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閑話4 冒険者ギルドの小さな違和感


 冒険者ギルドに併設された酒場でポーター…荷物持ちと呼ばれる男達がプルチン達のパーティ、『高貴なる血統』の荷物持ち募集の掲示をあり得ないと話しながら飲んでいる。今は夕刻を少し過ぎた頃合いである。


 受付カウンターにいるパミチョの元に一人の男性がやってきた。ここから五分くらいの所に住む老職人である。木製品なら家具から食器のような雑器までなんでも作ると評判だ。そして職人らしく動きはキビキビとしている、老いたりとは言えその足取りはしっかりしたものだった。


「ちょっと聞きてえんだが…」


「は〜い、何ですかあ?」


「ここで()り薬…、冒険者製応急薬(アドベンチャラーズメディスン)ってやつが売ってるだろう?あれが買いてえんだが」


 ああ、それなら…とパミチョは返答を始める。


「そこの販売コーナーで…」


「そうじゃねえんだよ」


 パミチョの言葉が全て終わる前に老職人が制した。


「あそこに置いてあるような…ただ薬草(くさ)触媒茸(きのこ)を混ぜ合わせたモンじゃねえ」


「え、冒険者製応急薬ってそーゆーモンでしょ?」


 冒険者製応急薬は清潔な水や医療手段が無い冒険者達にとって無くてはならないものだ。負傷時、その傷口を覆うようにして塗り付け布で巻く。こうすると化膿止めになるし治りも多少は早くなる。だがそれはあくまで応急薬、急ぎで作った物。手早く適当に作る。それで余った物をギルドの買取に出したものだ。


「分かってねえなあ」


 やれやれ、素人はこれだから困るとばかりに嘆息(たんそく)しながら老職人は言葉を続けた。


「俺が言ってんのはあの貝殻に入った奴だよ」


「貝殻に?」


 パミチョはきょとんとした。誰がそんなモン作ってるのよ…。だいたい冒険者製応急薬なんてのは使いきれず余った物をせいぜい大きな葉っぱで巻いて持って帰ってきたものだ。


「そうだ。しかも中身は細かく刻んであるどころかようく練ってあるんだ。傷へのなじみが良い、それに小さな傷なら巻き布をしなくても良いんだ。それが欲しいんだ、ねえのか?」


 随分と細かい事をする奴がいるんだな、そんな事は薬師がやる事だろうに…パミチョはそう思ったが返答する事にした。


「あー、冒険者製応急薬はそれこそ冒険者が使い切らなかった余った物を出してる感じなんで〜。販売コーナーに無ければ無いですね〜」


「なんだ、無えのか…。アレが効くのに…」


「はぁ…、すいませ〜ん」


「まあ、無えならしょうがねえ。また来る」


「は〜い」


 老職人は帰って行った。


「貝殻に入った冒険者製応急薬ねえ…、誰が作った系〜?」


 少なくともパミチョには誰が作ったか心当たりは無かった。むしろ。よくそんな手間のかかる事を…ヒマだねえとさえ思ったぐらいだ。


 老職人が帰った後、同じように貝殻入りの冒険者製応急薬を求めて何組かの客が冒険者ギルドにやってきた。


 それと言うのも薬というのは元来高価なものだ。しかし、怪我を治せねば働く事はかなわない。それゆえ高額でも早く働きに戻り金を稼がねばねらない。ゆえに人々は薬師ギルドなどで売っている薬を買い求めるのだ。


 ギルドとは同業者の組合のようなもので様々な手数料で成り立っている。だからそこで薬を買うのは割高だ。しかし、そこは薬師ギルド、売っている薬に出鱈目(でたらめ)な物はない。少なくともある程度の効き目は期待出来る。割高になるのはデメリットだが、効き目がある程度期待出来る物が手に入るメリットがある。それが薬師ギルドで薬を購入される理由である。


 ところが最近、冒険者ギルドの売店でたまに販売される軟膏(なんこう)のような冒険者製応急薬が販売される事があった。子供の手の平ほどの貝殻に入っているのが特徴でこれがよく効いた。効能は単純な擦り傷や切り傷に対する化膿止めや治癒期間の短縮といった限定的なものだが、薬師ギルドで買うよりも安価で軽傷ならこれで十分。それゆえ、冒険者ギルドでこの薬が売られていると買い求める人が出始めた。冒険者ギルドの隠れた人気商品となっていたのだ。


 それにつられて街の人々はこの薬以外にも販売コーナーで物を買って行ったりした。額としては小さなものだが複数人、それが毎日となればそれなりの額になる。


 ちなみにこの冒険者製応急薬(アドベンチャラーズメディスン)を作っていたのはキノクである。きっかけは自身が怪我をしても至聖女司祭(ハイプリエテス)のマリアントワは回復魔法を使おうともしなかったからだ。そこで話に聞いた冒険者製応急薬を作り始めた。さらには周囲が適当に作っていたそれを工夫していった。


 具体的には患部に薬を塗ったら布を上から巻き付けねばならない。しかし、マリアントワだけでなく高貴なる血統の面々が布の巻き付けも手伝おうとはしなかった。そこでキノクは塗り付けるにように使う事が出来て、さらには最悪の場合には布を巻かなくても良いように軟膏(なんこう)にしたのだった。それと売れば多少の金になる、食いつないでいけるくらいには…。


 そんなキノクの作った冒険者製応急薬、それが納品されなくなった事で起こり始めた事…。それはあくまで少しの…、一日あたり5万ゼニーほどの売り上げが減ったようなギルドにしてみれば微々たるマイナスであった。しかし、それは積み重なっていく。そしてそれはある日突然形となる事を今はまだ誰も知らない。







 いかがでしたでしょうか?


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― 新着の感想 ―
[一言] 毎回楽しく読ませて貰っています。此れからも頑張って下さい、そして早く次が読みたいです。
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