第59話 キノク、ゴブリンを討つ
リーンの発案で新鮮な魚と森では手に入らない素材を求めて俺達は渓流に来た。もうすぐ日が傾き始めるといった頃合い、いつも採取をしている森を流れる川の上流である。周りは土の地面からごつごつとした岩石の多い地肌となった。
「何か近づいて来るニャ」
リーンが何かの存在に気付いた。俺達は姿勢を低くし岩陰に身を潜める。三匹のゴブリンを発見した。
渓流なので当然水が流れている、岩の合間を流れる水面は水音を発するから多少の物音はかき消してくれている。そのおかげでゴブリン達はこちらに気づきもせず俺達から離れたところを横切るように川に向かい歩いている。。察するにゴブリン達は水を汲みにでも来たのだろう、およそ手入れなんかとは程遠い古びた手桶を持っていた。
「俺がやってみる」
俺は昨日届いた通販商品を手にスキルを発動させる準備をする。日本では許可無く所持していると検挙の対象になる事となったクロスボウ、ボウガンとも言われる物だが異世界なら所持しても問題はないだろう。規制前とあって捨値で売られていた。これ幸いと矢も含めて数を確保しておいた。
息を潜め狙いを付ける俺の視界の先、ゴブリンが確実に捉えられそうな位置に入った。
「狙撃!」
びんっ!
俺が引き金を引くと発した楽器のような弦鳴りの音、次の瞬間には先頭にいたゴブリンの頭部を矢が貫通する。
狙撃のスキルは敵がこちらに気付いてない時に発動するスキルだ。放った射撃武器が頭部など急所を撃ち抜く精密さが向上する。
どさり。
矢が当たったゴブリンは横向きに倒れた。残る二匹は驚きの表情を浮かべ倒れた仲間を見つめている。だが、それは悪手である。射手にやられたのだ、近くにいたのでは第二射の格好の的だ。
びんっ!びんっ!
俺は手にしたクロスボウのトリガーを二度引くと再び弦の音が鳴る。結果は先程と同じ、こちらの位置に気付いていないゴブリンは二匹とも悲鳴すら上げる事も出来ず狙撃の的になり倒れた。
「キノク、お見事ニャ」
倒した三匹のゴブリンから魔石を抜き取り終わったリーンが、解体に使ったククリナイフを渓流の水で洗いながら言った。
「変わった弩、普通は単発。二射、三射出来るものもあるけど当然重くなる」
アンフルーの言う通りクロスボウは普通単発だ、しかし俺の持つクロスボウは三発まで射撃出来る。理由は簡単、ライフル銃で言う所の砲身…クロスボウにおいては台座の部分。その台座に交差している弓、これを三つ取り付けているのだ。
この異世界にも複数撃てるものがあるが、軽いプラスチックやアルミなどがないこの世界では木や鉄などがフレームに使用されている。冒険者ギルドにもクロスボウを使う者はいたが、それなりに良い体格をしていた。使いこなすには相当な筋力も必要とするのだろう。
しかし俺が持っているのは地球産の物、軽い素材が使われ扱いやすい。だから俺にも扱えた、レベルアップや戦士技能取得による筋力の向上もきっと効果もあるのだろう。重くて使えないという事はなかった。
アンフルーは地面に穴を開けた。俺はそこにゴブリンの亡骸を放り込み火葬をする。アンデットになるのを防ぐ意味もあった。その時、洗い終わったククリナイフを腰の後ろに付けた鞘に戻したリーンがこちらに戻ろうと歩いて来たがピタリとその動きを止めた。
「何か近づいて来るニャ」
警告の声を発したリーンは耳を忙しなく動かし警戒する。
「足音が似てるからゴブリンだと思うニャ。固まってまっすぐこちらに来ると言うよりは少し広がって何かを探してるような感じ…。戻ってこないから探しに来たのかニャ?」
「ゴブリンは群れで動く、その可能性が高い」
アンフルーが同意する。
「近づいてくるならもう一戦か?」
俺が尋ねるとリーンが頷いた。
「…そうなりそうニャね、間違いなく」
リーンが頷いた。
「数は六匹、死体を焼いている臭いに気づいたみたいニャ。まっすぐこっちに来てるニャ」
□
結論から言うとあっさりと勝利した。
先に倒した三匹の遺体を焼いているのをそのままにして俺達は近くの物陰に身を潜めた。案の定、ゴブリン達は火葬にしている死体を発見し近くにその近くに寄ってきた。
「仕掛ける」
「ん、マジックミサイル」
俺の声にアンフルーが応じ両端の一匹ずつを即座に倒した。
「ギ、ギャ!」
残る四匹のうちの一匹がこちらを指差して叫んだ。あそこだ!とでも叫んでいるのだろう。その叫んだ口に俺の第二射目の矢が突き刺さる。
「あとはボクが!」
リーンが物陰から飛び出し、慌てふためく残る三匹を仕留めていく。リーンは腰にククリナイフを差しているが戦闘では使わないようだ。突きや蹴りなど格闘を主体とする、小柄だがあのパワーは凄いなと痛感する。
リーンが三体のゴブリンを倒す間に俺はクロスボウを構えて不測の事態に備え、アンフルーは周囲を警戒する。特に問題なく戦闘は終了し、俺達は緊張を解いた。
「増援は無い」
周囲を魔法で探索したアンフルーが告げた。それを受けて今度は俺がゴブリンを解体していた。手にしているのは自前の刃物、いわゆるサバイバルナイフというやつだ。非常に大振りでなかなかに迫力がある。
「変わった形だけど、使い勝手が良さそうニャね」
尻尾を渓流に浸しながらリーンが声をかけてくる。
「ああ、俺の故郷でその昔流行ったものらしい」
俺が今手にしているのは通称『ボウランナイフ』と呼ばれるサバイバルナイフ、三十年以上前に流行した映画の主人公ボウランが愛用した事で知られるようになり人気が出た。
矢を撃ち尽くしたり接近された時のようないざという時に対応出来るように購入していたのだが早速解体で役に立っている。
「かかったニャ!」
リーンが尻尾をサッと引くと水面から巨大なマンボウのような魚が飛び出した。それを見事な蹴りで仕留めた。
「今日の夕食、ゲットだニャ!」,
リーンが明るい声を上げた。
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次回、第60話。
『奇襲!!』。
お楽しみに!




