閑話 それは暴食、貪り食うもの(ざまあ回)
「ないッ!ないッ!ないッ!」
プルチンはパーティの荷運びに使っている魔法の袋に手を突っ込んだり逆さにして振ってみるが何一つ出てはこなかった。水筒も、食料も他の雑貨も…ホコリ一つ出てこない。
「ど、どうなっちまってるんだ…」
プルチンが焦った表情で手に持った布袋を見つめている。
「ちょっとー、あーしに貸してみて」
そう言ってウナが道具を取り出してみようとするがやはり何も出てこない。同様にハッサム、そしてマリアントワが試してみるが結果は変わらず。四人の焦りはつのるばかりであった。
「むう、どうしたと言うのだ。このマジックバッグ、何も出てこなくなるとは…」
「なぜ荷物が取り出せませんのッ!」
驚きは困惑に、そして怒りとなっていく。
クソッ、どうなってやがる!このボロ袋があ!」
そう言ってプルチンは地面に荷物を入れていた布袋を叩きつけた。しかし、勢い余って真下に叩きつけるつもりが少し前方気味に投げてしまい飛んで行ってしまう。そこには朝食の固いパンをお湯に浸して柔らかくして食べる為の焚き火があった。
「あっ、バカッ!」
高い金を払って買ったマジックバッグが燃えてしまう、そう思ってウナは叫んでいた。しかし、次の瞬間には思いもよらぬ事が起きた。
「キシャアアアアアッ!!」
なんとマジックバッグが奇声を上げているではないか。しかもそれだけではない。焚き火の上に落ちたマジックバッグはまるで火中に放り込まれた芋虫のごとくグネグネとのたうちまわる。プルチン達は驚きのあまり声すら発せられない。それほどまでに衝撃的な光景であった。
「…デ、デボアリングバッグ…」
「なにィ!?なンだ、それはッ!?」
ウナが茫然としながら呟いた言葉にプルチンが反応した。
□
デボアリングバッグ…。
貪り食う袋という意味である。
「キシャアッ!!キシャアアアアア…」
焚き火の中で燃える袋が上げる奇声がだんだんと弱まり、やがて聞こえなくなり燃え尽きていった。
「あ、ありゃあモンスターなのかよ?」
「違げーし。カースアイテム(呪いの品物)だしー」
ウナの話はあくまで小耳に挟んだ程度のものであったが、簡単にまとめるとデボアリングバッグは一見とにかくたくさん収納出来るマジックバッグに見える。
しかし、マジックバッグは入れた物を収納し保全しておける。しかしデボアリングバッグは決定的に違う、収納した品物を食べてしまうのか無くなってしまうのだ。しかもタチの悪い事に収納してすぐに無くなるのではなく、少し時間が経ってから無くなるのだ。おそらくはアイテムを入れてすぐ食べてしまってはマジックバッグではない事が分かってしまうので次のアイテムを入れてもらえなくなる。
「つまり、しばらくはマジックバッグのフリをしてアイテムを入れるだけ入れさせて油断したところを飲み込む…という事なんですのね」
「ああ〜、そんな感じ?」
「ぬうっ、なんと狡猾な…」
「そンな事言ってる場合じゃねーだろ!?道具があらかた無くなっちまったンだぞ!!」
「それ買おうって言い出したのプルチンじゃん」
「うっ…!!うっせーンだよ!てめーらだって反対しなかったろーが!」
「プルチンが突っ走っていっただけだしー?あーしたちにも金出せ金出せうるさかったから仕方なく〜…って感じ?」
「うむ。我は自分の分の荷物は担げるしな」
「私も軽装ですからそんなに荷物はありませんし…」
「てめーが一番荷物多いだろうが、マリアントワ!僧衣を何着も持ってきやがって!普通、僧衣は洗い替えの一着だけありゃ事足りるだろーが!!なのに、化粧箱まで買い込みやがって!」
「何も分かってらっしゃらないのね!?僧衣は白を基調としてますから汚れが目立ちますのよ!薄汚れた僧衣など身に纏えとおっしゃるんですの?私は至聖女司祭、役職付き以外の者がなれる最高位の天職ですのよ。常に身綺麗で美しくあらねばなりませんわ!」
「森で小汚ねえゴブリンに色目でも使うつもりかバカ女!!ンなもん、街や村の出入り口で着替えりゃ良いだろうがッ!!」
荷物を失い喧嘩が始まる。旅をするには道具や食料、水も持って歩かねばならない。彼らはやっとその重要性をその身をもって知り始めた。だが、不毛な言い争いはしばらく続いた。何もかもが上手くいかない。大貴族からお声のかかった依頼は達成出来ておらず、ミミックロックに始まりゴブリンにさえ戦闘に勝てない。荷物を無くしたのもこれで二度目、街に戻るにしても空きっ腹を抱えて戻らねばならない。
食料になる野ウサギでも狩猟出来れば良いが残念ながら彼らの手持ちの武器に弓矢などの飛び道具は無い。ウナには一応魔法はあるが上級魔法しか会得していない。野ウサギ一匹を仕留めるのに規模の大きな…得意(だと彼女は思っている)の炎の魔法など使ったら森ごと大火事になってしまうだろう。
…もっともプルチンら四人は気付いていないが、彼らが強かったのはキノクのもたらした飲む温泉水のおかげ。そのおかげで彼らは筋力から魔力まで全てのパラメーターが底上げされ活力も湧いていたのだ。それを失った今、四人は自らの力でロクに実戦経験も積んでおらず学習もしていない素人も同然であった。
「…戻ンぞ」
プルチンが撤退を口にした。
三人はそれに続いた。これ以上の前進は不可能、それは子供にも…そして愚かな彼らにさえ分かる厳然たる事実であった。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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スフィアはすっかり元気になった。
そこでキノク達は採取を再開し…。
次回、第73話。
『採取と大漁』
お楽しみに。




