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第63話 強靭(きょうじん)たるゴブリンキング


「ゴブリンキング…」


 アンフルーが呟きを洩らした。


 破壊された馬車の向こうから現れたのは姿形こそゴブリンだが、一目でそのサイズや凶暴さがまったく違う事が分かる。


 二メートルを軽く超えるであろう上背、筋骨隆々の肉体。普通のゴブリンの顔が醜悪なら、ゴブリンキングの顔は凶悪そのもの。開かれた口からは荒々しく張り出した牙がのぞく。


「でかい…」


 それが俺の感想だった、思わず声に出てしまった。そんなゴブリンキングが破壊された馬車の大きめの残骸を片手で無造作に押しのけてぬうっと進み出てくる。反対の手には身の丈ほどはありそうな丸太を削っただけにしか見えない棍棒のような物を持っている。


「あれで馬車を破壊したのか…、スイカ割りをするみたいに…。ただ叩きつけるだけで…」


 圧倒的なパワー…、威圧感…。そんなものを感じる。


「はあっ!!!」


 ゴブリンキングが前に進む為に押しのけた馬車の残骸、その陰から素早い動きで姫騎士が手にした槍で突きかかる。一撃必殺を狙ったのだろう、白を基調とした鎧に束ねた黒髪のポニーテールが揺れる。


「なっ!?」


 しかし、その一撃をゴブリンキングは手にした棍棒で払いのけた。姫騎士の姿勢が崩れる。


「速いッ!あいつ、パワーだけじゃないのか!」


 完全に狙い澄ました一撃だったはずだ、それをあっさりゴブリンキングは防いでみせた、さらには大きな唸り声を上げる。


「グルアアアアアッ!!」


 片手で押しのけていた馬車の残骸、それを持ち上げるとゴブリンキングは叩きつけるように姫騎士に投げつけた。


「くっ!」


 地面を転がるようにして姫騎士がそれをかろうじてかわした。しかし、ゴブリンキングは姫騎士に向き直り棍棒を両手に構え追撃の体勢に入る。


「ライトニング!!」


 アンフルーが稲妻の魔法でゴブリンキングに攻撃を仕掛けた。一条の槍となった白い雷光が飛ぶ。しかし、それがゴブリンキングに届く事はなかった。


 バチイッ!!


 真夏にコンビニなどの軒下にある青紫色の触れた蛾などを電撃で殺す殺虫灯、それが効果を発揮した時のような音がした。


「魔法が…弾かれた…」


 アンフルーの言葉通りまっすぐ飛んでいったはずの雷光の魔法がゴブリンキングの直前で弾けてかき消えてしまったのだ。もしかして奴には魔法を無効化する何かがあるのか。だが、そうなると厄介な事になる。アンフルーの攻撃魔法が意味を成さない。


「魔法は効かない、だけど…」

「あの姫騎士の槍の攻撃は防ごうとしていた。つまり…」


「「物理攻撃は効く!!」」


 俺とアンフルーは同時に呟いた。



「姫様を守れえッッ!!!」


 体勢を崩している姫騎士の前に槍を手にした男達が駆けつけ一斉にゴブリンキングに突きかかる。ゴブリンキングは棍棒を構え直すとただ力任せに横に()いだ。


 鎧が、肉がひしゃげるような音がして男達が吹き飛ばされた。どう考えても無事では済まない、そんな一撃だった。男達は原型をとどめていない者も、とどめていたとしてもピクリとも動いていない。


「うニャーッ!!」


 そこに気合の声と共にリーンがゴブリンキングの横っ面に飛び蹴りを入れた。ゴブリンキングは少しグラリとしたが大したダメージは見受けられない。コキコキと2、3度首を動かすとリーンに向き直った。


「ゴアアアアッッ!」


 ゴブリンキングは完全にリーンを敵として認識したようだ。近くに姫騎士もいるがこちらには注意を払ってはいないようだ。おそらく脅威ではないのだろう。現状、渡り合えるのはリーンのみといった所なんだろう。アンフルーの魔法は無効化され、姫騎士の攻撃はさばかれてしまう。


 棍棒を振るいゴブリンキングがリーンに迫る。リーンは無理しない、かわす事を第一に応戦している。姫騎士はゴブリンキングの側面、あるいは背面に回り槍を突く。しかし表皮が硬いのか深くは刺さらない。かすり傷とも言えないような傷をわずかに表皮につけるのみ。


 しかし、その一刺しはゴブリンキングの気を引けたのかわずかなスキが出来た。それに乗じてリーンが懐に飛び込み胸元をククリナイフで切りつけわずかな手傷を負わせる。それに怒ったゴブリンキングはリーンを捕まえようと、あるいは打ち殺そうと腕や棍棒を振るう。それを素早い動きでリーンはかわし距離を取る。そのスキに姫騎士も距離を取り再びゴブリンキングの背面を()こうと立ち回る。そんな攻防が繰り返されていた。


「まずい…」


 アンフルーが呟く。


「今はリーンが太刀打ち出来ているけど、それはあくまで潜在能力解放(フルポテンシャル)の効果があってこそ…」


「どういう意味だ?」


「魔法には効果時間がある、効果が切れたらリーンは素早さは上回れても腕力や体力の差で一気に劣勢になる」


 言われてみればリーンの体を包む魔法の光が弱くなってきているようにも感じる。どうやらゴブリンキングはかなり頑丈(タフ)なようであれだけのリーンの攻撃を受けてもまだ有効打となるようなダメージは無さそうだ。


 それでも小さな手傷を与え続けているからこれをひたすら繰り返せばいつかはゴブリンキングを倒せるだろう、しかしそれより先に魔法の効果が…そしてリーンの体力が尽きてしまうのは容易に予想出来た。


「魔法が、切れる」


 激しい攻防の真っ最中、リーンの体を包む魔法の光がついに消えた。たちまちリーンのスピードが鈍る。


 丁度その時リーンは相手の鼻先に飛び蹴りを入れ離れようとした場面、いわゆる一撃(ヒット)離脱(アウェイ)戦法のアウェイのタイミングだった。本来なら敵の反撃より先に攻撃範囲より外に逃げられるところを魔法が切れた為にその目算が狂う。ゴブリンキングが反撃に移った。


「まずいッ!」


 リーンが捕まる…。そう思った時、俺はクロスボウの矢を放った。







 

 


 いかがでしたでしょうか?


 作者のモチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどを感想にお寄せいただけたら嬉しいです。レビューもお待ちしています。よろしくお願いします。



 □ □ □ □  □ □ □ □  □ □ □ □


 次回予告。


 □ □ □ □  □ □ □ □  □ □ □ □


 ゴブリンキングの反撃がリーンに迫る。


 アンフルーの魔法は弾かれ、前衛のリーンも敏捷(スピード)では勝るものの筋力(パワー)体力(タフネス)は圧倒的に不利。


 そんな中、キノクに出来る事とは?


 彼らはこのピンチを脱する事が出来るのか?




 次回、今章最終回の第64話。


『王を射る三矢さんしと槍使いの姫騎士』


 お楽しみに。

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