第58話 何して過ごそうか
「コレを使って焼くんだ」
「変わった道具ニャ…」
「ん…」
風呂から上がり調理場にやってきた俺はホットサンドメーカーを取り出して二人に見せた。直火で使うタイプの物だ。
「まずはアンフルー向きの物…」
俺はボウルに入れて仕込みをしておいた物、砂糖を溶かした牛乳に卵を入れてよく溶いたものに漬け込んだ耳の部分をカットした食パンをフライ返しを使って優しく丁寧に取り出した。それをバターを塗っておいたホットサンドメーカーにしっかり挟み込み焼き始める。
「こっちはリーン向けの物…」
こちらは耳を落としていない食パンを使う。ツナとチーズをパン二枚で挟んで焼いていく。辺りには甘い香りと香ばしい香りが漂い始めた。
「出来たぞ。こっちがフレンチトースト。んで、こっちはツナとチーズのホットサンドだ」
「甘い….。とろける…」
「外はカリッとして中はトロ〜リのお魚料理だニャ〜!」
「お、上手くいったな。このホットサンドメーカーは二枚ずつ焼けるからな、おかわりを焼きながら食べよう」
「ニャ〜!ボクは次にフレンチトーストっていうのを食べるニャ!」
「キノク。私はそっちを…」
「ボクは甘いの〜」
「良いぞ」
「す、すごく甘いのニャ!」
「ん、これも良い」
「どうた?結構美味いだろ?」
「最高ニャ!」
「これは具を変えれば他の楽しみも出来そう」
「確かにそうだな、またいつか具を変えてやってみるか」
「それなら食べたいものがあるニャ!」
「ん?どうしたリーン」
「ここから丸一日くらい歩いた先に渓谷があるんニャよ。そこは水が綺麗で漁れるのはここらへんとはまた違ったお魚がいるのニャ。参加予定の自由市までまだ時間もあるし行ってみないかニャ?」
チラッとアンフルーを見ると頷いている、彼女に異存は無いようだ。
「特に用事も無いしそうするか」
「やったニャ!それなら今日は早く寝るニャ!明日の朝は早発ちニャ!ボク、すぐにオフトゥンを用意するニャ!」
そう言うとリーンはいそいそと布団を敷き始めた。それを敷き終えると今度は後退りを始め、5メートルほど下がった所で猛然と布団へとダッシュした。
「オフトゥンッ!!」
ずざああああっ!!
リーンが頭から布団に滑り込む。コイツは布団を敷く度にこれをやらないと気が済まないのだろうか。さらにリーンはもう一度やりたいのか布団から離れ、再び数歩離れた位置に戻っていく。
次にアンフルーが布団に向かって『とてとて』と音がしそうな感じで歩いていく。手には衣類やタオルを丸めて枕のようにした物を抱え、布団の上に座った。そして俺が普段使っている枕の横に枕状の物を置いた。
「オフトゥン…」
ぽすっ。
座った姿勢からアンフルーがゆっくりと横向きの寝姿勢になった。そのままこちらをジッと見ている。
「何…、やってんだ?」
「キノクを待ってる」
「え?」
「布団は一つ、枕は二つ。もうやるしかない」
「何をだよ」
「子作…」
「言わせねえよ!」
俺は即座にインターセプトを入れた。
「む…」
「む…、じゃない。まったく、何を考えているんだ」
「今、私の頭の中はそうゆう事でいっぱい。…じゅるり」
「なあ、リーン…」
「どうしたのニャ」
「アンフルーって頭良いんだよな?」
「間違いないニャ。だけど天才って色々と紙一重なものなのニャ」
「俺は今、リーンが誰よりも賢く思えるよ…」
□
布団に入ってしばらくするとリーンもアンフルーもすぐに寝ついた。野営時も仮眠はとるそうだが、それはグッスリと眠るようなものではなくあくまで軽く目を閉じて体を休めるというもの。街や村の宿屋に泊まった際に初めて緊張を緩め眠りに落ちるものらしい。
そんな中、俺は寝そべりながらパソコンを操作する。
「リーンは前衛物理アタッカータイプ、アンフルーは後衛魔法アタッカータイプ。そうなると俺は何を目指す…?リーンを援護し、アンフルーに近接攻撃者を寄せ付けないように…。出来る事はアイテムを使うくらい…。回復役か?」
明日の朝に向かう渓谷は例のミミックロックがいる事もあるらしいので俺も最低限戦えた方が良いだろう。岩だらけの渓谷、ミミックロックにとっては最適な隠れ場所だ。俺も少しくらい戦えた方が良いよな…。
リーンとアンフルー以外に俺が見た事がある冒険者と言えば、追放された高貴なる血統の奴等と、たまに一緒になったギルドの奴等くらいか。
高貴なる血統の奴等は何より派手に戦っていたな。出し惜しみしない攻撃魔法や特技で一気に蹴散らす…、魔力消費を気にしない大盤振る舞いの戦い方だった。言わば常に全力疾走のような戦い方である。それ以外の奴等のはまあ…、凡人って感じだったな。
一方でリーンやアンフルーはここぞという勝負所で特技や魔法を使う。一見すると派手さは無い、しかし敵側に増援があったとしてもまだまだ戦い続けるだけの余力を感じさせる…ランナーがたまって一段階ギアを上げるピッチャーのように。
「うん、間違いない。高貴なる血統よりリーンやアンフルーの方が絶対強い」
それなら俺は二人とは違うタイプの戦闘スタイルを得よう。
「えっと天職も買えるのか。どれどれ…戦士技能(LV1)…。天職戦士のレベル1と同様の恩恵を得る。戦士は特殊な技能は持たないが腕力と体力に秀で武器を使ったものならあらゆるスタイルの物理戦闘の専門家。そのプラス効果を得る。百万ゼニー也と…」
派手さは無くてもどんな武器をも扱える戦闘スタイルが出来るのは良いな。これなら槍だろうが、斧だろうが上手になるのは良い。どんな場面でも対応できそうだ。よし、購入!!
ちなみにレベル2は4百万か…、どうするか…。
《御主人、よろしいですか?》
どうした?ナビシス。
《可能であれば購入するのがよろしいかと》
その心は?
《御主人は既に商人の天職をお持ちです》
うん。
《ゆえにレベルアップ時は商人としてのパラメーターアップがなされます。しかし、御主人の場合は…》
どうなるんだ?
《技能を購入する事でジョブを変える事なく、他のジョブの恩恵を技能という形で得られるのです。具体的には筋力と体力、生命力を中心にパラメーターアップ、そして物理戦闘が得意になります》
余裕があれば取った方が良いんだな。
《その通りです。世の後衛職の中には戦士としての下積みを経てから魔法職となった方もいるようです》
そうなんだ。よし、戦士技能(LV2)購入っと!
《尚、レベル3に上がるには九百万ゼニー、4は千六百万ゼニー、5に上げるには二千五百万ゼニーを要します》
すると戦士レベルを5にするには、百プラス四百プラス九百万プラス千六百万プラス二千五百万ゼニーの合計五千五百万ゼニー。
《ぱらぱぱっぱっぱぁ〜ん!キノクは戦士レベルが5上がった。筋力が20ポイント上がった。体力が10ポイント上がった。生命力が10ポイント上がった》
…おい。
《なんでしょうか?》
なんでドラ◯エ風なんだよ。
《いや…、分かりやすいかと…》
そ、そうか…。
俺はあえてナビシスにツッコミを入れる事はせず念話を終えた。そして職業技能以外にもいくつかスキルも獲得した。リーンの援護も、アンフルーのサポートにも回れるようにする為の自分への投資。それを始めたのだった。
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