第73話 採取と大漁
朝風呂に入りひとかたまりになって寝ていた俺達は昼近くになって起き出した。一、二時間くらいの昼寝をするかと思っていたのだが四時間くらい眠っていたらしい。
「わ、わたくし….初めて殿方(男性のこと)と褥(寝る場所、布団の意味)を共にしてしまいましたのね!」
なにやら鼻息荒くスフィアが感動に咽び泣きながら呟いている。
すっ。
そんなスフィアの前に白く細い手が差し出される。
「おめでとう」
「ア、アンフルーさん!」
がしっ!!
女二人、固い握手を交わしている。
「なあ、リーン」
「なんニャ?」
「アンフルーってあんな感じなの?」
「ボクもそれなりなりに付き合いは長いけど、まだまだアンフルーについては知らないことばかりニャ」
「そうか…」
「それよりボクはキノクのお膝の上にいる方が良いニャ」
ゴロゴロ…。喉を鳴らしながらマイペースにリーンはくつろいでいた。
□
「そうでしたか。キノクさまはここで素材になる物を…」
午後はまずゴブリン達との戦闘中に破壊された馬車から使えそうな荷物を引っ張り出す。壊れた物が多かったが衣服の類は損傷はほとんど無く、それらを部屋に持ち戻った。
その後は渓流付近で採取を行う。リーンは魚釣り、アンフルーは果物中心に探すらしい。俺はスフィアとコンビを組んで薬草の類を集めている。
「ああ、銀白石が採れたのは幸運だった。あれが無ければ効果を定着させられない。もしこれが無かったら今回の薬もよく効くけど効果はあくまで一時的…そんな薬になっていただろう」
「ですが、石が薬になるなんて…」
「石…と言えば確かにそうだが、あれはカルシウム…えっと骨とかを丈夫にする成分なんだ。銀白石というのはまさにその成分そのものの塊でな。肉というのはすぐに腐ってしまうが、骨はたとえ雨ざらしになっていても簡単には風化せず長く形をとどめているだろう?その簡単には風化しない特性に一役買ってる成分を削って調合に加えてやる事で薬の効果を長く定着させうる決め手になったんだよ」
「まあ、初めて伺いましたわ」
「これは薬学というより栄養学なのかも知れないからな、あまり伝わってないのかも知れない。それにあの薬は調合だけでなく錬金もからんでいるからな…知らないのも無理はない」
「錬金…?と、いう事は…、キノクさまは錬金術師でもいらっしゃる?」
「いや、あくまで俺は商人だ。ただ、錬金術を少し心得ているだけさ」
「わたくしの心臓の病を治療する為に名だたる薬師や錬金術師の方に薬を作っていただきましたがあくまで一時的に発作を鎮めるのがやっとでしたわ。それを少しとは…」
スフィアが信じられないといった感じで呟いている。
「キノク〜!見て見て、大漁だニャ!」
リーンがパンパンに膨らんだビニール袋…、45リットルサイズの透明なゴミ袋に魚を入れてこちらにやってくる。後ろにはアンフルー、こちらも何やら収穫があったようだ。
「凄い魚の数だな。よし、まずはしっかり洗ってどうするか考えなきゃな」
「どういうことニャ?キノクのれーぞーこに入れておけば…」
「冷蔵庫には他の食材も入っているし、さすがにこの量は入りきらん。それに明後日には生鮮食品が宅配されるからな…。だからどうするか考えなきゃ、腐らせたらもったいない」
そう言って俺達はいったん自宅に戻る事にした。
……………。
………。
…。
「まずは焼き魚にでもして夕食にするだろ…。それから…」
炊事場で水道の蛇口を捻り、四人で魚を洗う。昔は多い時に湯治客が二十人くらい泊まる事もあったらしい、その為の水道やガスが六つずつ設置されている。
「塩を振って早速焼くのニャ〜!!」
リーンが嬉しそうに魚を焼き始めた。リーンが釣ってきた魚は地球で言えば鱒のような淡水魚、味や食感も似ている。
「今夜と明日の朝を魚にするとして…、あとはどうするか」
調理場を三人に任せて自室に戻る。
少しは冷蔵や冷凍での保存は出来るが、それにも限度がある。リーンが釣ってきたのは三十匹近く…、なんとかしないと腐ってしまう。
パソコンを使って何か良い方法がないかと検索したところ…。
「あっ、これなら…」
俺はとある記事を見つけた。少し時間を要するが…上手くいくかも知れない。
「そうなると今夜と明日に仕込みして…、下ごしらえ用の材料は…あるな。使う道具は…今注文すれば明日の夜までには来る…、じゃあ買ってしまおう」
「キノク〜、お魚が焼けたニャ〜!!」
焼けた魚を持ってリーン達がやってきた。
「せっかくの熱々だしいただこうか。それと食べ終わったら仕込みをするぞ」
「キノク、何か思いついたのかニャ?」
「ああ、後で仕込みして…。明日…は無理だが明後日にはいける。冷蔵庫も使わなくて大丈夫だが…アンフルーに頼みたい事がある」
「何?」
そこで俺はアンフルーに一つの頼み事をする事にした。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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リーンが大量に釣ってきた魚、保存するにも冷蔵庫のスペースには限りがある。しかも、部屋から出ればそこは異世界。冷蔵保存をする術はない。
そこでキノクが考えたのは…。
次回、第74話。
『お留守番アンフルー』
お楽しみに




