閑話3 高貴なる血統は人を求める。…が、誰も来ない。
「くっ。これか?」
「あ、そーそー。そこです〜、プルチンさま〜」
プルチンの問いにやる気のない声でパミチョが応じた。
冒険者ギルドの壁際にある魔導具、通称『鑑定台』。幅1メートル半程のカウンターのようなものがある。台の端、いわゆる縁取りをするような感じで少し高くなっている。台に置いた物が転がり落ちるのを防ぐ為だろう。
その台の上にプルチンは旅人用宝石を置いた。
カシャカシャカシャカシャ…。
換金用の宝石を台に乗せると鑑定額を表示するバーが回り始める。キノクは初めてそれを見た時はまるでテレビの某有名鑑定番組のようだと思ったものだ。
ちーん。
鑑定完了の音。
百万ゼニーの評価額が表示された。
「おい、金が出て来ねえぞ」
「台の右端にあるボタンを押して、プルチンさまあ」
言う通りにすると鑑定台の上にあった品物が鑑定台の中に消え、払い出し口に金貨が現れた。
「ちぇ〜。旅人用宝石じゃなければ手数料入ってくんだけどな〜」
現れた金貨を小袋に入れて懐にに入れているのを見てパミチョが小声で呟いた。普通の納品ならギルドが二割の手数料が入る。特に自分が案内して売却させた場合、その額の5パーセントを受付嬢が得られる。評価額全体から言えばその1パーセントとなる。しかし、旅人用宝石はすでに手数料として二割引かれるシステムである為に冒険者ギルドはその利益に与る事が出来ない。
パミチョがボヤき混じりに呟いたのらにはそんな理由があった。
「さて、行くか」
「待って。聞く事あったでしょーが」
プルチンがギルドを出ようとするとウナが待ったをかけた。
「あ、そうだったな。おい、パミチョ。最近、岩になりすましてる…」
「ミミックロック」
「あー、それな。ソイツを斬り殺したって奴知らねーか?魔石持ってきたとか…」
冒険者とはハッタリを言う事も多い。ナメられないようにする為、あるいは自分を大きく見せて1ゼニーでも高い報酬を出させる為に。実際にミミックロックを倒した…、しかもスパッと切開したかのように…。これならば言いふらしたくなるのが人情だ。ギルドには酒場も併設されている、武勇伝を語る場としてはうってつけだ。
「うーん、そういう話は聞いてないかな〜」
「ならば腕の立つ戦士の話などは?得物は剣と思われるが…」
返答したパミチョに今度はハッサムが求める人物の手がかりを求めた。
「それも特にないな〜。剣を使う冒険者ってさぁ…、みんなけっこー剣使ってるし〜?せめて珍しい武器使ってるなら分かるけど〜。でも、なんでそんな人探してんの〜?」
「…見所がありそうだからよォ…。ちっと興味が湧いただけだ。まあ、いたら俺に知らせンだぞ!?貴族の生まれかも知れねえ、正規の剣術を修めたと見たンだが…。まあ使えそうな奴ならよォ…、使ってやっても良いかって…まあ、そんなトコだ」
ミミックロックをスパッと切り開けるような腕があるならハッキリ言ってプルチン達よりはるかに格上の存在だ。そんな存在を都合良く使いたい、プルチン達はそんな事を考えていた。
「ふ〜ん。でも、そんな人いないねえ。新顔も特にいないし…、まあ見かけたら伝えりゃい〜んでしょ?」
「ああ」
「了解!!あと、なんか用ある〜?」
「荷物持ちを手配して欲しいですわ」
「うむ、左様。別に戦わなくとも良い、歩いてついて来れればな。簡単な事であろう」
「なるほどね〜。高貴なる血統は最上位職ぞろいだから戦いに死角は無いもんね〜。それなら戦いのスキルが無くても良しと…、ちなみにどんな条件で雇うの?」
「あン?なんだ、条件って?」
薄い木の板を取り出し何かを書き込もうとするパミチョにプルチンは問いかけた。
「その他掲示板に募集してる事を貼り出す、みたいな?だからどのくらいの期間とか、報酬いくらで雇うとか…。あと、こういった事をしてもらう…とか」
