか、魔術師団の研究に役立ったことでしょうし。さようなら。わたくしに害を及ぼす義妹なんていりませんわ」
何で何で何で……
私は愛されていたのではなかったの?
全てお義姉様の手の平で転がされたって訳?
「いやぁーーーーーっ。わ、私はどうなるの?」
「そうね。まだまだ魅了の研究途中だそうだから。また、貴方の都合のいい幻を見るといいわ。今度はどんな魅了を使うのかしら。貴方が王妃になって、国民全体に魅了の力を行き渡らせる幻もいいかもしれないわね」
「幻に終わらせるにはもったいない。魅了も使い所が決まったよ」
「これは、王弟殿下ファリス様」
優雅なカーテシーをするプリメリア。
やり手と言われている王弟ファリス殿下。
ルディアは鉄格子を両手で持って、叫んだ。
「私は幻はもう嫌っーーー。お願い。私は愛されたいの。愛されたいのよーー」
「だったら、この力を隣国の敵兵に使ってくれ。隣国との戦で、捕虜を500人、捕まえた。片っ端から魅了を使うがいい。お前がこの王国で役に立つというのなら、幻から解放してやろう」
「解放してくれると言うのなら何でもやるから、ここから出してっーー」
こうしてルディアは牢から出されることになった。
隣国とは今、戦の最中だ。
ルディアは国境へ行き、隣国から捕まえた兵士達に魅了をかけて洗脳する日々。
皆、ルディアの事を女神様と崇めてくる。
ただ、この魅了は相手と目をしっかりと合わせないと、相手の身体に触れて呪文を唱えないと発動しない。
だから、大変だった。
「夢の中でも、いちいち、目を合わせて、相手に触って呪文を唱えていたわね」
そんなある日、隣国との国境で働くルディアに、王弟ファリス殿下が労いにやって来た。
「お疲れ様。あ、私には魅了は効かない。魅了封じの腕輪を着けているからね。それに王族に実際に使ったら今度こそ、君を処刑しなければならない。私の権限で君の命を助けたのだからな」
「私の命を助けてくれて有難うございます。でも、きりがないですね。隣国は次々と兵を送り込んで来ますし」
「それでも、我が王国が生き残る為にはやらねばならない。頑張ってくれて有難う」
労いが嬉しかった。
自分は大罪を幻の中で犯したのだ。
義姉憎さのあまり。愛が欲しいが為に。
私はお義姉様が妬ましかったのね。
戦場で兄弟で従軍している兵士がいる。
その兵士達はとても兄弟仲がいい。
互いを労わって、食料を分け合ったり。
そんな姿を見ていると微笑ましくなる。
そういえば、市井で暮らしていた時に、妹みたいに可愛がっていた子がいたな。
あの子は幸せになったのかしら。
私もお義姉様に歩み寄っていれば、少しはお義姉様との関係も違ったものになったのかしら。
一生、義姉は自分を許してくれないだろう。
いずれは王妃になる義姉プリメリア。
だからこそ、自分はこの王国を守る為に魅了を使い続ける。
捕まった敵国兵士を魅了し続ける。それが自分の犯した罪の償いになるのなら。
そして、3年後、ルディアは19歳になっていた。
やっと戦も終わって、隣国との和解が成立し、ルディアは王都へ戻って来た。
王弟ファリスが、ルディアの監視人を申し出て、ルディアは王弟ファリスの館で住むことになった。
「よく魅了を使って働いてくれた。有難う。ルディア。ゆっくり我が館で身を休めてくれ」
「こちらこそ、私のような大罪人を助けて、使って下さり有難うございます。私で役に立つことがあれば、こらからも魅了を使いたいと思います。」
隣国との平和になった時点で、自分がかけた兵達の魅了を解いた。彼らは自国へ戻っていったのだ。
「私はルディアの事が好きだ」
「え?」
「好ましく思う」
突然の告白に驚いた。
魅了を使ってはいないはずだし、魅了は効かないはずだ。
ルディアは聞いてみる。
「熱でもあるのではないですか?」
「君の仕事ぶりに、ね。心がときめいた。それに私も君と同じだよ。兄が羨ましくて仕方なかった。兄はとても優秀だ。王国民に慕われている国王陛下だ。父も兄や弟、妹ばかり期待して、私はあまり期待されていなかった。それにね。私だけ側妃の息子なんだ。弟も妹もそして兄も正妃の子でね。私は父の愛が欲しかったんだ。
愛に飢えていた君の気持ちがよく解ってね。義姉であるプリメリアの事を妬む気持ちも。他人事とは思えなかった。だから君を助けたいと思ったんだ。愛している。ルディア。私の妻にならないか?」
嬉しかった。自分は魅了を使わないで、王弟殿下に愛を告白して貰えた。
