第47話 スキルレベルがアップした!
「ニャー!!すごい大儲けニャ!」
「キノク、蜂蜜いくつ買える?じゅるり」
部屋に戻った俺達は早速今日の売り上げをちゃぶ台に広げた。すぐ横に敷いた布団に三人で身を寄せるように座り、なぜか頭から毛布をかぶる。俺の顔の両脇にリーンとアンフルー、声の大きさはヒソヒソ話の時ので十分なくらいに近い。
アンフルーが取り出した一千万ゼニー相当の宝石が四つ、そしてさらに現金が12万ゼニー余り。
「うーむ、凄い荒稼ぎだ…。とりあえず次のお取り寄せでリーンには生で食える美味しい魚、アンフルーにはジャムとか蜂蜜とか甘いものを買うとしよう」
「ニャーッ!!ボク、ずっとキノクについてくニャ!おさしみニャー!」
「じゅるり…。そう言えばキノクはパンに塗って食べるのはいちごジャム以外もあると言っていた。私、食べたい。至急、至急!」
食欲全開、二人の乙女は大興奮。
「落ちつけ、アンフルー。注文は済ませたが品物が来るのは二日後だ。まず、金を分けよう。12万ゼニーをまず山分けして…。それからこの宝石か、売ったら4千万ゼニーか…。凄いもんだ」
「うんうん、一年や二年は遊んで暮らせる金額ニャ。まあ、ボクはジッとしてるの苦手ニャから働くけど」
俺は宝石の一つを手に取り、
「いずれにせよ一度現金化したいところだな」
そう言った時の事だった。
『汝の天啓、さらなる先を与えん」
あの厳かな声が響いた。
□
《報告。スキル両替がレベルアップしました》
ナビシスの声がした。
両替のレベルがアップ?両替ってレベルがあるの?
《ありますとも!!》
妙に張り切った口調でナビシスがきっぱりと言った。
《御主人様、今までの両替は単一通貨…つまり同じ通貨を両替するだけでした。例えば、百円玉を百枚を一万円札一枚に取り替えるように》
そうだな。ゼニーを両替したな。
《その両替を便宜上両替レベル1と呼称します》
うん。
《今回新たにレベルアップした両替…レベル2と呼称しましょう。それは換金性の高い宝石を…、ある意味で形を変えた超高額コインとでも言うべきそれを現金化するというものです》
あっ、ちょっと便利かも。わざわざ商業ギルドとか宝石商に行かなくて済むし。
《それにこれにはもう一つ利点が…》
へえ…。それは一体?
《言葉で言うより実際にしてみる事をお勧めいたします。魔力を10程消費しますがそれだけの意義はあるとお約束します》
分かった、ちょっとやってみる。
「両替レベル2!」
グンッ!
俺の体から魔力が抜ける感覚、隣に座るアンフルーの体がピクリと震えた。
「今のは…魔力?」
ちゃりぢゃりぢゃりり〜ん。
指でつまんでいた宝石が姿を消し代わりに金貨の小さな山が出来た。
「ニャッ!お金が出てきたニャー!」
「キノク、何した?」
《さあ、まずはお金を数えてみて下さい》
「分かった。二人とも宝石を現金化してみた。お金を数えるのを手伝ってくれ」
そう言って三人で金勘定をする。すると驚いた事にその額は一千万ゼニーを超えた。
「1250万…ゼニー?」
「三回数えたんニャから間違いって事はないニャ。1250万ゼニーだニャ!」
リーンにもアンフルーも一千万ゼニーだと思っていた宝石が1250万ゼニーになっている。もちろん俺も驚きを禁じえない。
「こ、これは…一体?」
《お分かりいただけましたでしょうか?》
姿形見た事はないが、きっとドヤ顔をしているんだろうなという感じのナビシスの声が頭に響く。
《商業ギルドなどでは手数料を引かれた上で現金を渡されます》
うん。
《その場合、価格の二割が引かれ八掛け…、つまり本来の価値の八割で買い戻しされる訳です。その二割は手数料の名目で…》
確かに…。そういうシステムだからね。
《では御主人様、今回のこの能力をどうお考えですか?》
え?どうって…。いちいち宝石商とか商業ギルドに行かなくて便利だなと…。
《もう一つあるでしょう。そもそも、この両替レベル2はこの世界で第二の金銭として扱われる宝石を自らの力で現金化しているのです。つまり、手数料を支払わなくて良い….》
だ、だから手数料取られて売る時には一千万ゼニーになってひまう宝石が、購入時の1250万ゼニーのまま売れるんだ…。
《Exactly!!》
す、すごい。これなら四千万ゼニーじゃなくて五千万ゼニーになる。俺はナビシスから伝えられた内容を二人に伝えてた。
「それ凄いニャ!」
「でも全魔力の半分がもってかれちまうから連発は出来ないんだ。二個目の両替はしばらくしてからだな」
「それならこういう手段がある」
ぴとっ!
