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シリーズものです。
僕はしばらくその高身長の子と目が合った。
顔立ちは凛々しくショートカットの黒髪は、確かにボーイッシュな印象だ。
「先輩、大丈夫ですか?」
先ほどの1年生の子が僕を心配して寄ってきた。
「もう朔ちゃん、またぼーっとしてたの?」
「ん……ごめん」
彼女は感情の起伏の少ない声色で答えた。
僕は呼ばれた名前に反応した。
サク。確かにそう彼女は呼ばれた。ということは、彼女が僕の探していた紫野塚朔なのだろう。確かに高身長のボーイッシュ。典男の言っていた特徴に一致する。
「大丈夫だよ。僕の不注意だから」
僕はお尻の埃を掃う動作をしながら立ち上がった。
改めて背丈を比べる。160センチほどしかない僕の身長では、彼女の肩の位置までぐらいしか届かない。
そうなると、どうしても僕の視線の先は彼女の胸の位置になってしまう。
わざと見ているわけではないが、気持ち的な罪悪感によって視線を外した。
「あー、僕は2年の一色要」
彼女の名前を聞き出す意図を込めて尋ねる。
「……朔」
彼女は不愛想にそう答えた。
あまり、先輩に物怖じしない子だ。いや、興味がないだけなのかもしれない。
「もう!朔ちゃん。先輩に対してその言い方はダメだよ」
むしろ周りが怖くなって口出ししてしまう、見ていてヒヤヒヤするタイプのようだ。
「ごめんなさい、先輩。朔ちゃん話すの苦手で」
彼女は朔のフォローをする。
「いいよいいよ、僕は気にしてないから」
僕は軽く笑って答えた。
「それにしても、朔さんは背が大きいね」
とりあえず、話題を出して彼女との会話を繋ぐ。
「うん……」
あんまり効果はないようだ。
「僕の友達のトオルと同じくらい大きいよね?」
「……だれ?」
おっ、食いついた?
「あっ、そうか。当然知らないよね。僕の友達でね、もしかしたら見たことあるかも。時々男バスで助っ人やってる背が高い奴なんだけど……」
「うーん、あー、いたかもー」
斜め上を見ながら思い出したように彼女は言った。
「そうか!見たことあるんだ!多分そいつだよ。見たことあるんだね」
「うん。なんか。私と同じ。高い人いるなって」
「朔ちゃん、部活動はしっかりやらなきゃダメだよ」
保護者ちゃんが朔を注意する。
なんとなく見えてきた。いや、話せば誰でもわかる。彼女はいわゆる天然で、男に色恋を向ける気は1ミリもない。
ただあの時、ノッポで目立つトオルを茫然見ていただけだった。
僕の心配が払拭された辺りで彼女は唐突に言った。
「あっ、準備」
そう言って彼女は自身の教室に向かってしまった。
これは僕の推測だが、恐らく彼女は部活動の準備に行ったんだと思う。1年生は大抵、上級生の先輩が部活に来る前に、部活動ができるように道具やボールやバレー部だったらネット張りとかやらされているんだろう。本来こんなところで道草を食っている暇はないのだ。それを思い出して彼女は向かったはずだ。
僕は何となく真実が見えて安心した。これ以上ここにいる理由もない。
僕も自身の教室に帰るとしよう。
「す、すごいですね。先輩」
保護者ちゃんが感嘆の声を上げる。
「あの朔ちゃんとあんなに話せるなんて……」
あれは正直会話というより対話だと思う。
それでも彼女は感動しているみたいだ。
「はは、そうかな」
僕は当たり障りのない返事をした。
「あの、先輩。できればまた朔ちゃんとお話ししてあげてくれませんか?」
「え、あー、うん。まぁ、また機会があったら……」
「ありがとうございます」
彼女は礼儀正しくお辞儀をした。本当に彼女の保護者のようだ。
僕は「またね」と軽く手を振りながら階段を駆け上った。
廊下を歩きながら思う。
今回理解したことが1つある。それは、紫野塚朔はちょっと変わった子だということだ。
ふふ、おもしれー女。
テンプレみたいなセリフを自分で思って、つい失笑してしまった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