だが、ルディアはぺこりと頭を下げて。
「とても嬉しく思います。でも、私、義姉に償っていません。頭を地に擦り付けても義姉に償わなくては。義姉に許して貰ったら、その時は……」
義姉プリメリアは許してくれないだろう。
そう、自分は大罪を犯した。幻の中で、義姉に対して大罪を犯したのだ。
そんな自分が王弟殿下と幸せになれるはずがない。
なってはいけない。
ルディアはレッドル王太子殿下と、今や王太子妃となったプリメリアに会いに行った。
二人に向かって謝罪する。
「国境から戻りました。本当に申し訳ありませんでした。幻の中での大罪。お二人を陥れた私は悪女です。本当に本当にごめんなさい」
プリメリア王太子妃は近づいて来て。
「反省しているのなら良いのです。ただ、これから先、貴方とは顔を会わせたくありません。わたくしの気持ちわかるでしょう?」
「本当にごめんなさい。いえ、謝っても許されない。解っております」
レッドル王太子殿下が、
「叔父上から、ルディア嬢に対して、責任を持つと言われている。王太子命令で命じる。
これは父、国王陛下の承認も得ている。もちろん、叔父上の願いでもある。ルディア・カレドリス公爵令嬢。ファリス王弟と共に、諸国を巡って色々と見て、報告して欲しい。それがお前の大罪を償うこれからの生き方だ」
「ファリス殿下を巻き込む訳にはいきません」
ファリス王弟殿下が広間に入って来る。
ルディアの手を優しく取って、
「私と一緒に来てくれるか?この王国の為に共に働こう。色々な国を巡って。大変だろうけど、ルディア。よろしく頼む」
そんな生き方をしていいの?私のような女がそんな恵まれた生き方をして。
義姉プリメリアは、
「王国の為、よろしくお願い致します。スパイをして来いと言う訳ではないの。諸国がどんな生活をしているか。どのような政治をしているか。しっかりと調べて報告をお願いするわ」
ルディアは頭を下げて、
「解りました。レッドル王太子殿下、お義姉様。私はファリス王弟殿下と、共に諸国を巡る旅に出ます」
3日後、馬車に乗り、王都を出発するそんな晴れた日。
ファリス王弟殿下と馬車に乗り込むルディア。
しばらく王国に戻れない寂しさと、愛しい王弟殿下と共に居られる喜び。
ファリス王弟殿下はルディアの頬にキスをして、
「君との旅は楽しみだ。これからよろしく頼むよ」
「私こそよろしくお願いします」
「そうだ。プリメリア王太子妃から預かって来た」
白いハンカチに黄金の薔薇の刺繍がしてあって。
この王国では旅の無事を祈る黄金の薔薇。
こんなひどい義妹でも、義姉が旅の無事を祈ってくれた。
涙が零れる。
愛しいファリス王弟殿下が優しく抱き締めてくれて。
私はやっと本当の愛を手に入れられた。
ファリス王弟殿下にも愛されて。
お義姉様にも想って貰えた。
とてもとても幸せで……
そんなルディアの心を祝うかのように、空は青くどこまでも晴れ渡るのであった。
☆☆☆
プリメリア・カレドリス公爵令嬢。
レッドル王太子殿下の婚約者として、長年に渡り王妃教育を受け、婚約者として高位貴族の公爵令嬢として恥じないように、誇り高く生きてきたプリメリアも、今は17歳。
花が咲き誇るような美しき令嬢に育った。
両親にも愛されて、何不自由なく育ったプリメリア。
そんなプリメリアは、今、ベッドに眠っている一人の女性を睨みつけるようにして見つめている。
父が市井の女に手をつけて産ませた異母妹、ルディア。
15歳のルディアを父が公爵家に引き取ると言って、連れてきたのだが、その際にルディアが魅了持ちだという事が判明した。
自分に優しかった父や母の態度が一変したからだ。
使用人達の態度もである。
プリメリアを無視して、ルディアばかり可愛がるようになった。
だから、レッドル王太子殿下に相談した。
そうしたら、王宮の魔術師団を派遣してくれて。
両親や使用人達は、ルディアに魅了をかけられていると判明したのだ。
だから、ルディアを拘束して、王宮へ連れ去った。
そして、今、厳重な警備の中での一室で、ルディアは夢を見ている。
その夢は枕元にある水晶玉に映されていて。
父母に甘え、自分の持ち物を取り上げるルディア。
レッドル王太子殿下や側近たちに擦り寄り、自分の悪口をいい、虐げられていると言って、
卒業パーティで断罪を企んで、にんまり笑っている。
自分を憎んでいるようで。
わたくしが貴方に何をしたというの?
