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第79話 もうどうにも止まらない(前編)


 売り上げ5億ゼニー余り…、それを手にした俺達は店仕舞いを始めた。ケイウン親子が作ってくれた折り畳み式の屋台、そして川魚の燻製を作る為に加工した複数の一斗缶….これを片付けねばならない。


「そう言えば(わけ)えの、それだけの数の物を持ち運びするのは大変だろう。ありゃ…?そういやお前さん達、いつの間にその妙な箱みたいなモンを出した?」


 同じように隣で片付けをしていたケイウンがそんな風に声をかけてくる。


「ああ、それは…。よし、全部の荷物を()せたな。アンフルー、頼んだよ」


「ん…、分かった…。この地とかの地をつなぎ物品を運べ、私達の愛の()へ。トランスファー(転送)!!」


 アンフルーが魔法を唱えると地面に魔法陣が現れた。屋台や一斗缶が(まば)ゆい光に包まれた。そして次の瞬間にはその姿を消した。


「こ、これはッ!?」


 ケイウン達が唖然(あぜん)としている。


「アンフルーの物を転送する魔法だ。それと…、おいアンフルー」


「なに?」


 魔法の発動が終わりこちらを向いたアンフルーに近づき、俺はひそひそ話をするように小声で話しかけた。


「私達の愛の巣ってなんだ?」


「言葉通りの意味。私達はあの部屋で暮らし、同じオフトゥンでも寝ている。これを愛の巣と言わずして何と言う…」


「むむむ…」


「それと…キノク…」


 珍しくアンフルーが顔を赤らめている。


「耳に吐息がかかって…その、…感じる。エルフ族は耳が敏感、私をその気にさせて…どうするつもり?はあはあ」


「お前ッ!もちつけ!…じゃなかった、落ち着け!」


「無理、もうどうにも止まらない」


 アンフルーが抱き着こうとする。


「お、おい…」


 アンフルーを止める為に両手を前に突き出そうとした。だが、それより前にアンフルーは俺に抱き着いていた。その体がわずかに震えている。


「はあはあ…」


「アンフルー?」


 抱き着いてきたアンフルー、いつもと何かが違う。妙に重い…、いや体に力が入っていないのか?


「アンフルー、お前…。魔力が…」


「…違う。これは…性的興奮、はあはあ」


「誤魔化さなくていい。リーン、俺のリュックから…」


「分かってるニャ!」


 リーンは小型のペットボトルを取り出す、その間に俺はアンフルーの背に手を回しゆっくりとひざまずき体勢を低くしていく。正座するようにして体勢を安定させるとフタを開けたペットボトルをリーンから受け取りアンフルーに一口飲ませた。調味料として使うレモン液とミントのような香りの薬草と触媒茸、そして蜂蜜を多めに加えた物だ。


「…んん」


 アンフルーは一息つくと俺の胸に顔を埋めた。


「恥ずかしい」


「何を今さら…、少しは魔力は回復したか?」


「ん…。まだ、体に力が入らない…。キノク、そのポーションを…」


「ん、ああ」


「口移しで…」


「却下だ、そんな事が言えるならもう大丈夫だな」


 俺はそう言ってアンフルーにペットボトルを手渡した。



「ああ、アンタ達。次の宝石販売はいつかは分からないぞ」


 片付けをしている中、こちらの様子を窺うようにしている商人達に向かって俺は声を発した。臨時宝石オークションが終わった後に雪崩(なだれ)をうって押し寄せなかったのは褒めてやるべきか…。


「あ、いやそれは違うか」


 スフィアが屋台スペースの前面に立ち、構えてこそいないが槍を手に屹立(きつりつ)している。その毅然たる存在感に商人達が近寄れないでいただけなのが正解のようだ。しかし、その商人達は発言の機会を得たと考えたのか口を開き始めた。


「な、なあ…。また宝石を売りに出さないのか?」

「やるとしたら、いつどこでやるんだ?自由市か?商業ギルドか?」

「あ、あんた、どこに住んでるんだ?良ければこちらから出向くぞ!」

「あっ!?ぬっ、抜け駆けする気か!?それは駄目だ、俺にこそ住まいを教えてくれ!」


 …教える訳ないだろ、そんなの何の得がある。押しかけてくるのは火を見るよりも明らかだ。それに襲撃とかもあり得る、強奪する為に。そもそも俺の部屋はアンフルーに言わせれば異空間にあるらしい。だからそもそもどこに住んでると聞かれても答えようがない。俺が望む場所で部屋に出入りが出来るからどこにでも住んでると言えるし、部屋にいる時はこの異世界とは別の空間にいる訳だからどこにも住んでないとも言える。


「ああ、悪いな。住居を構えている訳ではない、訪れた先で寝泊まりしている…根無し草なモンでね。まあ、次があるなら…そうだな、商業ギルドに顔を出すだろう。自由市に参加するなら申し込みをしなきゃならないから」


 俺はそう言ったが、商人達はそこをなんとか…とばかりに話をしようとする。キリが無いな、これじゃ…。


「ねえねえ、キノク〜。そろそろ行こうニャ、ボクお(ニャか)空いてきたニャ」


 リーンが俺の腕に頭を(こす)りつけるようにじゃれついてくる。


「そうだな。じゃあな、アンタ達。今日は良い取引をさせてもらった。今日はここまでにさせてもらう」


 俺がそう言うとレモン果汁と蜂蜜をベースにした魔力回復ポーションを飲んで動けるようになったアンフルーとスフィアがササッと俺の周りに集まる。


「…ケイウン、世話になった。また、顔を出させてくれ。二人も…またな」


「ああ」


 ケイウンが短く応じた。


「…頼んだ、アンフルー」

「ん」


 素早くアンフルーが魔法を唱え始めた。


「…あ、そういや宝石だけでなく魔石も売っておきたいな」


 俺はふと思い出して言った。


「それなら…」


 スフィアが応じた所でアンフルーの魔法が発動した。


「友よ、我らの身を隠せ。インビジビリティ(姿隠し)」


「き、消えた」


 後には驚いた顔の商人達が残されたのだった。


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