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第68話 十二倍強心薬(前編)


「キノク、材料は…?」


 炊事場に向かいながらアンフルーが尋ねてくる。


「それとも、鳥類の心臓の代替品(かわり)になる物が…?スタミナポーションのように」


 スタミナポーションの材料の一つ虫の抜け殻、これはニンニクでも代用が出来るのは先程分かった事だ。彼女はまずその可能性を言いたかったのだろう。


「いや、無い。他の材料ではどうしても代わりにはならない」


「じゃあ、鳥類の心臓をどう確保する?」


「…これさ」


「それ、何?」


 俺が取り出した物を見てアンフルーは疑問の表情を向ける。表情の変化に乏しいアンフルーではあるが、よくよく見ると微妙に変化している事に気づく。初めて見た物、しかも直接的な食べ物ではないそれを見て反応に困っているようだ。


「これは缶詰といって食べ物を金属の容器に入れた物だ。中身は、とても腐りにくく数年間保存する事が出来るんだ。ちなみにこれは焼き鳥という料理だ」


 かぱっ!


 俺は缶詰のフタを開けた。


「やき…とり?」


「ああ、これは俺の故郷の食べ物で(とり)の肉や内臓(モツ)を焼いて塩やタレで味付けしてある物だ」


「ん」


「そしてこれは鶏の…ハツという部分なんだが…」


「ハツ…?」


「心臓の部分だ」


 ハツ…、心臓の英単語ハート、その複数形であるハーツがなまってハツと言われるようになったというハツ。俺は生鮮スーパーや通販などで様々な食品を買い込んでいた。金が入ったというのもあるし、リーンがよく食べるというのもある。


(とり)の…心臓…!!」


「ああ。今、鳥類の心臓が必要になっている。考えてもみろよ、…鶏だって立派な鳥類だろ?」


「あ、ああ…」


「だけど、これは調理されタレによって味付けされている。それでは余計な成分が混じってしまう。だからアンフルー、水の精霊や風の精霊の力を借りてそれを分離し取り除いてくれ」


「分かった」


「それと…、ハツが終わったらこれも頼む」


 そう言って俺はレバーの焼き鳥缶も開けた。


「それは?」


肝臓(レバー)だ。薬の効果を高め心臓の負担を軽くしてくれる」


「ん…、分かった」


「頼むぜ」


 俺はアンフルーにハツに続いてレバー缶も手渡した。


「ねえ、キノク」


「なんだ?」


「果物の缶詰というのは…」


「あるぞ」


「ッ!?」


「果物そのものではないがシロップ漬けになった物がある」


「そ、それッ!!」


「分かった。スフィアの件が落ち着いたら食べる事にしよう」


「ヤる気、出てきた」


 アンフルーの手から放たれる魔力の輝きがより一層強くなる。エルフってこんな感じなの?そんな事を思いながら俺は他の準備を始めた。



「キノク、早く早く!」


 部屋に戻った俺をスフィアのそばについていたリーンが出迎えた。スフィアの容体は…悪くなっている…。


「まずいな…」


 俺は思わず呟いた。


「ど、どうしたのニャ!?」


「症状が進み過ぎている…、心臓の状態がかなり悪い。この材料の下準備をしていた二十分ほどでこんなにも容体が悪化するとは…」


「キノク…」


「今すぐ強心剤(きょうしんざい)を作る!一時的だが症状を抑え、持ち直す効果がある」


 そう言って俺は洗浄した焼き鳥のハツを一欠片(ひとかけら)触媒茸(しょくばいたけ)を手に取り乳鉢ですり潰し混ぜた。それをアンフルーが魔法で乾燥させ、さらに風の刃で粉砕すると白い粉末状の薬が出来た。


「リーン、それをスフィアの服を脱がせて全身に振りかけてくれ。体に薬が吸収される事で少しは落ち着くはずだ。その間に俺は錬成は難しいがより効き目のある薬を作る」


「分かったニャ!」


 リーンは言われた通りに動き始めた。俺は次の準備に移る。


「使う材料は…」


「キノク、慎重に…」


 アンフルーが声をかけてきた。


「ああ、分かってる。材料が多くなればなるほど、高度な錬成であればあるほど失敗の可能性が…。さらに必要になる魔力とコントロールの難度が増える事も…。だが、俺にはアンフルーがいる。魔力のサポート、よろしく頼むぜ」


「ん。キノクこそしっかり。初めて作る物、魔力放出の加減が分からない中するんだから」


 確かに。アンフルーの言う通りだった。


 俺は改めて薬作りに入ろうとした。その時、リーンの弱々しい声で俺を呼んだ。


「キ、キノク…」


「どうした?」


「体に振りかけたお薬がほとんど体に入っていかないニャ…」


「なんだと!?」


 リーンの言う通りスフィアの体には振りかけられた白い粉末が体にかかっていた。俺は改めてスキル診察を発動さぜスフィアの容体を見た。


「い、生命(いのち)が…燃え尽きようとしている…」


 俺は思わず呟いた。


「し、心臓が耐え切れなくなっている。さっきの強心剤の十倍は効き目が無いと無意味だ。少なくともさっきの強心剤じゃ時間稼ぎにもならない…」


「キノク、どうにかならニャいの!?」


 リーンが詰め寄ってくる。


「やるしか…ないのか…」


 そう言って俺は一つの素材を手に取った。


 いかがでしたでしょうか?


 作者のモチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどを感想にお寄せいただけたら嬉しいです。レビューもお待ちしています。よろしくお願いします。


 モチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。


 □ □ □ □  □ □ □ □  □ □ □ □


 次回予告。


 □ □ □ □  □ □ □ □  □ □ □ □


 スフィアに振りかけられた粉末状の薬。


 これは直接心臓に作用する錬金術によって産み出された薬であった。


 しかし、それが効果を及ぼさないほどにスフィアの心臓と肉体は衰弱していた。


「こ、これは従来の心臓病の十倍の症状の重さがある…」


 このままではスフィアは…、そう考えたキノクは自らの限界を超える錬金術を試そうとする。


 次回、第69話。


 『十二倍強心薬』


 お楽しみに。

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