高橋さん(神様歴1年3ヶ月。時給1000ゴッド)
高橋さん(♀・26歳独身)の話です。
高橋さん|(神様歴1年3ヶ月。時給1000ゴッド)
「おい高橋! てめぇ仕事遅ぇんだよ。この程度の仕事、いつまでやってやがる。次のプロジェクトが控えてんだぞ」
私を怒鳴りつけているこの男は、鈴木。女心の欠片も分からない、いい中年親父だ。一応神界ではエラい第三級神という事になっている。意外と権力を持っていて、人間界の赤ちゃんの出生許可を降ろすのはこいつという決まりになっている。
人間の姿というのは私達神様と同じような姿をしているので、私は人間の赤ちゃんは可愛くて好きだ。だからどんどん出生させてもいいと思っている。でも鈴木は気まぐれに出生許可を降ろさなかったり、出生させても不幸になるような境遇ばかり選んでいる。意地悪な奴だ。そういう夫婦の元に生まれる事になった赤ちゃんは可哀想だとも思う。
「おい聞いてんのか! このアマが。さっさと人間界に雨降らして来い。そんな事くらいは出来んだろ」
「……はい」
私は渋々、最下級神でも出来るレベルの簡単な仕事に向かった。デスクのコンピュータに、パスワードを入力する。すると不思議な事に人間界ではこのプログラムを解除するまで雨という液体が降り続けるらしい。これはかなり高度な技術を持って作られたプログラムらしく、仕組みを知っているのは神界でも上層部。一部の第一級神だけだ。
「さて、そろそろ次のイベントの時期だ。明日あたり、二○十二年の世界崩壊イベントの会議すっぞ。今日中に資料を用意しておけ」
鈴木は意気揚々と、スーツの上着を脱いで煙草を吸うために席を立った。良かった。あいつと同じオフィスにいるかと思うと吐き気がしてくる。今の内に明日の資料を作ってしまおう。鈴木が戻ってくるとまたくだらない事にいちゃもん付けてきて仕事にならないから。
「二○十二年の世界崩壊イベント、ね。全くもう……千九九九年の時にも同じようなプロジェクトを鈴木がやろうとしてたって聞くし、あいつって一体何なの? そんなに人間界崩壊させるのが楽しいのかしら」
資料の内容は勝手に変えた。二○十二年には人間界に、お金の雨を降らせてやろう。そうすれば人間達も喜ぶに違いない。
「ま、鈴木の事は社長が何とかしてくれるでしょう。あんな奴、神様の風上にも置けないわ。腋臭だし、中年太りだし、眼鏡に円形脱毛症。おまけに加齢臭の混じったあの息の臭い。あんなのがいつまでも上司だなんてマジやってらんない」
本物の神様なんて楽じゃない。求人情報のポットペッパーで『本物の人間界の神様、やってみませんか? アットホームな楽しい職場です。時給、日勤1000ゴッド。夜勤1200ゴッド』だなんて記事見つけたばっかりに。アタシの神生、こんなちっこいオフィスで終わるのかなぁ。ま、時給は高いけど、所詮バイトだしなぁ。
とりあえず、人間界崩壊させるのは私は反対だ。あんな鈴木の考えなんか撥ね退けてやる。
やっと今日の勤務も終わった。これから雲列車で一時間半も揺られて帰らなきゃならないんだ。はぁ、職場遠いなぁ。あ、ヤバイ、お米切らしてた。帰りにスーパーで買って帰らなきゃ。今は……えーと、七時半だ。ラッキー! 今から行けば『スーパーぜうす』のタイムサービスに間に合う! あそこはいつも夜になると生ものや惣菜が半額になるんだ。よーし、今夜は奮発してコロッケ買ってっちゃお。
あ、なんか冷たい。ぴちゃっと。雨だ……。
『本物の神界の管理者、やってみませんか? アットホームな楽しい職場です』
俺がこの求人情報をレストランの入り口で見つけたのは、二週間前の出来事だ。今はとりあえず、簡単な仕事を与えられている。コンピュータを操作して、一定時間おきに決まった地域に雨を降らせる仕事だ。
簡単すぎて暇だ。全く、管理者なんて楽すぎる仕事だぜ。やりがいも何もねえし、第一面白くねえ。上司もみんな遊んでやがる。仮にもここは仕事場だぞ? ゲーム機持ち込んでんじゃねえよ。職場のテレビでViiやってんじゃねえっつの。ほら課長、Viiリモコン振り回してボウリングなんかやってんじゃねえ。ていうか係長、あんたもだよ! 一緒になってゲームしてんじゃねえよ、勤務中だぞ。
「ん、いつの間にか外が曇ってきたな。雨でも降りそうだ……」
2nd Evolution に続きます。