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閑話2 キノクの水の効果と素人同然の四人


 プルチン率いるパーティ『高貴なる血統』が冒険者ギルドに帰還し、惨めな敗走をありもしない巨大ゴーレムの討伐話で取り(つくろ)っていた頃、キノク達はとある薬草採取がひと段落したところだった。


「やっぱりキノクのお水はすんごいニャー!!」

「ん…、体に染み込んでいく」


 小休止しながら会話をする。


「そう言ってくれるのは嬉しいが…、ただの湧き水だぞ?まあ、体に良いとは言われてるけどな。整腸作用があるとか冷え性に良いとか聞くけど」


 二人に絶賛される飲める温泉水だが、提供している俺にはイマイチ実感が湧かない。


「ただの湧き水?そんな事はありえない」


「どういう事だ、アンフルー?」


「体に作用するという事は何らかの成分か魔力が…、あるいはその両方が含まれている筈…。キノクはもう少しこの水にありがたみを感じた方が良い」


「そうニャ。ボクはこのお水を飲んでパワーアップしてる気がするニャ!」


「私は魔力の運用が向上しているのを感じる」


「いやいやいや、それはないって!」


「ニャー!本当ニャ!」

「この水は凄い。チキウ人のキノクにはそれがわからんのです」


「どうした、アンフルー。いきなり変な話し方して。むしろ俺にはこの世界の薬草が凄いけどな。適当な薬草と触媒茸(キノコ)混ぜるだけで小さな傷ならすぐ治る薬できちゃうんだから。むしろ二人にはそれらのありがたみを知った方が良いような…」


「「いやいやいや…」」


……………。


………。


…。


 キノクの提供する水は飲める温泉水と言われるもの。


 その水は祖母の湯治宿(とうじやど)にも引かれていてキノクはそれを汲んで持っていたのだ。その為、あらゆる場所で提供できていたのである。


 日本の街中ならそこかしこに水道があり安全な飲み水を得る事が出来る。だが、水筒も無くいきなり山中に放り出されたらどうなるか…、水道の蛇口がその辺にある訳ではない。


 異世界には井戸があるがそれもある場所は限られているのだ。邸内の地面を掘り地下水を汲み上げるものや、河川から水を引き地中を木樋(もくひ)で張り巡らせ街のところどころに水汲み場を設けた共用井戸など種類はあるが組める場所は限られている。


 街を出たらもっと水を得られる場所は限られてくる。池や川は野生動物やモンスターだって水場にしているし、水棲生物は中で排泄(はいせつ)もしているだろう。それに日本の渓谷で見られるような澄んだ清流というようなものでもない。泥で濁っていることもあるのだ。匂いだってある。


 したがって野外での水の確保、しかもそのまま飲める安全で清潔な水というのはたいへん貴重なものだ。しかも異世界の住人には身体能力から魔力の運用まで強化されるという恩恵まである。ずっと飲み続けていた事でプルチン達はかなりの強化がされていたのだ。


 しかし、キノクを追放した事でその恩恵が受けられなくなった。すぐに効果が切れるという事はなかったが、蒸し暑い中を歩いて峠道のミミックロックに出会うまでには大量の汗をかいてその大部分が排出されてしまった。おまけに敗走後に飲んだ生水により下痢もしてしまった。わずかに体内に残っていた温泉水も完全に出てしまった。


 そうなると四人は天職(ジョブ)こそ最上位職ではあるが、能力的には凡庸(ぼんよう)な…いや項目によっては致命的にだめなものがあった。


 面倒な事は他人任せで派手な事だけしたがるプルチンは体力と器用さがない。ハッサムは体を鍛えていたので筋力や体力はそれなりにあるが敏捷と器用さが、ウナは筋力と体力が壊滅的、マリアントワにいたっては人並みに器用さはあるが聖職者のくせに何かと体を動かす奉仕活動をサボっていたので筋力も敏捷も器用さも低い。


 そして何より魔力を使ったより効果的な戦闘が行えるはずの最上位職の四人だが魔力が圧倒的に足りない。具体的に言えば『ゼロではない』といった程度。プルチン、ウナ、マリアントワは魔法攻撃をするし、ハッサムは魔力を身体中(からだじゅう)に行き渡らせ身体能力を強化し、精神に作用させ恐怖や混乱などものともしない心身の極致を行くスペシャリストだがとてもその域には程遠い。


 それでいて使おうとするスキルや魔法は魔力消費量が多く、器用さなど要求されるパラメーターも多い。彼らにはそれらが欠けていた。ゆえに彼らはもうそのスキルを使う事は出来ない。そのカギになるキノクはもういないのだ。


「マリアントワ、まだ回復魔法は使えそうにないの〜?」


 ウナが呼びかける。


「ええ、魔力が戻ってこなくて。とても発動できそうにありませんわ…」


 それもそのはず、使おうとしている回復魔法の消費魔力の方がマリアントワの保有出来る最大魔力より大きいのだ。使用出来る訳が無かった。


「クソ、下手に治療師にかかると高くつくからな。宿に泊まって魔力の回復を待つぞ。おい、パミチョ!」


「な〜に〜?プルチンさまぁ〜」


「この旅人用宝石(トラベラーズ・ストーン)を換金してくれ」


 そう言ってプルチンがベルトに通していたポーチから一つの宝石を取り出した。


「この汚れた服装(ナリ)じゃ宿屋に入れてもらえそうにねーからな。それに汚えのは我慢ならねえ」


「あー。プルチンさまぁ、カウンターじゃ換金できないよ」


「何?」


「カウンターには依頼達成の報酬しか置いてないって感じ〜?換金はあそこの…、鑑定魔道具に置いて〜」


 今まで依頼の手続きも、採取物の換金もキノクが全部やってきた。何もしてこなかったプルチン一行はそんな基本的な事も分かっていなかったのである。



 いかがでしたでしょうか?


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