第9話 二人の帰り道。
「知ってる天井だ…」
目が覚めたのだが体が重く苦しい…。昨日の雨で風邪でもひいたか…、いや熱はないか…。
「…スヤァ」
「ん?」
首を上げ、視線を胸元に落とすとそこには猫耳。リーンが仰向けに寝る俺の体の上に乗り気持ち良さそうに眠っている。
「お、俺…寝てる間に何かされた?」
俺は満足に動かないながらも体をよじるなどして触れる衣類の感触を確かめる。大丈夫だ、着衣に乱れはない。
「う…、うみゅみゅ…」
俺が体を動かしたりしたからか、それが刺激になりリーンが目覚めた。
「…おはようだニャ。ふにゃあ…、まだ眠いニャ…、スヤァ…」
「起きろ、寝るな。もう朝7時半だ!」
「ふみゅ…、しちじはんてなんニャ…?ボクもうねむ…い…スヤァ」
「ふんッ!!」
俺は反動をつけ強引に寝返りを打つ事に決めた。それによってリーンを体から引きはがそうとした。
「ふぎゃっ!!」
ゴロンッ!リーンが俺の上から転がり落ちた。
「な、何するニャ!?」
「お前が俺の体の上に乗って寝てるから起こしたのに、また寝ようとするからだ!」
「うニャ!?…ふみゅうう…。このオフトゥンが悪いのニャ!あまりに気持ち良すぎて思わず永遠に眠ってしまいそうになるのニャ」
「永眠は駄目だろう…」
そんな朝のやりとりをしながら二人で昨夜の焼き魚の残りを平らげた。そう言えばリーンの奴はトイレにも感動していた。初めて使うウォシュレットに驚いたのか、またもや下半分全裸で駆けてきた。俺は服を着てから来るようにと親になったような気分で教え諭すのだった。
□
雨はすでに上がり太陽が森を明るく照らす。昨夜の雨の名残である木々の葉に残る雫や水たまりがキラキラと光を反射している。時折風が吹いたりすると反射する光が揺れて動きを見せる、その度に気になるのか共に歩くリーンは忙しなく視線を動かしている。
「それにしても凄いニャ!野営なのにこんなグッスリ眠れたのは初めてニャ!!宿屋に泊まった…、いや宿屋に泊まる以上ニャ!入浴も出来てオフトゥンで眠れて…、キノクは凄いのニャ!それなのに追放するニャんて…。そいつらはずいぶんと野営で安心して眠れる事の大切さを分かっていないのニャ!」
「あの部屋に入れた事はないな。わざわざ水汲みとかをしたくないからせいぜい湧水をくれてやってたくらいだが。まあ、野営時の見張りはしていたよ。奴らグースカ寝てたから」
「ニャッ!交代で見張りはしニャいの?」
「無かったな。戦闘できないからって理由で見張りや荷物持ちみたいな雑用を全部していたよ」
「なんニャそれは!!?ずいぶん愚かなヤツらニャ!!」
「ありがとよ、怒ってくれて」
「当然ニャ!戦えるからって偉い訳じゃないニャ、そもそも一日冒険するとして何分間を戦いをしてるつもりニャ!それなら荷物を持ったり見張りしてる時間の方が圧倒的に長いのニャ!働いた時間を基準にして分け前を考えたらコインが100枚あったらヤツらには一枚くれてやれば十分ニャ!」
「ははは、それじゃ俺は99枚だな」
「そのくらい役に立っているニャんよ!」
俺は嬉しかった。なにせこの異世界に来てから役立たず、役立たずと否定しかされてこなかった。それゆえにリーンの言葉は温かく、ありがたいものだった。
「あっ、ちょっと待ってくれだニャ!」
そう言ってリーンは日本で言うところのウツボカズラのような植物の方に駆けていく。その袋状の花を手に取り水筒に向かって中身を入れようとする。
「あっ!」
リーンが声を上げた。
「忘れてたニャ!水筒にはキノクが水をいっぱいにしていてくれてたのニャ!」
「いや、良いと思うぞ。食事は摂らなくてもすぐに死ぬ事はないが水はそうはいかない。ちょっとした機会に少しずつでも確保しておくのは大事だと思うぞ」
「ねーねー、キノク。もしかしたら追い出したパーティの連中って水汲みもロクにした事ないんじゃニャいの?」
「そうだな、元々ヤツらは貴族の生まれだ。水なんて家来に持ってこさせる物なんだろう」
「ふっふーん!!ならいきなりやらかしてるかも知れないニャんね」
「ん、何をだ?」
「水筒忘れて立ち往生ニャ!」
「ははは、いくらなんでもそこまで馬鹿じゃないだろう。魔法が使える奴もいたんだ、そのくらい頭は回るだろうさ」
俺達は首都アブクソムへ歩いていく。ゆっくり、ゆっくりと…。金は稼げた、急ぐ理由もない気楽な道のりであった。
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