第49話 はさみうち、はんせい、ひらめき。
「ねえねえ、キノク〜?」
五千万ゼニーを稼いだ翌朝、三人で寝ていた布団から起き出して部屋の中であぐらをかいて座る俺の背中にリーンがしがみついた。俺の胴にベルトのように足を巻き付けてくる。
「次の自由市で何売るニャ?何売るニャ?」
「ん、そうだな…」
「やっぱりポーション?」
すっ…。
今度はアンフルーが俺の前に回り込みゆっくり腰を下ろした。俺の太ももの上に乗る、そしてぐいぐいと腰を押しつけリーンのように足を絡めてくる。
「おい、動けないだろ」
「知りたいのニャー!」
「動かなくて良いよキノク、私が動く。じゅるり…」
「おい、発情エルフ」
「分かってくれて嬉しい、はあはあ」
「二人ともやめんかい」
「いやニャー!」
「デキるまでヤろ」
「メシの時、いちごジャム出さないぞ」
「フニャーッ!!」
「浮遊」
リーンはおんぶの状態から後ろに飛びすさったようだ。パッと俺の体から離れると背後の少し離れた場所に軽い着地音がする。
アンフルーはといえば瞬時に魔法を発動させ俺の体から離れふわりと宙に浮く。そのままスローモーションのような動作で後方宙返り。ちゃぶ台を挟んで俺の向かい側に音も無く座った。
ちょこちょこちょこ!
俺の視界の上の方の端、天井を動く何かに気付いた。
「リーン?」
彼女は天井板の縁飾の出っ張った部分…、線路のレールのような部分を器用に伝い歩きをしていた。そしてある程度の所までいくとそのまま落下。
すとん。
小さな音を立ててアンフルーの隣に座った。二人とも正座をして神妙な顔をしている。そもそも中世ヨーロッパのようなこの世界に正座する文化があるのだろうか?文化とは不倫だけだと聞いたけど。
「いちごジャムを食べられないのはそんなに嫌か?」
二人ともブンブンと首を縦に振る。その様子に俺は思わず苦笑いをした。
「お魚が食べられなくなるのも嫌ニャけど、甘い物が食べられなくなるのも嫌ニャ!」
「私はもういちごジャム無しでは生きていけないカラダになってしまった。くやしい、でも食べたい。ビクンビクン」
「すげえな、いちごジャム」
あの一瓶でこの二人が言う事聞く…、偉大なアイテムだ。感心している俺にリーンが問いかけてきた。
「ところで自由市どうするのニャ?」
「そうだな、薬も良いが他の物も売ってみたい」
「どんな?」
「うーん、手間がかからず高値で売れる物かな」
「そういうものはなかなかないニャ」
「まあな。だからこそ、そういうものを見つけられたら大儲けなんだよ」
そう言って俺は立ち上がった。
「朝風呂に入ってくる。とりあえず今日は何もしないで部屋で過ごすとするよ。幸いな事に金はまだある。のんびりしながら考えるとしようか」
「ならボクもお風呂入る!朝からポカポカになるニャ!」
そう言うとリーンが土間の片隅に向かった。
「ん?どうしたリーン」
「お風呂でコレを使ってみたいのニャ!」
それは大きな金属で出来たタライであった。20世紀のコント番組ではこれを出演者の真上から落として命中させお茶の間を爆笑の渦に引き込んだという。
風呂場にプラスチック製の洗面器はあるが、おそらくリーンは金タライに興味を持ったのだろう。早く使ってみたいとばかりに体をウズウズさせている。
「私はいちごジャムに続く他のジャムについてじっくりたっぷりねっとり濃厚な話をしたい」
「非接触でな」
「む。仕方ない、我慢する。甘い物の為…甘い物の為…」
「甘い物…か」
アンフルーは時々その言動がアレな時もあるが、実力は確かだし物知りである。そのアンフルーが目の色を変える甘い物…、リーンもそれは同様だし…。おそらくこの世界で甘い物は売れそうだと感じた。
「早く行こうニャ!」
グイグイとリーンが俺の背中を持っているタライを使って押す。
「いてて、金タライが当たって痛いだろうが!」
「ごめんだニャ」
「ん?金タライか…」
俺は曲線的な洗面器に対して、縁がやや直線的にも思える金タライを見て少しばかり考えた。
「ど、どうしたんだニャ?」
「ん、ああ…」
俺は顎に手をやって考える。
「思いついた。次の自由市はコイツを使って金儲けだ」
金タライを見ながら俺はポツリと呟いていた。
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次回、第50話。
『爺さんと孫娘』。お楽しみに。




