表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/177

第51話 即刻完売、キノクの薬。


「いやあ、(てえ)したもんだ!(わけ)えの!俺の腰の痛えのが一発でぶっ飛んじまったぜ!」


 ギックリ腰に息も絶え絶えになっていた男はすっかり元気になって上機嫌に話をしている。


「もう大丈夫なの?お爺ちゃん」


「おうおう、アリッサ。心配かけたな、爺ちゃんもう大丈夫だぜ」


「良かったあ」


 爺さんと孫娘はそんな会話をしている。


「改めて礼を言わせてくれ。俺は木製品の何でも屋ケイウンだ。そしてここにいるのはアリッサだ」


「俺はキノク、かけ出しの商人だ」


「ボクはリーン。冒険者だニャ」


「アンフルー…」


 隣のスペース同士、自己紹介をした。


「…ところで、つかぬ事を聞くが…」


 ケイウンが身を乗り出す。


「お(めえ)さん、冒険者ギルドで薬を売ってたりしなかったかい?」


「確かに、売っていたよ」


「ッ!?そうか、そうか!お(めえ)さんが作っていたのか!その貝殻、見覚えがあってな。いやあ、最近なかなか売ってなくて困ってたんだ。良い傷薬だと思っていたが、こんな腰に効く()り薬まで…。若いが腕利きの薬師(くすし)のようだな!」


「いや、俺は薬師ではないよ。冒険者ギルドに所属はしてたけどな」


「辞めちまったのかい?」


「いや、追い出されたのさ。パーティからも、ギルドからも…役に立たないってな」


「ああん?なんだそりゃ?これだけの薬作りの腕があるのにか?この効き目、下手な司祭の回復魔法よりよっぽど…いや、それ以上だぜ!この薬を売りゃあ…お(めえ)さん、たちまち売れっ子の薬師(くすし)サマだぜ!」


「そんな大したモンじゃ…」


「ああ、いたいた!探したよ!薬師のお兄さん!」


 そう言って声をかけてきたのは前回の自由市で蚊取り線香を買っていった宿屋だか飯屋の女将(おかみ)だった。後ろに何人かのおばちゃん達を連れている。


「あの虫殺し、今日もあるかい?」


「ああ、あるよ」


「良かった、あるだけ全部おくれ!」


「あ、ああ」


「よし、契約成立さね。ああ、持ち帰りはこっちでやるから良いよ。この木箱に入れとくれ。いくらだい?」


「5万ゼニーだが…」


「あいよ。はい、金!悪かったね、(いち)が始まる前で」


「そりゃ構わんが…」


「ああ、手に入ったよ。じゃあ、あたしらはコレで…。さあ、行こうか。静かな所で分けようよ」


 そう言うとおばちゃん達は足早に広場を立ち去っていったようだ。


「凄えな、本格的な開始時刻前に5万ゼニーたあ…。あ、そりゃあそうとさっきの薬はいくらだい?」


「ああ、あれは…」


 そう言いかけた時だった。


「な、なあ、アンタ!こないだカルロゴ・スーンにギャフンと言わせたあんちゃんだよな?それに良い薬売ってるって…。それ、売ってくれよ。良いだろ?」


「あ、ああ」


「よしっ。俺は人夫なんだが怪我する時もあるから良い薬は持っておきてえ!それに薬師ギルドのより安いって聞いてな。ほれ、千ゼニー!」


「そ、それならこっちも!」

「いや、あたしに!」


 自由市での営業開始は一応午前九時という事になっているが、それ以前に売ったとしてもお(とが)めはない。販売開始を待つ為に近くに待機していたのであろう人々が寄ってきた。


「九時前なのに持ってきた薬が全部売れてしまったニャ」


「凄えな、もう売り切れちまうなんて…」


 隣のスペースにいるケイウンがあんぐりと口を開けている。


「ああ、たまたまだよ。それとこれはそちらで使ってくれ」


 そう言って俺は腰痛に効く軟膏(なんこう)を渡した。アンフルーに渡した魔力回復用のポーションに使ったミントのような薬草。これはスーッとする成分がある、それを活かして患部の鎮痛や冷却を狙った軟膏だ。もちろん触媒茸や蜂蜜も加えてある。


「いやいやいや!こんな凄え薬、いくらすんだよ!もらえねえよ!」


「良いんだ。使ってしまったし、ギックリ腰はクセになりやすい。持ってた方が良いだろう。それにまた孫娘に心配かけたくないだろ?」


「ぐ…」


 孫娘の存在を出されて口ごもるケイウン。どうやら孫の存在を持ち出されると弱いらしい。


「な、なら俺になんか作らせてくれ!こう言っちゃなんだが、俺は木製品なら何でも作れる。家具でも食器でもなんでもござれだ!」


「そうなのか?」


「そうだよ!お爺ちゃんはめーこーなんだよ!」


 孫娘のアリッサが背伸びするようにしながらアピールする。


「そんな大それたモンじゃねえが…、職人街でブッシの家と言ってくれりゃ場所は分かるはずだ。是非、来てくれ!礼がしたい」


「分かった、近いうちに寄らせてもらうよ」


「そうか、待ってるぜ!…んで、お(めえ)さんは今日はどうすんだ?店じまいかい?」


「いや、今日は新しい物を売ろうと思ってね」


「新しい物?薬じゃねえのかい?」


「ああ、食い物だよ。多分、まだ食った奴はいないんじゃないかな」


「へえ…、どんなもんだい?」


「それはな…」


 その時、アイセル正教会の聖堂にある鐘の音が響いた。朝九時を告げる鐘の音だ。


「ニャッ!!」


 アンフルーが鍋敷きのような木の板を莚の上に、さらにその上にリーンが金タライを置いた。そして俺は伏せていた看板を立てた。そこにはこう書かれていた。


『新感覚!雲を食べてみたいと思いませんか?』




 いかがでしたでしょうか?


 作者のモチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどを感想にお寄せいただけたら嬉しいです。レビューもお待ちしています。よろしくお願いします。


 次回、第52話。


『雲を食べてみたいと思いませんか?』


 お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ( ̄^ ̄)ゞハイ☆ 雲 食べたいです。 いつも、可愛くて楽しいお話をありがとうございます。 「ざまぁ」風味がピリ辛ですが、甘々まったり風味がたまりませんね〜〜。 続きが気になって待ちきれま…
[一言] 本当、毎回楽しく読ませて貰っています。早く次が読みたいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