第54話 生産地は風呂場?
木工職人ケイウンの家を出た後、俺達は部屋に戻ってきた。
「ねえねえ、キノク〜。これは何ニャ?」
俺達が出かけていた間に土間の片隅に新たに設置されていたコインロッカーのようなものを見ながらリーンが問いかけてきた。気になるのかその周りをウロウロと歩いている。
「これは宅配ボックスだよ」
俺はリーンに応じた。
「たく…はい?」
アンフルーが小首を傾げる。
「ああ、宅配ってのは自分の家に買った品物を届けてくれる事だよ」
「ニャッ!?じゃ、じゃあ、この大きい箱にあのマグロというお魚がいっぱい届けられる日も夢じゃないのかニャ!?」
「残念だがそりゃ無理だ。マグロは生の魚だ、冷やしておかないと腐ってしまうからな。この生鮮用の保冷ボックスじゃないと入れられないんだよ」
「ニャ…」
「その代わり、それ以外の物を手に入れられると考えたんだ。冷さなくても良いもので、俺の世界にあったものをな」
「どんな物を?」
興味があるのかアンフルーが尋ねてきた。
「そうだな…、何が必要かこれを機会に考えてみるか」
その日は色々と話し合ってみる事にした、さらにはせっかく地球の物が手に入るので必要な物以外にも色々と手を出してみる事にした。
食べたい物、役立ちそうな物、あるいは薬の材料になりそうな物…、そして異世界でなら高値で売れそうな物とか…。
「まあ、予約した九日後まで時間はあるんだ。まず注文してみようか」
そう言って俺は注文をしてみる事にした。
□
人間とそう変わらない食の好みだが、リーンは猫の獣人らしく魚を好む。そして甘いものも…これは女子特有のものだろうか。
一方でエルフのアンフルーは野菜やキノコなどを好む。肉や魚を食べない訳ではないが、脂っこいものはあまり得意ではない。そしてリーンと同様に甘いものを好む、ちなみにリーン以上に甘党だ。
「これ、何?」
注文して二日後、届いた物を見てアンフルーが尋ねてきた。
「ホダ木だよ」
届いたのはホダ木と呼ばれるキノコを栽培するいわゆる原木である。それが二本到着していた。
「ニャーッ!?木なんか食べられないニャ!」
「ああ、これは食べないぞ。これは栽培に使うんだ」
「どういう事?」
「口で説明するより実際にやってみた方が早いな。リーン、一つ持って来てくれ」
そう言って俺は原木を持って風呂場へ。二人も後ろからついてくる。風呂場の壁際に立てかけ、これまた通販で買った椎茸の菌を原木に塗りつけていく。
「この木は俺の故郷の木だ。これにキノコの元になるものを塗り付けるんだ。花や麦で言うところの種にあたるものだ」
「キノコって自然に生えてくるものじゃないのかニャ?」
「そういうのもあるけど、俺の故郷じゃ栽培するのが主だな。安定的に手に入るし、何より安くなる。自然のやつだと採れる日もあれば採れない日も…。季節によっては手に入らないものもあるだろうし」
「でも、なんでここに木を持ってきたのニャ?」
「このキノコはある程度湿気があるところを好むんだよ。風呂場は常にかけ流しの温泉があるから湿気が常にある。つまり育ちやすいんだ。麦とかもそうだろ?あまりに寒いとか、水がない土地じゃ育つものも育たない…って、何してんだ?アンフルー」
俺がリーンに説明しているとアンフルーが何やら呪文のようなものを唱えた。何やら白い光が菌を植えたばかりのホダ木を包む。やがてその光は収まっていった。
「植物の精霊、ドライアドに見守ってもらう事にした」
「精霊に?」
「ん、これでキノコがスクスク育つ。…ぬぎっ」
「なんで服を脱ぎだしてんだよ!」
「一仕事して汗をかいた。丁度ここはお風呂、都合が良い」
「じゃあボクも入るニャ!」
「こうなったらキノクも入るしかない。キノコの様子を見ながら…」
「何が入るしかないだ!?それにそんな簡単にキノコが生えるか!」
「じゃあ、他にキノコを探す。例えば…じゅるり」
アンフルーが無表情のまま視線を下げた。
「キノクのキノコ…」
「言うと思った!!この下ネタエルフ!」
「まあまあ、せっかくだからキノクもお風呂にするニャ」
「人の服を脱がそうとするな」
「キノクもイヤじゃないクセに〜だニャ」
「悔しい、でも入りたい…。ビクンビクン」
……………。
………。
…。
結局、三人で風呂に入る事になった。
嫌ではないのだが何か負けたような気がするのは俺だけだろうか?
いかがでしたでしょうか?
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