第60話 奇襲!!
渓流の近くでの採取活動を終えた俺達は自室へと戻っていた。渓流付近では森とは違う生態系があり、俺達は俺は新たな素材を得ようと採集活動に勤しんだ。
珍しい物では岩のわずかな裂け目から力強く生えているような植物があった。見た目だけならタンポポのようにも見える。スキル本草学によると薬草の一種で胃腸を強くする効果があるらしい。
植物以外での収穫としては渓流の水際にミミズが大きくしたような生き物がいた。水棲モンスターであるらしい。アンフルーの魔法により頭部をスパッと鮮やかに切り飛ばし仕留めたが、胴体はまだまだグネグネと動いていた。その生命力の強さを有する体は薬品の素材としても有用で陰干ししてやったものをすり潰し触媒茸と蜂蜜と調合してやると強壮剤になるようだ。
「強壮剤…」
「どうした、アンフルー?」
「私が魔法で乾燥させる」
「え?」
「今日の夜にはこれを素材として完成させる」
「あ、ああ。どうした?急にやる気になって」
「ん、私はいつもヤる気マンマン」
「お前、違うやる気だろ」
「うん」
「うん、じゃねえよ!」
「私が乾燥す、キノク強壮剤作る、今夜寝かせてくれない」
「作らんからな、…まったく」
俺はため息をつきながらアンフルーに応じた。しかし、そのアンフルーはまっすぐな瞳で俺を見つめている。
「………」
「お、おい。急に黙りこくるな」
アンフルーは変な言動をする事があるが、基本的に頭が良くエルフだけあって容姿も整っている。そのアンフルーが無言でこちらを見つめている。正直、何か問題があったのかと不安に思えてくる。
「妙な感じ…」
「ど、どうした?」
「私達は水汲みに来た三匹のゴブリンを倒した」
「ああ」
「その後、六匹のゴブリンが来たのを倒した。おそらく戻らない三匹を捜索に来た」
「その通りだな」
「これは合計九匹をお使いに出していたようなもの。ゴブリン達はそれなりに大きい規模の群れを作っていると思う」
「そうなのか?」
「ん、ゴブリンは陽の光を嫌う。だから奴らは本来、夕方以降か薄暗い森で活動する。それなのに陽の差す渓流にまで水を汲みにやらせている。もし喉が渇いたならそれぞれ勝手に渓流に来て水を飲めば良い」
「つまり…、どういう事だ?」
「きっとその群れには支配者がいる。九匹も群れの者が戻らないのにその後の遭遇が無いのはおかしい。明らかに脅威があると考える。そうなれば索敵するなり襲撃させるなり何らかの対応はするはず」
日はだいぶ傾き夕暮れ、ゴブリン達が動き出すのはこれからか…そんな可能性な頭に浮かんだ。違うポイントで魚を釣ってみるとこの場を離れたリーンが鉢合わせしたりしてないだろうか…。そう思うと心配になる。
「キノク〜!!アンフルー!!」
リーンの声がした、俺は胸を撫で下ろした。
「向こうで誰かが争ってる物音がするニャ!」
莚で作った袋を抱えてリーンが駆け戻ってきた。
「争い?」
「きっと戦いニャ!」
「ゴブリン達か?」
リーンの話を聞いて俺は真っ先にその存在が浮かんだ。
「その可能性は高い」
アンフルーが同意する。
「リーン、アンフルー、荷物をしまうぞ。魚は…このビニール袋に入れて冷蔵庫だ」
「ニャ!」
「身軽になって移動だ。ヤバくなったら部屋に逃げ戻る。そうすりゃ誰も追って来れないからな」
□
「こっちだニャ」
急げや急げではないが俺達はリーンが示す方に急いだ、とは言っても全力疾走ではない。たどり着いた時に息を切らしていてはロクに動けやしない、軽いジョギングくらいの速さだ。
近づくにつれ喧騒が聴力や視力が並であるただの人間の俺にも分かってきた。現場を目視出来る距離まで来て物陰から様子を窺うとまさに戦闘の真っ最中だ。
馬車が見える、その周りにいるのは十重二十重に包囲するゴブリンの群れ。人間より一回り小さい体格のゴブリンの向こうには数人の武装した人達が必死に戦っているが数の差は明らか、実力は人間側有利。しかし疲労しているのだろう、その動きは鈍り明らかに劣勢である。
馬車側は馬車を盾として防戦中、俺はリーンとアンフルーに尋ねた。
「どうする?」
「助けるニャ」
「リーンに同じ」
二人は救出に向かうらしい。