ギルドの壁沿いにある依頼を張り出す掲示板の隣には、もう一つの掲示板がある。依頼掲示板に対してそれはその他連絡板と呼ばれている。ここには冒険者同士の連絡に使われる。複数のパーティで依頼に行こうとか、この素材が余っていたら売ってくれとか、ダンジョンの情報を求めるとかそういった感じだ。パミチョはその他掲示板に貼り出す荷物持ちの募集要項に記入する内容を聞いていたのだ。
「そうだな…」
プルチンが口を開いた。
「荷物を持って…、あとは常に水の確保だな。なんせ俺達にゃ水汲みしてるヒマなんてねーからよォ」
「そうねー、そのくらいは荷物を持つ以外にして欲しいトコね」
ウナもそれに同意する。
「ふんふん、荷物を運ぶ。んで、水の確保と…」
仕事内容を記入していくパミチョ。
「あとは見張りですわね。休息時の」
「うむ。まあ、これは我々の野営の横で座っていても出来る事であるから気楽なものであろう。大した苦労もあるまい」
マリアントワとハッサムがさらなる条件を追加していく。
「あー、それとなんたって俺達は実力派パーティだからな。ギルドで依頼を受ける以外にもお呼びがかかるか分からねえ。だから雇う期間は常に…だ。ああ、この時は別に危険もねーから苦労もねーわな。よし、街にいる時は基本無給だ」
「報酬はそうねー、出来高払いって事でどう?何をどれだけ出来たかで報酬の額を私達が決めるって事で」
気楽そうに条件を追加するプルチンとウナ。
何も考えずパミチョは言われた通りに諸条件を書き込んでいく。
「んじゃ、この条件ね。貼り出しとくー」
「ああ、そうしてくれ。俺達は今日は宿で休むぜ」
そう言ってプルチン達は冒険者ギルドを出て行った。
……………。
………。
…。
ギルドに併設された酒場で張り出された高貴なる血統の荷物持ち募集の掲示を見たポーターと呼ばれる荷物持ち達が話をしている。
「駄目だな、あの募集」
「ああ、こりゃハズレだな」
「ポーターは荷物だけ運んでりゃ良いって感じだけどよ」
「戦場に安全な場所なんかねーからな。モンスターが荷物持ちをお目こぼししてくれる訳じゃねえ」
「そうそう、流れ矢はいつどこから飛んでくるか分からねえって事を奴ら分かってねえ」
「それに水汲みもだろ?」
「ああ、水は動物も飲みに来る。…もちろんモンスターもな」
「そこで出会すかも知れねーし」
「飲みに来るのを待ち構えてるモンスターもいるからなあ…」
一日の仕事を終えた荷物持ち達が酒を片手に新しく貼り出された依頼内容を批評している。そもそも荷物持ちを雇うようなパーティというのは実力、実績があるものだ。それがないまだ駆け出しの冒険者というのは手に入れたものは全て自分で運ぶ。つまり戦闘員であり運び人でもあるのだ。しかし、実力のあるパーティは自分達が持ち運べる以上に得る物が多い。ゆえに荷物持ちを雇うのだ。
「まあ、苦労知らずの坊ちゃん達だからな。してもらうのが当たり前、何かやっても感謝なんかねえだろうな」
「ああ、ひでえ条件だからな。奴ら間違いなく分かってねえ。荷物背負って後ろついていくのは大変だって事をな」
「戦闘はその時だけしてりゃ良いけどよ、荷物はずっと持ってなきゃなんねえ」
「それに奪われでもしたら責任を問われるしなあ」
「それでいて野営時の見張りもだろ、じゃあ俺らはいつ休むんだよなあ」
「んで、街にいる時はタダ働きだろ?いつ外に行くか分からねえのに」
「分かってねーよなあ?メシ食ってかなきゃならねーんだぜ。稼ぎが無きゃ出来ねーんだって事を」
「こりゃあ、やってらんねーわ」
「「「だなー」」」
「だけど、前いた荷物持ち…」
「ん?」
「これ、やってたんだろ?」
「全部出来てたかは分からんがやってたんだろうな」
「そう考えるとすげえな」
「まあ、俺達はやらねーようにしとこうぜ」
そう締めくくると男達の話題は別なものに変わっていった。そして男達が語っていたように高貴なる血統の荷物持ち募集に応じる者はいなかったのである。
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次回はギルドに小さな違和感が…?




