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シリーズものです。

 彼女に連れられて向かったのは、近所の商店街だった。

 僕の手を引いて薫さんは何かを探すように周りを歩いている。

 心穏やかじゃない僕はドキドキしながらされるがままだ。

「お、ここにしよう」

 良い所を見つけた様に彼女は言う。

 そこはシャッターが閉められた店の前だった。

「じゃあ、準備しようか」

 彼女は背負っているギターケースを置く。

 え?ここで()()の?

 屋外ですよ。野外ですよ。人だっているんですよ。

 そ、そんな……。彼女にそんな趣味が……。

 僕は何もできず目を瞑って腹を括るしかないようだ。

「何してんの?」

 体を震わせながら直立不動の僕を見て彼女が声を掛けてくる。

 僕が恐る恐る目を開けると、彼女はハンドバッグからコンパクトチェアを出して開いていた。

「よいしょ」

 彼女は開いたギターケースからアコースティックギターを取り出す。僕の方にお尻を向けているので、僕は思わずその柔らかそうなラインを見てしまう。先ほどの邪な考えも相まって余計なことを想像してしまう。

 彼女は空になったギターケースを自身の正面に設置して、ハンドバッグから出した立札を中に置く。

 そこには、『お金はこちらに』と書かれていた。

 その時点で僕は彼女が何をしようとしているか察した。

「ほっ」

 コンパクトチェアに座り、足を交差し、その腿の上へ大きなアコースティックギターの重さを預ける。そのギターはかなり年季が入っているみたいだ。

 弦を弾き、音の出を確認する。

 音の感じが気になったのか、ペグを弄って、音を調整する。

 ボンボンボーン

 納得いく音が出せたようだ。「よし」と小声が聞こえた。

「いつもこういうことを?」

 やけに手慣れた動きに思わず訊いてしまった。

「ん?そうそうたまにこうやって路上ライブやってるんだよねー。知り合いが通ったら、お金払わせて聞かせるけど、要君は特別。タダだよ」

 それがお礼の中身だろう。

「今からライブしまーす!まずはこの曲から!」

 彼女は通る人々に声掛けしてから、演奏を始めた。その曲は最近話題になったドラマの主題歌だ。

 彼女のギターは相変わらず上手い。今回はアコギだから、音色は柔らかい。バラード調のその曲と相性がいい。

 彼女も先日のライブよりも優しい歌声を披露している。

 道行く人々が時折立ち止まる。そのうちの何人かは近づいてきた。

 1曲演奏が終わるころには数人のお客さんが集まっていた。拍手が起こる。

「どうもありがとう。今日は色々歌っていくよ」

 彼女はそのまま2曲目に入った。

 相変わらず楽しそうに演奏する。本当に音楽が好きなんだと思わせる。

「ふー、ありがとう。ちょっとお水休憩ねー」

 そう言って彼女はミネラルウォーターを飲む。

 先ほどからずっと思っていたが、何か薫さんが艶めかしい。彼女を見ていて煽情的な気分になってくる。今の飲むしぐさも何かエッチだ。

 そういえば、聴いているお客さんは多くが男性だ。

 ま、まさか。

 彼女がデコルテを強調する服を着ているのも、ショートパンツを履いているせいで足を組んだ時に肌の露出面積が大きくなるのも、このため!?

 男性は女性のエロスにお金を払う。そういう心理を利用して!?

 彼女とふと目が合う。彼女は悪戯っぽくウィンクした。


 今日の路上ライブが終わり、立ち見のお客さんは各々散らばっていった。

「おー、今回も結構集まったね。1万いったかも」

 薫さんはギターケースの前でしゃがんで小銭や札をかき集める。胸が前腿に当たって潰れている。

「す、すごいですね。こんなに稼げるんだ」

「おや、お金稼ぎに興味津々って感じ?」

「え、あー、いや」

「確かにピアノって高いもんねぇ。……そうだ。良いバイトあるよ」

「え?」

「私が贔屓させてもらってるライブハウスなんだけどね。夏休みとか人手がなくて困ってるんだって」

「夏休みだけですか?」

「みーんな、夏フェスとか野外ライブとか行って休むんだって」

 音楽好きならそういうこともあるか。

「だから、夏だけでもいいから入ってほしいらしいよ。まぁ、私もロックフェス行くから入れないんだけどね」

 彼女は舌を出してテヘッと笑った。

「まぁ、今日決めなくていいよ。やりたくなったら聞いて」

 彼女はお金や立札をしまい、ギターとコンパクトチェアを片付けた。

「で、私の演奏はどうだった?」

 ギターケースを背負って彼女が尋ねる。

「あ、はい。とっても良かったです」

「ふふ、私の歌好きだもんね」

 「好き」の部分を敢えて強調して言った。

「え、あ、それは……」

「カワイイ」

 彼女は僕をからかうように言った。

「……やっぱりさ、今度セッションしようよ。うん、これは決定事項ね」

 薫さんは僕の鼻先を人差し指で弾いて言った。

 彼女はその後、すぐに数メートルほど駆けてから振り返った。口の横に両手を当ててスピーカーの形で叫ぶ。

「今日は付き合ってくれてありがとう!私もあなたの演奏好きだよ!バイバイ!」

 踵を返して彼女は駆け足で帰っていった。

 僕の心臓がバクバク音を立てて鳴っている。

 僕は今日1日中彼女に振り回された。その疲れが今になってドッと体を重くした。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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