水晶玉の、夢の中で、プリメリアが問いかければ、ルディアは笑いながら、
「お義姉様は生まれながらにして恵まれていてずるいわ。だから、私に頂戴。ドレスも宝石も全部頂戴。王太子殿下の婚約者にも私がなってあげるわ。だから、お義姉様は、むごたらしく死ねばいいのよ」
水晶玉の中で、醜く顔を歪めて笑う義妹。
許せない。そう思った。
だから、水晶玉の中での卒業パーティで、プリメリアに罪を着せて、断罪したところで、眠らせていたプリメリアの意識を呼び戻し、牢へ叩き込んだ。
これ以上、水晶玉を見ているのは耐えられない。
我儘で勝手な義妹に殺意を覚えた。
牢の中で、義妹ルディアが喚いている。
「ここから出してよ。私が何をしたというの?」
まるで反省している様子はない。
だから言ってやった。
今まで貴方がしてきた事は全てまぼろし、貴方が夢で見ていた事よ。
と言ってやった。
義妹は、ただただ驚いて、
「え?噓でしょ。私は皆に愛されていたの。愛されていたはずなの。それが皆?幻だったと言うの?」
「まぁ、いいわ。わたくしは実際にはレッドル様に婚約破棄を言い渡されてもいない。わたくしを陥れるような義妹はわたくしはいりませんの。魅了をどう使うか、魔術師団の研究に役立ったことでしょうし。さようなら。わたくしに害を及ぼす義妹なんていりませんわ」
怒りに任せて言ってやった。
こんな義妹、わたくしと血が繋がった義妹ではないわ。
憎しみが沸き起こる。
そこへ声をかけてきたのが、王弟ファリス殿下だった。
「魅了だって使いどころがある。私に任せてくれないか?戦で敵国の兵を洗脳するのに使わせてもらおう」
ファリス殿下は国王陛下の弟君で、30代後半だけれども、まだまだ若々しくて。
何故か結婚していない。
胸が痛い。ファリス王弟殿下はプリメリアの初恋だった。
王宮で父に連れられて、レッドル王太子殿下に会いに行くときに、緊張している自分に廊下で優しく声をかけてくれたのだ。
「そんなに硬くならなくても、兄上達は取って食べたりはしないよ」
サラサラの金の髪を背で結んで、優しく微笑んでくれたファリス王弟殿下。
当時、10歳のプリメリアは、胸がときめいた
だが、その日、国王陛下の命で、同い年のレッドル王太子殿下との婚約が結ばれてしまった。
わたくしは、ファリス王弟殿下と結婚したかった。
幼心にそう思ったのだ。
だから、レッドル王太子殿下との婚約者としての交流、週に一度の茶会も、何だか心が弾まなかった。
レッドル王太子殿下は良い人だ。
気さくに自分に接してくれる。
大変な王妃教育にも、労いの言葉をかけてくれて。
「プリメリアは頑張り屋さんだな。私なんてまだまだ、国王になるための教育なんて難しくて。でも、愚痴を言ってられない。だって弟達にとって代わられたらいやだからね。私は国王になりたいんだ」
「国王にですか?」
「ああ、誰だって国王になれる訳じゃないだろう?この王国のトップだよ。出来る事は沢山ある。私はこの国を良くしたい。だから協力して欲しい」
「ええ、わたくしでよければ」
そう、とても良い人。お日様のように眩しい人。
わたくしの心は初恋に縛られているというのに。
ファリス王弟殿下は、優れた方で、国民にも人気があって……
女性達にもモテるはずなのに、何故かいまだに結婚していなくて。
誰か好きな人がいるのかしら。
気になって気になって仕方がない。
王宮に来るときはつい、目で探してしまう。
叶わぬ恋。そんな自分が嫌で嫌で。
そんな心を抱えたまま、義妹の事があって。
ファリス王弟殿下が、義妹ルディアの事を引きうけるという。
ルディアはファリス様と一緒にいるの?
