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シリーズものです。
我ながら単純だと思う。
トオルに言われてから、僕はピアノを練習している。
ただ、家に置いていたピアノはもう捨ててしまった。だから僕はタブレットに入れたピアノの鍵盤アプリで練習をしていた。
それでも……。
「やっぱり実際の鍵盤を打ちたい」
タップする感触と打鍵の感触は違う。指の動きの練習にはなっても、音の強弱などは全く練習にはならない。
「……行くか」
僕は財布と携帯を持って外出した。
向かった先は楽器屋だった。
僕はピアノコーナーに向かう。グランドピアノやアップライトピアノが置いてある。
新品のグランドピアノの値札を見て、思わず顔を背けた。高い、高すぎる。高校生が買える値段じゃない。
だからと言ってアップライトピアノも安くはない。
「バイトでもするか?」
もうすぐ夏休みが始まる。短期のアルバイトならできるかもしれない。
「……いや、ダメだ。置き場所がない」
僕はピアノから離れ、楽譜や音楽雑誌を立ち読みする。
この曲なら練習すれば弾けそうだな。
へー、今度近くでコンサートやるんだ。聴きに行こう。
かれこれ1時間ほど立ち読みをしたが、近くにピアノがあるとどうしても弾きたくなる。
「仕方ない。試奏できるか聞いてみよう」
これをやると店員から購入はどうかと訊かれることがある。そういう断りが苦手な僕はあんまり楽器店で試奏はしない。でも今日はピアノを弾きたい気分だった。
僕は店員に尋ねて、グランドピアノを試奏させてもらうことができた。
ピアノ椅子に座り、グランドピアノを前にすると、スイッチが切り替わったようにやる気が起きる。
鍵盤を軽く押す。手にかかる抵抗が心地よい。
ポンポンポンとハンマーの叩く音がする。
うん、この音だ。
僕は試奏を開始する。
暗譜している曲をいくつか演奏する。
指を弾くようになめらかに流れるように演奏する。耳に入ってくる旋律が僕を音の世界に誘う。
目を瞑り、音だけを感じる。
あ、ここはもう少し音の強弱をつけた方がいいかな。今のは音が途切れないようにしないと。
弾けば弾くほどに課題や直すところが見えてくる。
でも、それが楽しい。
僕はそのまま10分試奏をした。
弾き終わると、拍手が起きた。
その相手を見る。
「か、薫さん!?」
「やぁ、要くん。いい演奏だったよ」
彼女は嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「どうしてここに」
「ここは私の行きつけなんだ」
「でもここにエレキは置いてないですよ」
彼女がバンドで演奏するエレキギターはこのお店のラインナップにないはずだ。
「私アコギも弾くんだよ」
彼女は背負っているギターケースを親指で指し示す。
「そうだったんですか」
「今度さ、セッションしない?要くんのピアノ聴いたら合わせたくなっちゃった」
彼女は近づいてきて尋ねる。少し興奮気味に前かがみになるので、胸の大きなふくらみを視線が捉えてしまった。
僕は慌てて目を逸らす。
「いや、何か今日露出多くないですか!?」
彼女はデコルテが大きく開いたクリーム色のトップスとデニムのショートパンツという男を煽るような恰好をしていた。
「あー、これ?」
彼女はさほど気にしていないようだ。見えている僕には困る。
僕の反応を見て彼女はおもしろがるようにいたずらっぽい表情を浮かべた。
「良い演奏聴かせてくれたお礼に見せてあげる」
その言葉を聞いて、僕の鼓動が一層高鳴った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




