閑話 高貴なる血統、ゴブリンにボロ負け(追放側:ざまあ回)
キノク達がゴブリンキング率いる集団からスフィアを救出し治療、そして亡くなった四人を弔ったのと同日の出来事である。
プルチン達のパーティ一行は先日惨めな敗北を晒した岩に擬態するモンスター、ミミックロックが多数生息していた山道を無事に抜け先に進んでいた。
…と言っても、撃破して進んだ訳ではない。
「ふうふう…。ヘッ、無事に通り抜けてやったぜ!石コロ共がよう!」
息を切らしながらリーダーの魔法剣士プルチンが意気揚々と叫んだ。
「はあはあ…、これ以上は私走れませんわ。少し休憩にいたしませんこと?」
四人の中では最も体力がない至聖女司祭マリアントワがへたりこみながら言った。
「アタシ、それ賛成」
いち早く休憩する案に同意したのは大魔導士のウナ。
「ふむ…。ここは見通しも良く、接近するモンスターがいれば発見しやすい。休むには適切かも知れんな」
四人の中では一番体力がある至高修道士のハッサムもそれに同意した。前回は四人分の荷物を背負い行動していたハッサムは今回は身軽である。修道士特有の武道着のようなものとその上から駅伝で使う襷のように古ぼけた大きな布袋を体に巻き付けるようにしている。それはペラペラで中身は何も入っているようには見えない。
「ああ、そうすっか。ならよ、ハッサム水出してくれや」
地面に腰を下ろしながらプルチンが呼びかけた。
「うむ、水筒」
ハッサムは巻きつけていた背負い袋を地面に置き、中に手を入れながら声を発した。そして手を引き抜くと水筒が現れる。それを繰り返し各自それぞれが使う合計四つの革製の水筒を取り出した。
「ホント便利よねー」
ウナが水筒の水を飲みながら言った。
「だろ!?これさえありゃ荷物持ちなんていらねーンだよ!だいたい戦えもしねえ役立たずが荷物持ちをやるモンなんだよな。そもそも俺達貴族の生まれだけで組んだパーティ高貴なる血統だ。下賤の血が流れる奴なんかいらねーンだよ」
新たに手に入れた布袋を見ながらプルチンは上機嫌だ。
「確かにねー。だけどこの水さぁ、水筒の革の臭いが水に染み付いてなければホント最高なのに」
革製品独特の匂いが染み込んだ水に他の三人も辟易しながら頷く。
「ああ、そうだな。だけどよ今までこんな革臭え水だったか?」
プルチンが問いかける。
「いや、そうではなかった」
地面に胡座をかいて座り腕組みしながらハッサムは応じた。
「そうですわ、臭いもなく美味しい水でしたわ」
マリアントワもハッサムに同意する。
「忘れたの?アイツに汲みに行かせてたじゃん」
革臭い水はもういいやとばかりにウナが水筒を袋に戻した。
「そうだったけな、あまりに役立たず過ぎて存在忘れてたぜ!ヘッ、役立たずには似合いだな。水汲みなんてよ」
「ふむ、確かに。水汲みなど屋敷の下男か下女がするものだ」
「神殿でも見習いの子供がする事でしたわ」
「なんだ、ガキでも出来る事じゃねーか」
そう言ってプルチンは嘲笑ったがそれはあくまで井戸などが整備されている街中での話。前回水筒を忘れ渇気に苦しみ、峠道でミミックロックに投げ落とされた先でたまたま見つけた川の水を飲み下痢に苦しみ惨憺たる有様で街に戻った事をもう忘れている。
井戸も無い屋外で水を手に入れるというのは大変な事だ。川でもあればそこから汲めば良いが衛生的に安全かどうかはまた別の話である。そんな都合良く川は流れてはいないものだ。
それゆえ冒険者は移動中は水を補給しながら進む。例えば森を歩けば袋状の花を持つ植物から中にたまった雨水を補給する。一口にも満たない量だが見かけたらマメにしておけばいずれまとまった量になる。極端な話、朝露に濡れた植物の葉の上の一雫…ベテラン冒険者になればそういったものも無駄にしない。彼らはその一滴の水の貴重さを理解しているのだ。
「むっ」
くつろいでいた時、ハッサムが声を上げた。
「あン?どうしたんだ」
プルチンが問いかける。
「あの先の森でチラッと何かが…。ゴブリンのように思えたが…」
