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シリーズものです。
「ありがとうね、一色くん」
放課後の教室で、僕は藍上くんと一緒だった。
図書館で会うようになって、会話するようになって、顔見知り以上の関係になってきた。
そんな彼が放課後、1人で委員の作業をしていたのを見てしまった。僕は手が空いてたので、手伝うことに決めたのだ。
「いいよいいよ」
書類の整理をしながら僕は答えた。
「いつもこんなたくさん1人でやってるの?」
机をくっつけて対面になっている彼に向かって尋ねる。
「はは、今回はたまたま先生に頼まれてね」
「生徒に押し付けんなよって話だよね」
「先生も忙しいんだよ、きっと」
「優しいね」
僕は整えた書類を重ねて机にトントンと落としてキレイに纏めた。
「はい、できたよ」
書類の束を彼に手渡す。
「ありがとう」
彼は持っているシャーペンを置いて受け取った。
「おかげで早く終われるよ」
これで僕の手伝いは終了だ。本来ならこのまま帰宅するところだ。
「ねえ、少しお話ししない」
僕は机に両肘を置いて話しかける。
「え、僕と?」
「藍上くん以外他にいないじゃん。折角なんだしさ」
「でも僕そんな面白い話できないよ」
「いいからいいから」
僕は少し強引に会話を始めさせた。
「こ、こういうことになると何話せばいいかわからなくなるね」
彼は困った顔で弱弱しく言った。
「そういう時は訊きたいことを訊けばいいんだよ。それか相手を見て思ったこととか」
「え、えーと……。最近一色くんの周りは賑やかだよね」
「あー、やっぱり目立ってた?」
「うん、僕ですら知っているくらいだから」
「どういう風に見られているかな」
「うーん、そうだね。みんな羨ましがっていたね。桃乃井さんと仲良くしていたし、屋上で1年生の子たちと昼食していたり、かなりリア充に見えるんじゃない?」
そう思われていることはわかっていた。でも、事実だったとわかると少しショックがあった。
「藍上くん的にはどう見てる?」
「どう、どうか……。僕もみんなの意見に概ね同意だよ。男子ならそう思うんじゃない?」
「そう……」
藍上くんは「でも……」と言った後、少し間を置いて慎重に言葉を選ぶように続けた。
「これは僕の主観になっちゃうんだけど、何か一色くんは困惑しているみたいな気がしたんだ」
僕は言葉が出なかった。
「嫌ってほどじゃないけど、辛そうというか……」
僕が無言となったことに気づいたのか、彼は慌ててフォローを入れた。
「でも、モテたことない僕が言ってるから的外れだよね」
「そ、そんなことも、ないよ」
僕は気持ちが顔に出やすいタイプだから、気づかれることはある。それは重々承知している。
藍上くんは人のことをよく見ているね。
口には出さないが、そう思った。
「あ、藍上くん、もし良かったらだけど、今度相談に乗ってくれないかな」
トオルたちとは違い、まだ関係性の薄い彼だからこそ、僕の抱えている悩みを打ち明けられるんじゃないかと、そう思った。
「うん。僕で良かったら。今日のお礼もあるしね」
彼は頼まれたら断らない。
そんな彼の優しさに僕は甘えた。
それに少しだけ自己嫌悪した。
「いつか、いつか僕が決心したら、話を聞いてほしい」
「いつでも待ってるよ」
彼はシャーペンの先をしまい、まとまった書類を取って立ち上がった。
「じゃあ、僕はこれを職員室に持っていくよ。一色くん、また明日」
僕が気まずい気持ちになっていることを察して、今日はこれで別れることを暗に提案していた。
「うん、また明日」
今僕はどんな顔で言ったのだろうか。
僕は彼が教室から出ていくのを黙って見つめていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




