8、俺も連れてけよ
四年が経った。
四年も、四年しか、どちらだろうな。
俺はどちらにも感じたことがあった気がするし、どちらとも違ったことがあった気がする。
四年前の、今日、アイツはいなくなった。
目の前から消えた。
誰に話しても信じてもらえなかった。
突然目の前から人が消えた、と言ってもなかなか信じられることじゃないのは理解出来るけど、消えたんだ。
それ以外の言葉は見付からなかった。
アイツと一緒に消えた女と揉めていた男なら証言出来るんじゃないかと捜した。あの階段にも何度も行った。SNSで呼び掛けてもみた。
結局、見付からなかった。
女は上から落ちてきたから、男が突き飛ばした可能性がある。だから、名乗り出ないのか。
突き飛ばしてすぐに逃げたなら、あの瞬間を見ていないということもある。
もし、アイツの手を掴んでいたら。
落ちる覚悟で踏み出せていたら。
今なら、一緒に消えても良いと思えるのに……当時は何もかもが半端だ。いや、思うだけで何も出来ていないから、今も半端なままか。
あれから、あの階段と家とを何往復してきただろう。アイツの消えた時間、何か起きるんじゃないかと行く為に学校もサボった。
アイツが知ったら怒るだろうな。
そう思って、学校に行ったらアイツのことを何度も聞かれて……アイツがいないことを更に実感することになって虚しいだけ。
中学はその虚しさに堪えられなくて、あの階段に行く以外は引き籠った。
高校受験は一応した。
アイツが制服が可愛いっ言って、行きたがっていた高校。
通ってはいるが、退屈な時間でしかない。
進級、卒業が出来る程度に学校に行って、試験も文句を言わせない点を取って、空いた時間にあの階段に行く。
空いていなくても、今日、この時間は行くけどな。
サボリは決定。
制服だから、声を掛けられない様に注意して向かった。元から人通りの少ない場所な上、平日だからより人が通ることは少なくなる。そちらに入ってしまえば、問題無い。
男と女が言い争っていたのはここだったとか、アイツがどんな話題を振ってきたとか、俺がその時何を考えていたとか、思い出す。
あの瞬間、立っていた場所に立って、アイツが上から落ちてきた女にぶつかって巻き込まれて一緒に落ちていく姿が、今でも鮮明にこの目に焼き付いている。
親や周りから夢だろうと、家出したか、何か事件に巻き込まれて帰れなくなったのだろうと何度も何度も言われて、そう思おうとした時期もあったが、最終的には自分の目で見たものを信じることにした。アイツなら、そうするから。
それに、もし家出だったら、家出の原因に対しての文句をメモや手紙に残す奴だ。なんだったら、一枚で終わらず複数枚延々と文句を並べる。
事件に巻き込まれたなら、何か必ず残す。
大人しく、なんて有り得ない。
俺が好きになった奴は、そういう馬鹿な奴だから。
「なぁ、嵐……お前は今どこにいるんだ?」
何処かにいるなら、帰って来い。
じゃなかったら……
「俺も連れてけよ」
いつもみたいに。
【嵐が何処で吹き荒れ様と太陽はそこに在る】