「作戦は?」
「私がリーンの身体強化をする。その次にゴブリンの密集部に攻撃魔法」
「敵が慌てふためくところをボクが蹴散らすニャ」
「分かった。リーン、これを飲んでおけ」
以前、アンフルーが採取した虫の抜け殻をすり潰し蜂蜜などを混ぜたスタミナドリンクを手渡す。
「アンフルーは魔法をかけ終わっらたら飲んでくれ。俺はクロスボウを部屋から取ってくる」
そう言って俺は部屋から装填済みのクロスボウを取ってきた。戻ってくるとリーンの身体がぼんやりと光を帯びていた。潜在能力解放の魔法がかかっているのだろう。
「例の身体能力が四倍になる魔法だな」
「私も成長した。今は五倍の力になってる」
そう言いながらアンフルーがゴブリンの群れに向かい視線を向けた。
「覚悟は良い?私は出来てる」
「ニャ!」
「ああ」
アンフルーが立ち上がり物陰から完全に姿を表す。しかし、ゴブリン達はこちらに背を向けまるで気付いていない。
「エアストーム!」
アンフルーの声が響く、それが俺達三人の開戦の狼煙となった。
□
アンフルーの魔法が飛んだ、それはゴブリンの密集部に吹き荒れるカミソリの刃の嵐のよう。まるで背の高い草が生い茂るど真ん中で切れ味の鋭い日本刀を回転しながら振り回したようにゴブリンの首が、手足が、胴体がスパスパと千切れていく。
次にリーンがグッと一度姿勢を低くしてからゴブリンの群れにおどりかかる。こちらの存在に気付いていない最後尾にいたゴブリンを背後から蹴りつける。
ぐしゃあっ!
あきらかにオーバーキルな砕け方をしながらゴブリンが他のゴブリンに向かって吹っ飛ぶ。他の何匹かを巻き込んで打ち倒した。それと同様の事をリーンは手近なゴブリンに仕掛けている。
なるほど、リーンは格闘戦をする戦闘スタイルだ。同時に相手取るのは一匹か二匹だ。だからリーンは手近なゴブリンを蹴り飛ばし、他のゴブリン達を巻き込むように吹っ飛ばしている。死んでいなくても巻き込まれて倒れている奴らが起き上がるまでは戦闘には加われない。その間に少しでも敵の頭数を減らす作戦のようだ。
「それなら…、狙撃!」
俺は吹っ飛ばされたゴブリンに巻き込まれず、現れたリーンの存在に気付いた奴に照準を合わせ狙い撃つ。せっかく背後からの奇襲に成功したのだ、なるべく長いこと気付かれず一方的に攻撃したい。
「静かにしてろよ、ずっと」
俺はそう言ってリーンを指差し何か叫ぼうとしたゴブリンの頭部を二発目の射撃で捉える。何も喋らせない、ゴブリン共….こちらの存在を知らぬまま死んでいけ。そして第三射、起き上がろうとした奴を狙い撃った。
隣ではアンフルーが右手を突き出し魔法を発動させた。
「ライトニング」
リーンから離れた位置にいるゴブリンに直線的な電光が放たれる。白色の稲妻とも言えるそれは命中したゴブリンを貫き、さらにその後ろにいる五匹程を次々と絶命させた。
「…二発目」
間髪入れずアンフルーが突き出していた右手を引き左手を突き出した。二発目のライトニングの魔法が放たれる、またもやゴブリン数匹を貫通し薙ぎ倒していく。
「三発目」
ここまで派手にやるといくらこちらの存在を隠しながら戦っていてもさすがにゴブリンも気付く。そのこちらに気付いた一団を再び突き出した右手から放たれたライトニングの魔法が打ち倒した。
「四発目!」
アンフルーが無双する。いつもの抑揚の無い声が徐々に熱を帯びてくる。こころなしかその電撃もより鮮やかに、より強力になっていく。
「五発目!!はああああっ!!」
アンフルーが両手の平を頭上に振り上げた。その様子はまるでオーケストラの指揮者が曲のクライマックスに派手に振りかぶる動作のようだ、風なんか吹いてもいないのにアンフルーの髪が…身につけているローブが…暴風の中に身をさらしているかのように激しくたなびく。天に向けているその手の平には強い光が集まり、激しくバチバチと音を立て濃厚な魔力が満ちていくのを感じる。
「ライトニング…バーストォォッッッ!!!!!」
アンフルーが両手を振り下ろした。
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