「えー、ゴブリン〜?」
ウナが面倒くさいとばかりに声を上げた。
「今回の依頼とはカンケー無いしシカトで良いんじゃない?」
その意見にマリアントワとハッサムも頷いた。…だが、一人その意見に異を唱える者がいた。
「…やるぞ、お前ら」
プルチンである。
「なんでぇ?面倒くさいじゃん」
ウナが不満をぶつける。
「理由は二つある。新しく買った武器の試し斬りだ」
そう言ってプルチンは新たに手に入れた剣を指し示した。以前のような大剣ではない、いかにも量産品といった剣である。
「もう一つはぁ?」
「俺達にゃあ手持ちの金が少ねえ、だからよ奴らを狩る。小銭にしかならねえが魔石も手に入るし、もしかすると奴らの住処には旅人とか商人から奪った金目の物を持ってるかも知ンねえ」
プルチン以外の三人は互いに顔を見合わせる。確かに手持ちの金は少ない。グレムリンに武具や荷物をあらかた盗まれた為にイチから装備や雑貨を買わなければならなかったので手持ちの金は残り少なくなっていた。
ゴブリンは人間よりも体格は一回り小さく、その分力も弱い。一対一なら苦戦するような相手ではない。
「やるか…」
ハッサムがそう口を開いた。するとウナとマリアントワも頷いた。
「そうと決まれば!」
プルチンは地面から立ち上がると抜剣した。素手で戦うハッサムは荷物を放り込んだ布袋を体に巻き付けた。ウナは短い杖を、刃の付いた武器を持てない聖職者であるマリアントワは小ぶりな槌鉾をそれぞれ握りしめた。
「よし、行くぞオラァッ!」
……………。
………。
…。
プルチン達はまたもや敗走した。
森にいたゴブリン達に飛びかかり一匹目こそ斬り伏せたが、その後は仲間を倒され怒りに燃えるゴブリン達が反撃してきた。
体力面ではともかく数に勝るゴブリンは囲むようにしてプルチン達を攻撃する。あるゴブリンは手にした棒切れで、あるゴブリンは石を投げつけてくる。それに対応するうちにプルチン達はどんどん疲労していった。すると動きが鈍った四人にゴブリン達の攻撃が当たり始める。
プルチンとハッサムは攻撃をするがまともにそれが当たらない、また当たったにせよ有効打にならない。疲れた体で振るう攻撃はあまりに非力すぎたのだ。
またウナとマリアントワもまるで戦力にならなかった、腕力はもとより頼みの魔法がまるで発動しない。それもそのはず、プルチンにせよ他の三人にせよキノクがもたらした飲む温泉水により筋力をはじめとして各種パラメーターが強化されていた。それを失っている四人は凡百の冒険者…いやまともな下積みもしていない弱小冒険者であった。
「クソがッ!!」
プルチンが怒りに満ちた声で叫ぶ。
なんとか四人は逃げ延びたが武器も投げ捨てての潰走で再びの惨めな敗北であった。もし武器を持ったままだったり荷物を担いだままなら逃げられなかっただろう。あの魔法の袋のおかげであった。
「だが、荷物は奪われてねえ!まだやり直せる!そン時は…あのゴブリンども…目に物見せてやンぜ!」
プルチンは復讐を誓う。
「だが、今日は疲れた。とりあえず寝るぞ、明日あの場所に戻って武器が残ってたら取り返す。そして奴らを殺ってやンぜ!」
他の三人もそれに同意する。
「そういったワケだからよ、ハッサムしっかりとその袋を体にくくりつけていてくれ」
「うむ。皆も俺を囲うように休んでくれ。万が一盗みに来る輩がいてもそれなら気付きやすくなるだろう」
そう話をまとめたのだが…、彼らの地獄はその翌朝にやってくる。特に襲撃も無く、盗まれた物も無かった。しかし….。
「な、無いッ!」
四人は絶望の表情を浮かべていた。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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ゴブリンキングの軍団を火葬にしたキノクとアンフルー。
その時、新たな真実が…。
次回、第71話
『倒したのはゴブリンキングより大物だった』
お楽しみに。




