閑話5 満足に発動しないスキルと人が寄り付かないパーティ
プルチン達がアブクソムの街に帰還し冒険者ギルドを訪れてから二日が経っていた。パミチョに荷物持ちを募集する旨の掲示をさせ翌日来ると言い残した四人であったが受けた傷も疲労も大きく、翌日はまともに動けなかった。その為、さらに一日の休養をして再び冒険者ギルドにやってきたのである。
「あン?誰も応募してきてねえだとう?」
カウンターでプルチンが大きな声を上げている。
「うん。誰からも…。詳しい説明を聞きに来た人もいないよ」
受付嬢のパミチョがプルチンの問いに応じた。
「じゃ、じゃあさ!ミミックロックを殺ったヤツの情報は?剣を使う奴でッ!」
「それもないな〜。噂すら聞かない感じ〜?」
「そんな…」
パミチョに聞いたウナの声が失望に変わった。そうなれば、あの峠道のミミックロックの生息地域を再び四人で進まねばならない。まるで歯が立たなかったあのモンスターの中を…。
「ところで、プルチンさまぁ。怪我大丈夫ぅ〜?」
「ああ、俺達が死にそうになるくらいのヤバい敵だった。マリアントワの回復魔法でさえすぐには治せない程のダメージだ。あのゴーレム、竜…いや古竜に匹敵する奴だったかも知れねえ…」
本当は大きめのミミックロックであったがプルチンは古竜ぐらい強い奴だったと嘘をついた。見栄の為である。
生々しい傷こそ減ったが、まだまだ怪我人といった感じの四人。一番軽傷だったプルチンでさえ怪我の後が見える。鎧を身につけず武道着を着て戦うハッサムは一番重傷であった。それも当然、布製の防具なのだから。怪力を誇るミミックロックにやられてはそのダメージを軽減する事は出来ない。
そうでなくてアブクソムに帰るまで散々遭遇したモンスターとやりあってきた。当然ながら素手で…。その相手どったのはゴブリンなど下位のモンスターである。キノクの飲み温泉水によりパーティの魔力や身体能力の向上が無い中、元々ある程度鍛えていて体格も立派なハッサムは善戦していた。不器用ではあるが力任せにその体格と腕力から繰り出される攻撃はゴブリンに対して一番効果があった。そもそもテクニックが無い泥臭い戦い方でも倒せる相手である。数が少なければ若手と呼ばれる経験の浅い冒険者達でも倒せる相手、当然といえば当然であった。
だが、他の三人は散々であった。時が経つほど身体能力が低下、魔法をはじめとしてスキルが発動しない。それを発動させるだけの能力が無いのだ。例えれば健康であれば誰でも出来る20センチの跳躍も出来ない人物が、特殊スキルである『軽業』を発動させ高さ2メートルのジャンプを伴う宙返りをしようとするようなものだ。
何も出来ない後衛の女子二人はせめて投石でもして前衛を援護すれば良いものを、戦力にもならず後ろで身を寄せ合い震えるだけ。プルチンは使い慣れぬ鉈を振るって戦ったがゴブリンにかわされ当たらず終い。ゴブリンも鋭い攻撃をする訳ではないから低レベルの攻防が繰り返されるだけだったが、相手をしていただけ後衛二人よりは役に立ったというところか。しかし、何も良いところが無かったと言っても差し支えなかった。
プルチンはそれを疲労と体調不良の為と結論づけた。思うように体が動かないのも魔法をはじめとしたスキルが発動出来ないのも…。
しかしその結論は昨日一日あって魔力が回復しているはずの至聖女司祭マリアントワが満足に回復魔法の効果が発揮されてない時点で気がつくべきだったのだ。
本来なら致命傷ですら一瞬で回復させるような最上位の回復魔法が軽傷治癒程度の効果しかない。しかもそんな生半可な魔法ひとつでマリアントワは魔力を使い果たしてしまう。至聖女司祭のはるかに下、聖職者ではやっと聖職者の一員と認められる神官でも軽傷治癒の魔法なら二回か三回は使える。有名なRPGで言うならレベル1の僧侶でもホ◯ミが数回は使えるといったところだろう。
