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第8話 お前が変な気を起こしたらどうすんだ?


「追放されるようには思えない…か」


 俺はリーンが言った言葉をなぞるようにそう言った。


「そうニャよ!間違いない、キノクは凄いニャ!」


「ありがとよ」


 ポツリ、リーンの言葉にありがたさを感じ自然と礼の言葉が出ていた。


「本当ニャ!だってこれは凄い事ニャんよ!」


 小さな体で大きな身振り手振り、リーンが熱弁する。


「考えてみて欲しいニャ!今、外は雨ニャんよ!たき火一つ出来ないニャ!(だん)をとる事も、こうやってお魚焼いたりも出来ニャいよ。洞窟とか見つけて雨を避けられれば良いけど、そんな場所を見つけられニャければ雨に濡れて寒さに震えるだけニャ!」


「そりゃあそうだろうけどさ…」


 リーンと初めて会った木のうろに飛び込んできた時の事を思い出す。雨を避ける為にリーンは中をよく確認する事なく飛び込んできた。それだけ雨に濡れる事を嫌がっていたのだろう。


「それだけじゃないニャ!仮に今、雨が降っていなくても野営する事になったらこうやって靴を脱いで足を伸ばして座ってなんかいられないニャんよ!」


「ほら、でも集団で野営したりすれば交代で眠れたりするだろ?」


「それはあくまでも仮眠に過ぎないニャ。毛布にくるまって目を閉じている…そんな感じニャ。もちろん疲れ果てて眠りこんだりする事もあるけど、虫が飛んできたりして気になって寝られないのニャ!だから、依頼を終えて街に着いた冒険者は必ず休養日を取るようにしているんニャ。それこそ宿屋で一日眠りこけたりするくらい…」


 俺はプルチン達の事を思い出した。野営や休憩する時は戦えない事を理由に必ず俺が見張り役、あいつらがグースカ眠りこけていても俺はロクに休憩も取れなかった。しかし、リーンは冒険者の野営はあくまで休憩の延長…せいぜい仮眠止まりだと言う。それだけ疲労も溜まる…。


「それにあの魔法のお湯ニャ!」


「風呂の事か?」


「そうニャ!外を駆け回ると木の枝とかに引っ掛けたりして()り傷とかはつき物ニャ。それがすぐに治ったし、雨で冷えた体もポカポカになったのニャ!普通、この怪我が治るには何日かかかるニャ。それにキノクがくれたお水は体に染み入るような美味しさニャ。なんだか疲れがとれるようだニャ…」


「ああ、それは飲む温泉だよ」


「ニャッ!?」


「お風呂用じゃなくて飲み水向けの物だ。もしかしたらリーンの言う通り、体に良い効果があるものなのかも知れないな」


 自動音声とやらが温泉は異世界の人に凄まじく効果を発揮すると言ってたからな、良い効果が実際に有るのだろう。


「それに宿屋でもないのにグッスリ眠れるのはありがたいニャ。だってここにはモンスターや虫とかはいないんニャよね?」


「いないぞ」


「わぁい!安心して眠れるニャ!」


 そう言ってリーンは本物の猫がそうするように畳に寝そべり丸くなった。肌に触れる畳の感触を確かめているらしい。


「ああ、待て待て。寝具を貸してやる」


「ニャ?」


「さすがに女を畳の上に直接寝かせて、自分は布団でグースカというのはどうにも気分が悪いからな」


 俺は立ち上がり押し入れを開けた、中には布団が入っている。手早く布団を敷くとその様子をジッと見ていたリーンが部屋の片隅でプルプルと体を震わせている。


「も、もう準備は出来たのかニャ?」


「ああ、準備できたぞ」


「…ッ!?フシャーッ!!!」


 一声発するとリーンは勢いよく頭から布団に飛び込んでいった。


 その様子は甲子園で九回裏ツーアウト、内野ゴロを打ったバッターランナーが一塁ヘッドスライディングをする高校球児の姿か、地面スレスレの高さのボールに超低空ダイビングヘッドを敢行するサッカー選手か、いずれにせよ俺の前に一陣の風が吹いた。


「フニャーッ!!」


 ゴロゴロゴロゴロ…。興奮した様子でリーンは転がるようにして飛び込んだ布団の感触を確かめている。


「…ハッ!?な、なんニャこれは!?我を忘れて飛び込んでしまったのニャ!」


「お布団だ」


「オフトゥン…?なんて恐ろしい罠ニャ…。」


「いや、罠じゃねえよ。寝る為の物だ」


「ニャ。なんて柔らかくてフカフカの寝具なのニャ…。これなら気持ち良く眠れるのニャ。ねえねえ、他にもオフトゥンはあるのかにゃ?」


「いや、その一組だけだ」


「じゃあキノクはどこで寝るニャ?」


「その辺で寝るさ」


 俺は畳を指差した。


「駄目ニャ!それならボクがその辺で寝るニャ」


 リーンが悲しそうな顔をする。


「却下だ。俺は明日からでもそれを使って寝られるから気にするな。それに一緒に寝る訳にはいかんだろ」


「それなら端と端に距離をとって寝れば良いニャ。それに万が一、キノクがボクに変な気起こしても大丈夫ニャ。身体能力は圧倒的にボクの方が上ニャ!!」


「それはそうだろうけどさ…」


 そう改めて言われると男としては悲しいものがある。しかし、一つ疑問が浮かぶ。


「なあ、身体能力は明らかにお前の方が上なんだよな?」


「ニャ!」


「じゃあリーンが変な気起こしたらどうなるんだ?俺は身体能力で圧倒的に負けてるんだが…」


「さーて、もう寝るかニャ!明日も早いのニャ!」


「おい、あからさまにごまかそうとしてるだろ?」


「そ、そんな事ないのニャ!ほ、ほら早く入浴してくるニャ!お湯が冷めちゃうニャ!」


「あれは源泉掛け流しだから冷めないぞ。で、どうなんだリーン?」


「細かい事は気にするニャ!」


 リーンはグイグイと俺の背中を押して風呂場に追いやろうとする。小さな体のくせに凄い力だ、確かに…コ、コイツ違うぞ…。俺なんかとはスピードもパワーも…。


「ボクは先に寝て待ってるから必ず戻ってくるんニャよ」


「分かった、分かった」


 俺は風呂場に追いやられた。確かにリーンは顔も整っている、騒がしい奴だが嫌いではない。何より悪い奴ではない、そんな気がしている。のんびりと湯に浸かりながら体を温めた。


 そして部屋に戻ってみると布団にリーンがいた。宣言通り端っこで横になっている。しかし、あどけない顔で熟睡していた。思わず俺は苦笑いをした。


「これで別々に寝たら何を言われるか…。まあ、俺も端っこで寝てやるか」


 そう言って俺は布団に入る、リーンとは反対側の端っこだ。温泉の効能か、体はとても温かだった。




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