貴方はわたくしを陥れようとしたのよ。水晶玉の夢の中で。
憎い義妹。本当に憎過ぎて許せない……
「国境から戻りました。本当に申し訳ありませんでした。幻の中での大罪。お二人を陥れた私は悪女です。本当に本当にごめんなさい」
あれから、三年過ぎた。
プリメリアはレッドル王太子と結婚して王太子妃となっていた。
国境で、戦の最前線で兵士たちを洗脳していた義妹ルディアが王宮に挨拶に来て、謝罪してきた。
「反省しているのなら良いのです。ただ、これから先、貴方とは顔を会わせたくありません。わたくしの気持ちわかるでしょう?」
「本当にごめんなさい。いえ、謝っても許されない。解っております」
本当に憎くて憎くて。
でも……
レッドル王太子殿下がルディアに、
「叔父上から、ルディア嬢に対して、責任を持つと言われている。王太子命令で命じる。
これは父、国王陛下の承認も得ている。もちろん、叔父上の願いでもある。ルディア・カレドリス公爵令嬢。ファリス王弟と共に、諸国を巡って色々と見て、報告して欲しい。それがお前の大罪を償うこれからの生き方だ」
「ファリス殿下を巻き込む訳にはいきません」
ファリス王弟殿下が広間に入って来る。
ルディアの手を優しく取って、
「私と一緒に来てくれるか?この王国の為に共に働こう。色々な国を巡って。大変だろうけど、ルディア。よろしく頼む」
プリメリアは、ここは王太子妃としてしっかり対応しなくてはと、ルディアに
「王国の為、よろしくお願い致します。スパイをして来いと言う訳ではないの。諸国がどんな生活をしているか。どのような政治をしているか。しっかりと調べて報告をお願いするわ」
と言葉をかけた。
ルディアは頭を下げて、
「解りました。レッドル王太子殿下、お義姉様。私はファリス王弟殿下と、共に諸国を巡る旅に出ます」
そう、前日、レッドル王太子殿下と、ファリス王弟殿下の話を聞いてしまった。
ファリス王弟殿下は、酒を飲みながら、
「ルディアは役に立ってくれた。私とルディアと共に他国を回る旅に出して欲しい。まだまだあの女は役に立つ。私が愛を囁いて、あの女と結婚して、こき使ってやるよ」
レッドル王太子殿下は頷いて、
「有難い事ですが良いのですか?王国を離れて旅に出て」
「構わない。私に人気が集まっては兄上もよくは思わないだろうから、丁度良い」
こき使ってやる?
ルディアの魅了を利用して、ファリス王弟殿下はルディアの事を愛していないの?
利用するためだけに結婚するの?王国から旅に出るの?
薔薇の刺繍がしてある白いハンカチを、ファリス王弟殿下に手渡して、
「どうか、無事に旅が出来ますように。お守りをお渡ししますわ」
「有難う。プリメリア。有難く頂いておこう」
どうか、ファリス王弟殿下の旅が無事でありますように。
レッドル王太子に、苦情を言われた。
「妬けるな。そなたの初恋が叔父上だと知っているからこそ。それにしても、どうしてもルディア嬢は許せないか」
「許せませんわ。わたくしの初恋の人と結ばれるのです。わたくしと貴方に害を与えた女ですわ。水晶の夢の中で。あの夢がまぼろしでなかったら、わたくしは破滅していた事でしょう。許せるはずはないでしょう」
「それでも、表面上は許してやるのが、王太子妃としての器だ」
「解っておりますわ。あのハンカチ、きっと妹の元へ渡されるのでしょうね。わたくしからだと言って」
背後からレッドル王太子殿下が抱き締めてきた。
「なぁに。叔父上は当分帰らない。その間に、もっと私に夢中にさせて見せる。過去より、未来を見て行くことがこれからの人生、大切だろう?」
ああ、この方は、やはりお日様のようなお方。
わたくしにはもったいないお方。
「そうですわね。でしたら、貴方、わたくしを夢中にさせて下さいませ」
義妹が利用されるためだけに、偽の愛を囁かれる。
それとも優しいファリス王弟殿下が、自分を気遣って利用してやると嘘を言ったのか、解らない。
でも、もういいの……
過去は振り返らない。わたくしには未来があるわ。
レッドル王太子殿下と口づけを交わす。
窓の外から初夏の風が入って来て、プリメリアは愛しい人を抱き締め、幸せを感じるのであった。