第50話 爺さんと孫娘。
「今日はここで商売みたいニャね」
金タライを抱えたリーンが俺達に与えられた自由市の販売スペースを見つけ声をかけてきた。
5日おきに広場で開かれる自由市、いわゆるフリーマーケットのようなものだが売るのは雑貨類でなくとも構わない。例えば食べ物、屋台を開いてスープを売ったって良い。パンを焼いてきてそれを売っても良いのだ。
さっそくリーンが編んでくれた莚を敷いた。そしてまずはいくつかの薬を置いた。これは前回の薬の販売を見てまた買いたいと考える人がいるかも知れないと思っての事だ。いわゆる再来客の為の品揃えだ。
だが、あくまでそれは品揃えの一部。今回の本命は別にあるのだ。そのカギになるのがリーンに運んでもらっている金タライ。これが調理器具になる。
「アンフルー、魔力を想像以上に使う事になるかも知れない。無理しなくて良いからな」
今日の新たな商品はアンフルーなくしてはありえない。彼女頼みである。
「ん、平気。それにキノクの作った魔力回復ポーションもある」
清涼感のあるミントと触媒茸を飲める温泉水に溶かし、さらには蜂蜜を加えて味を整えた物をアンフルーは魔力回復ポーションと呼んでいる。俺からすれば爽やかで甘い飲み物だが彼女にとっては素晴らしい妙薬であるらしい。
「ふふふ、甘いから魔力減ってなくても飲みたい」
「食欲に忠実だな、オイ」
「違う、食欲だけじゃない。せいよ…」
「ストップ!ほら、アンフルー。スペース内に入れ、人通りが増えてきた」
「むう…」
そう言ってアンフルーはスペース内にちょこんと座った。きっと性欲とか口走るところだったのだろう、そういう意味では色々とアンフルーは超越している。準備を整えた俺達はのんびりとしついた。そして、しばらくすると様々な雑貨を沢山乗せた木製の台車を押しながら初老の男と小さな女の子がやってきた。
「お爺ちゃん、ここみたいだよ」
俺達の隣のスペースを指差し少女は声を上げた。
「おう」
そう言って初老の男は台車を隣のスペースに置いた。どうやら出店者らしい。
「今日一日、隣みてえだな。よろしく頼むぜ」
「こちらこそ」
手短な挨拶をすると隣の二人が準備を始めた。俺達と同じように莚を敷いて商品を並べ始めた。木製の皿など日用品だ。他に丸太のような物と鉈やのこぎり、木槌などがあった。板などもある。道具や板は莚には置かない、おそらく売り物ではないのだろう。
そして、丸太は長さ30センチ程。その一つを持ち上げ地面に置かいた。
「ここに座っとれ」
「うん」
ちょこん。
女の子が丸太の上に座った。地面から足を浮かせてブラブラさせている。
そして二つ目の丸太に男は手を持ち上げた。先程のより少し大きい。それに自分が座るのだろう。
ぐきっ!
「はうあっ!?」
妙な音と同時に男は悲鳴のようなものを上げると次の瞬間には持ち上げようとした丸太を取り落とした。足の上に落ちなかったのは幸いだっただろう。
「お、お爺ちゃん!」
女の子が声を上げた。
「リーン、来てくれ!多分ギックリ腰だ」
「ニャッ!」
丸太を取り落としたままの姿勢でプルプルしている男の元に駆け寄る。きっと動くに動けないのだろう。
「両脇から支えるぞ!!アンフルー、莚を一枚敷いてくれ」
そう言って俺は男の左、リーンは右についてその体を支えた。
「ゆっくりだ、ゆっくり力を抜いて…。良いか、膝をつけて….。うつ伏せに寝かせるぞ」
莚の上にそっと寝かせた。
「あんた、痛いのはどこだ?」
すると男は声を出すのも苦しいのか額に脂汗を浮かべ体を震わせる。だが、その指先で右の腰のあたりを必死に指差した。
「分かった、ここだな!アンフルー、袋を!」
そして俺はアンフルーが持ってきた袋を受け取った。野次馬が集まってくる。
「なんだ、爺さん?腰やっちまったのか?」
「下手に動かさないほうが良いわよ!」
そんな声がかかるが構ってはいられない。
「安心しろ、薬はある!」
そう言って俺は二枚貝の貝殻を手に取った。中には軟膏が入っている。
「緊急時だ、勘弁しろよ」
そう言って俺は男のシャツをまくり上げた。そしてやや青みのある緑色のペーストを手に取った。
「少しひんやりするけど我慢してくれよ」
そう言って俺は男の腰に軟膏を塗っていった。しばらく男は体をこわばらせ震えていたが、だんだんとそのこわばりは薄れ震えも収まっていった。
「とりあえずこれで大丈夫か…」
男の落ち着いたような様子を見ながら俺はそう言って一つ大きな息を吐いた。
いかがでしたでしょうか?
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次回、第51話。
『即刻完売、キノクの薬』
お楽しみに!