つまり、なまじっか使おうとするスキルのレベルばかり高く必要とする能力や素養、一番肝心な魔力量…全てが足りない役立たず…それが高貴なる血統の四人であったが彼らはその事すら気付いていなかった。
愚かと言えばそれまでだが、それはあまりに罪であり不幸な事であった。
……………。
………。
…。
その後、プルチン達は冒険者ギルド内にしばらく残っていた。新たな荷物持ちを探す為である。実際には荷物持ちだけでなく何でもやらせる便利屋であるが…、それを冒険者ギルドに所属するポーターと呼ばれる専門の天職持ち達に声をかけた。もちろん世間話の為ではない、勧誘の為である。
「ああ、駄目駄目。俺は他でパーティ組んでる。よそを当たってくれ」
「他のパーティと組む日以外は単身でやる事にしている」
誰も首を縦に振らない。むしろ、まともに話も聞いてくれない。
「やっても良いが支度金(雇われる前に渡してその準備に充てる金銭の事)は出せるか?前渡しで50万ゼニーだ、もちろん抜けた時に返したりはしないぞ」
中にはそんな事を言う者もいた。
「それじゃ渡した直後に辞めたと言われたらそれまでじゃん!」
話しかけたウナが憤る。
「それはお前達もだろう?」
「なんですって!?」
「あの募集要項を読めば誰でもそう言うさ。仕事ぶりを見てお前らが報酬額を決める…そうだったよな?」
「ええ、そうよ!何が不満なの?」
「不満しかねえよ。例えばお前ら四人と俺が一緒に出かけて竜を狩ったとする。それもお前らは何もせず俺が一人で殺ったとする。だが、仕事内容に納得しないと言えば1ゼニーも渡さなくて良い…そういう話だよな?仕事ぶりを見て報酬額を決めるって言うのはよ」
「そ、そんな訳…」
「そうとしか聞こえねえんだよ。そうじゃなかったら一日いくらとか獲得額の何割とか明記するモンだ。それに依頼に行かない日も一緒にいろってんだろ?当然、依頼や狩猟をしない日なんだから稼ぎはねえよな、だとすりゃ報酬を払う気なんかねえのが見え見えだ。二度と話しかけるな、クソ女!」
「くっ!!」
ウナは右手を振り上げた!魔法を放つつもりだった。しかし、自身の魔力を増幅してくれる魔法の短杖は悪戯妖魔に盗まれキノクの温泉水を飲む事によって得ていた魔力の底上げも無い今、彼女は満足に魔法を発する事が出来ない。
「どうした、俺を殺るってのか?だが、こんだけの人間が見てるんだ。なんの理由も無く殺しをしたとあっちゃ牢屋送りは免れねえぜ!」
それ聞いてもウナは魔法を使おうとした。一撃だ、一撃で殺してやる!貴族階級の自分をコケにしたのだ、これは無礼討ちだ。構うものか…そう思ったのだったが右手に魔力が満ちてこない。
「ッ!?…命拾いしたわね!」
捨て台詞を残してウナはその場を離れた。
魔法を放てない今、殺しにかかるなら目の前の男と腕力で勝負しなくてはならない。しかし、ウナはそれらはからっきしだ。勝てる要素は無い。そこで自分が見逃してやったかのように振る舞ったのだ。自分達の置かれた状況を理解する事はかなわなかったが、自分の体裁を保とうとする事だけには頭が回った。
ウナがプルチン達と合流すると誰もが同じような顔をしていた。誰も満足に取り合ってくれない。しかし、それは当然の事であった。
労働条件はロクでもない、報酬はまともに支払う気が無いのは見え見え。そして追放したキノクを見ていれば酷い扱いをされるのは目に見えている。誰も受ける筈が無かった。
その深い理由までは結局理解できなかったが、少なくとも荷物持ちを雇える雰囲気ではない。その事だけは理解できた四人は何とも言えない表情をしながら冒険者ギルドを後にしたのだ。
いかがでしたでしょうか?
作者のモチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどを感想にお寄せいただけたら嬉しいです。レビューもお待ちしています。よろしくお願いします。
次回、閑話6,
『八方ふさがりにやってくるもの』。お楽しみに。




