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第77話 予定変更、即売会


「おいしいニャ〜!!」


 出来たての川魚の燻製(くんせい)を手にリーンが大喜びしている。それとパン…、これはいつもの食パンではなく異世界産のパンに挟んで食べている。


「いけねえ、いけねえよ、こいつはよう…」


 すっかり元気になったケイウンがそんな事を言いながら燻製を食べている。


「どうした?何かまずい事でもあったか?」


 俺がそう問いかけるとケイウンが首を振りながら応じた。


「いや、味も良いしニオイも良い」


「ん?じゃあ何がいけないんだ?」


「いや、こんなに美味えとよ…つい欲しくなっちまうじゃねえか…コイツがさ」


 そう言ってケイウンはコップを持って何か飲むような仕草をした。


「酒か?」


「そういう事、こりゃたまんねえ」


「駄目だよ、お爺ちゃん」

「そうだぞ、親父」


「分かってるよ」


 アリッサとケイカイが飲酒を即座に止め、それに不承不承(ふしょうぶしょう)ケイウンが返事する。確かに酒が元で心臓を病んだのだ、二人が止めるのももっともだ。手早く昼食を終えた俺達は販売の再開の準備を始めた。リーンは燻製し終わった魚を取り出し、次の川魚を燻製する為に一斗缶の準備している。


 そんな時、俺達に声がかかった。


「な、なあ。それ売ってくれねえか?」



 声をかけてきたのは一人の男、頭には獣の耳。どうやらリーンと同じ猫の獣人のようだ。


「なんか美味そうな匂いが漂ってくるから気になってよ、そしたら広場から漂ってくるから誰か屋台で料理でも出してんのかと思ったら…。そ、それ魚だよな?」


 そう言って大皿の上に盛られた魚の切り身を燻製にしたものを男は指差した。


「いや、これは売り物じゃないんだ。それに俺の物でもないしな」


「か、金なら出す。そこの爺さん言ってたろう、酒が欲しくなると…。その切り身一つで銀貨一枚、1万ゼニーでどうだ!?」


「銀貨一枚だって?」


 一万ゼニーだぞ?日本円で考えたら一万円に相当する。


「へへ、昨日の夜ちょっと一稼ぎしてな」


博打(ばくち)か?」


「そういう事!な、なあ、頼むぜ」


 そうは言ってもなあ、道具はともかく釣ったのはリーンだし。


「売っても良いニャンよ」


「リーン?」


「いつもキノクには世話になってるニャ。だから売り上げの足しになるならそれで良いニャ、ボク達が食べる分は残すけどニャ」


「それで良いなら…」


 そんな訳でサイズとしてはブリの照り焼き一切れくらいの大きさの燻製をレポート用紙に包んで男に見せた。


「一万ゼニーだ、本当に良いのか?」


「ああ!ほら、一万ッ!じ、焦らさないで早くくれよ!」


「分かった、ほら。固いからナイフとかで薄く切って…、あっ!?」


 俺が言い終わる前に男は手にした燻製にかぶりついていた。地球では世界一硬い食べ物と言われる削る鰹節(かつおぶし)とは言わないが、それでもこの魚な燻製は丸ごとかじるにはアゴが疲れると思われる。ある程度の長期保存を考えていたからだ。


 先程俺達が食べていたのはあくまでナイフで薄切りにしたもの、それを男は一心不乱に(かじ)(かじ)る。凄いな、この歯の丈夫さ…そう思って見ている間に一切れの燻製は食べ終わっていた。


「美味え、コイツは美味えッ!!ようし、あと三つ!あと三つ売ってくれ!」


 そう言うと男はさらに銀貨を三枚取り出した。


「長持ちする干魚(ほしざかな)は確かにあるけどよ、あんなモンただ干しただけだ!味も素っ気もねえ…いや魚の匂いと風味はするけどよ、コイツは凄え!味付けもされてて香りも豊か、旨味がギュッと詰まってる!な、なあ、売ってくれよ!」


 男は必死に頼み込んでくる。頭の上で両手を合わせすり合わせてこの通りだと…、それを見てリーンが頷いたので俺は燻製三切れと燻製する途中で身割れしてしまったマッチ箱ほどのひとかけらをオマケしてやった。それを見て男は大喜び、大事そうに胸の前で抱え帰っていく。今日は飲むぞ、そんな気勢を上げている。


「あ、あの…」

「私達も良いかい…?」


 男を見送った俺達に宝石を買いに来た商人の何人かが声をかけてきた。それだけじゃない、近くで出店していた人…そして匂いに釣られたのか猫の獣人達が集まってきていた。ついでに言えば左隣で商売するケイウンとケイカイの職人親子の二人も固唾(かたず)を飲んでこちらを見ている。どうやらケイウンに似てケイカイもまた酒好きなんだろうか。


「どうする、リーン?」


 俺はリーンに一声かけた。


「仕方ないニャ。今やってるのでもう材料が無くなるからそれ以上は無理ニャよ」


「分かった。あんた達、今から魚を売る。ただし、雲のお菓子を売り始めるまでの短い時間でしか売らないぞ。値段はさっきと同じ一切れで一万ゼニー、一切れで一万ゼニーだ!一回に一切れしか売らない、二つ目が欲しかったらまた後ろに並ぶんだ。それで良いなら並んでくれ」


 そう言うと彼らは列を作りだした。ケイウンとケイカイも列に加わる、店を放り出して…。


「アンフルー、アリッサについててやってくれ」


 俺はそう言うと燻製を求める客にリーンと対応を始めた。スフィアは燻製をしている一斗缶を見張るようにその近くに立った。


「思わぬ一稼ぎニャ」


 俺の隣で金を受け取っているリーンがそんな呟きを洩らした。


 いかがでしたでしょうか?


 作者のモチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどを感想にお寄せいただけたら嬉しいです。レビューもお待ちしています。よろしくお願いします。


 モチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。


 □ □ □ □  □ □ □ □  □ □ □ □


 次回予告。


 □ □ □ □  □ □ □ □  □ □ □ □


 燻製を、そして綿あめを売ったキノク。


 そしていよいよ宝石を…。


 商人達が高値を付ける。


 次回、第78話。


 『ハンマープライス』


 お楽しみに。

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