7、彼らの言った“数年”
王都の港が見えてきた。
この港から旅立って、何度も何度もこの港に帰ってくる。
見慣れた様で、何処かまだ夢の中にいるみたいなふわふわ気持ちになる。
船の生活と、陸で隠れ住む生活。
どちらがキツイかと言われたら、どっこいどっこいだろう。
荷を船に乗せて運ぶだけ、なんてみんなは簡単に言うけど、湿気れば海は荒れて船が沈むんじゃないかと毎回不安になるし、荷を狙う海賊に襲われることも度々。命の危険はどちらも常にあるんだから。
でも、海賊に船が襲われた時は海賊以上にソリスが怖いかな。アイツは海賊以上の海賊だわ。
貴重な筈の魔鉱物を惜しみ無く使って返り討ちにした上、軍に引き渡す前に海賊のお宝をちゃっかり頂いてるからね。魔鉱物に頼らなくても強いし。
私はソリスにへばり付いて守ってもらってきた。怖いけど、味方と思えば、これ以上ないってぐらい頼りになるもん。
そんな時はお荷物になってるけど、私だって役に立つ時もありますよ!
勘、っていうのかな。雨が降りそうだったり、嵐が来そうな時はわかるんだ。大体、遅くても前日にはこうなりそうって思うの。
だから、その港で雨が降りそうだったら前日には船を出したり、海の上なら対策して嵐に備えたり。
百発百中だから、今ではみんな聞きに来る。
今回も明日には雨が降るだろうと思って、今日中に港に着ける様に調整してきた。
「で、お前、陸に上がるって本気か?」
何が、で、なのかわからないけど、前から言っていたことだ。
「もう大丈夫じゃない?誰も私がそうとは思わないよ」
似顔絵付きの手配書が出回っちゃったんだけど、それがびっくりするほど似てないの!
びっくりするほどブスに描かれていた!
子供のラクガキの様な絵じゃないよ。
絵描きさんは上手い人とは思う。
ものすっごい性格悪そうにも見える描き方されてて、その手配書見た時は船のみんなには思い切り笑われたからね。似てなくて良かったなぁ~、って。
それは良かったけど、あのバカ王子様達にはそう見えてたってことか?
美人ではないのはわかる。ただ、似顔絵ほど顔は潰れていない!もっと目もぱっちりしてるし!
私を見たことある軍人さんは何人もいるだろうから、王都では船から出ない様にしていた。
それから、だいぶ成長したもの。そろそろバレる可能性低いんじゃないかなぁと思う訳ですよ。
この世界に馴染んだ格好だしね。
少し背も伸びたし、髪も伸ばした。ボインにはなっていないけど、出るところは出て、締まるところは締まった。
なかなか良い女になったんじゃない?
……いや、ダメだわ。船のみんなは可愛い可愛いしか言わないから、美女の基準がわからんくなる。
「それにソルも一緒に来てくれるんでしょ?」
「お前一人行かせる訳にはいかねぇだろ」
「なら大丈夫!」
ソルは、ソリスの愛称ね。
そう呼んで良いって言ってくれたから、早くからそう呼んでる。
とにかく、王都観光だ!
軍人さんは怖いけど、ソリスが一緒にいてくれたら何とかなりそう。
賑やかで色んな店があるのに行けないなんて苦痛だった!
もうそろそろ我慢しなくても良いだろう。
港に着いて、降りるばかりになって、改めて船から王都を眺めた。
他の港で感じるよりずっと、街の賑わいを感じる。
大丈夫、きっと大丈夫。
隣に立ったソリスの腕にしがみついて、「よし!行こう!!」と気持ちを昂らせてみる。
私は、すっかり忘れていた。
彼らの言った数年を。
それが後数日で満たされ、再び召喚の儀式が執り行われる。
今度は、勇者が呼び出されるのだ。
【嵐が何処で吹き荒れ様と太陽はそこに在る】