第48話 五千万パワーアップ!
三人で温泉にのんびり浸かったり、縦一列になって互いの背中を流したり、俺達はゆったりとした時間を過ごした。
そして今、俺達は三人一緒に布団にいる。
「すーすー」
「スヤァ…」
アンフルー、リーン、それぞれうつ伏せに寝る俺の隣と上に陣取り眠っている。
今日稼いだ五千万ゼニーの他にカートゥーンボゥを退治した時の稼ぎもある。しばらく生活には困らない。
「それにどうやらポーション作りというか、製薬業は金になりそうだ」
この世界では薬師にせよ錬金術師にせよ作る薬は高級品で怪我か病気を治す物ばかり。日本でもそういう薬は当然あるが、日本のドラッグストアを見てみれば分かるように◯◯製薬という製薬会社があるとして作るのは果たしてそれだけだろうか?
答えはノーだ。
消臭剤とか殺虫剤、乾燥剤に栄養ドリンク。美容や健康に良いものや薬用の歯磨き粉、シャンプーやボディソープを販売している事もある。幸いな事に俺にはそれらの知識がある。大学生活をしている時にいわゆるドラッグストアのマツザワキヨシにはよく行ったものだ。そこで見聞きした事がおそらく役に立つだろう。
「それで商売していけば…」
きっと二人を食わせていける…、そんな思いが湧いてくる。だがその為には強く、そして色々な事が出来るに越した事はない。二人に守られるばかりでなく自分で身が守れるようになりたい、その為にはまさに自己投資だ。俺はパソコンを起動させた。そして頭の中で頼れる助言者を由布呼ぶ。
ナビシス、助言を頼む。
《御意、御主人様》
そこから俺の自己投資が始まった。
□
まず俺は基礎パラメーターを上げるところから始めた。しかし、前回まではパラメーターを1上げるごとに1万ゼニーずつ購入額が増えていった。しかし、今回は1上げるごとに5万ゼニーが増えていった。先日10ポイント目のパラメーターアップには十万ゼニーであったが、11ポイント目は15万ゼニー。12ポイント目は20万ゼニー…。それを繰り返し20ポイント目の必要額は60万ゼニー。
11ポイント目から20ポイント目までのパラメーターアップの必要額は合計で375万ゼニーである。筋力、敏捷、器用、体力、生命力、魔力の6項目のパラメーターがあるから総額で2250万ゼニーである。
俺は購入決定の項目をクリックした。ちゃぶ台の上の金ピカの山が減った。能力購入の為に消費されたのだろう。
「あとは何かスキルを買っていこう。使い勝手が良いものが良いな…」
戦闘技能という項目があった。剣術、槍術、弓術…様々な技能が羅列されている。しかし、俺は商人だし戦うのは不得手だ。おそらくあまり向いてないだろう。そうなるとあまり必要ないかと思ったが少し興味が湧いたものがあった。
回避の能力である。文字通り敵からの攻撃をかわすものらしい。しかしそれは攻撃だけにとどまらず、例えば昼間の出来事ではないが積荷が崩れてきて下敷きになりそうな時などにも効果は発揮されるらしい。
「これはあった方が良いな。良い客ばかりとは限らないし、あるに越した事はない」
回避の項目を選択する。するとパソコンのモニターには回避初級の文字が現れた。初級?じゃあ上級とかあるのだろうか…。とりあえず選択してみる。
回避初級をワンクリック、すると回避初級レベル1の文字とともに十万ゼニーが消費金額として計上された。レベル2…二十万ゼニーが計上され、それはレベル10(MAX)の表記が示されるまで十万ゼニーずつ必要額が増えていった。総額550万ゼニー、少し手が震えたが決定の項目をクリックした。またもやちゃぶ台から金貨の山が減った。
これで二千八百万ゼニーが消費された訳か…。あ、使ってばかりも駄目だ。何かお金を稼ぐのに有効な方法は…おや?
宅配ボックス(企業別)設置という項目を見つけた、とりあえずクリック。すると出るわ出るわ、色々な宅配業者の一覧が。
「けっこう聞いた事がない企業もあるな。でもまあ、一社あれば十分か」
マウスをカチカチと操作する。シロイヌジャパンの宅配ボックスを選択する。いわゆるコインロッカーのような形状だ。へえ…、配達予定とか到着をメール通知してくれるらしい。もっとも異世界にまでメールは届くのだろうか?
《ご心配なく。その際は私を経由してお知らせいたします》
あっ、助かる!
《つきましてはご相談が…》
えっ、何?
《現在一日の報酬は千ゼニー、これを二千ゼニーに…」
うーん、異世界にいたらパソコン開けないしな。それに薬品作りの時のアドバイスは的確だった。
《でしょう?そこを是非に汲み取っていただいて…》
分かった。これからも頼む。
《御意。今後ともヨロシク…》
じゃあ次は宅配ボックスを購入するか。設置代金込みで百万ゼニーか。ふむ、実物の到着と設置は三日後を予定か。設置場所は…よし、土間の端にしよう。壁を背にして置く事にしよう。
《便宜上、現地にある実際の宅配ボックスは家屋の外に面するようにしておきましょう。室内の方は荷物を取り出せるようにそのまま土間の端に配置というようにして…》
宅配ボックスの設置を決めた、百万ゼニー。他に月々の電気代とかかかるけど大きな痛手ではない。さて、次は…。
《やはり稼ぐ為に必要な能力を身につけていくのがよろしいかと》
そうなると…。
《やはり薬品関係でしょうか》
そうなるよなあ。商人だから色々扱う事は出来るけどまずは色々と下手に手を広げるよりは一つに絞ってやっていった方が良いだろう。それも淘汰されないようなオンリーワンの存在に慣れるような…。
《そうなると役立ちそうな能力は…》
ナビシスが提案をしてくる。本草学、製薬術、錬金術…。他にもいくつか…。
本草学は地球では中国にそのルーツがあるとされる。植物、動物、鉱石…これらの効能や分布を学ぶ学問であるとの事。そっくり同じ物がこの異世界がある訳ではないが、その技能はこの世界でも有効であるらしい。よし、これは取るべき能力だ。知らなきゃ薬は作れない。
抗毒薬に使った減衰茸だって知らなきゃただの食用キノコに過ぎない。知ったからこそ初めて材料となるのだ。もしかするとありふれた素材が凄い薬の材料になるかも知れないのだ。
それに製薬術は薬を作るには大事だろう、今までのものは細かくして混ぜたに過ぎない。つまり今までの薬はは全て材料頼みの調合だった訳だ。錬金術は文字通り錬金術士達が使うとされる技能だ。これがあれば魔法薬とやらが作れるらしい。三つの技能を習得したらちょうどちゃぶ台の上の金貨が全て消えた。どうやらぴったり五千万ゼニーを使い切ったらしい。
「まずは薬屋さんを始めよう。他にも両替とかしながら地道に稼ぐとしよう」
俺はリーンを背に乗せたまま再び眠りにつくのだった。
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これにて第3章は終了です。
次章を始める前に…もうちょっとだけ寄り道が続くのじゃ。