アンフルーが後ろから抱きついてきた。両手が前に回される。
「な、何?」
「私が魔力をキノクに回す。魔力移行(トランスファー・マジックパワー!」
アンフルーの手が接している俺の腹のあたり、その手の平から温もりのようなものが流れ込んでくる。なんだかとても心地よい。
「魔法を!」
アンフルーがそう言うので俺は再度の両替を行う。ちゃぶ台に再び1250万ゼニーの山が出来た。それをさらに二回繰り返す。テーブルの上に金ピカの山が出来た。
「ご、五千万ゼニーだ…。と、とりあえず分けよう」
俺がそう言った時の事だった。
「このポーションの売り上げはキノクが得るべき」
「そうだニャ。作ったのはキノクだニャ」
「そうは言うけど俺達は…」
「パーティだニャ。でも、それは依頼をしている時の話ニャ。そういう報酬なら山分けにすべきニャ。でも今日は集めた材料で作ったキノクのお薬ニャ」
「それにキノクは稼げば稼ぐほど強くなる。自分の力で作ったものを下手に山分けするより受け取って強くなった方がいい」
「だけど、材料を採取をしてくれたり…」
「確かにしたニャ」
ころん。
リーンがあぐらをかいて座る俺の膝の上に頭を乗せて仰向けに寝転がる。
「でも、その薬草はいくらで売れると思うニャ?」
「それは…」
大した額ではないのが正直なところだ。犬獣人のヒヨウシイが俺の毒蜂カートゥーンボゥの尾針を買う為に薬草集めにも走り回った。しかし、そのお金は銅貨がほとんど。一束で何百何十円…みたいな感じだろう。
「余程希少な物ならともかく、街から近いこの森にある物なんてありふれてる。とても五千万ゼニーにはならない」
「確かにそうだけどさ…」
アンフルーが指摘した事…もっともなんだけど…。でも、それだとなんて言うかさ…。
「だからね、キノク〜」
膝の上のリーンが声をかけてきた。
「ん?」
「お金はキノクに任せるニャ。その代わりボク達を養うニャ」
「ん、良い考え」
「や、養う?」
「そうニャ。キノクはお金を稼げるニャ。ボク達を食わせていけるニャ。ボク達が冒険者をしてるのは稼ぐ為ニャ、それで食べているニャんよ」
「キノクは稼げる。私達を食べさせていける。逆に私達はキノクを支える。それにもう私達は嫁も同義(同じ意味という事)」
「えっ?えっ?」
「この部屋で過ごして…」
「一緒のオフトゥンでも寝てるのニャ!」
「あ、ああ…」
「そういう訳で、今後ともヨロシク…」
「家族になるニャー!!」
前のリーン、後ろのアンフルー、そんな二人がそんな事を言ってくれた。
「リーン…、アンフルー…」
少ししんみりしてしまう。
「さあ、そうと決まれば…」
起き上がったリーンがいそいそと服を脱ぎ出す。
「一緒におんせんに入るニャー!!」
「さあ、キノク…。脱ぎ脱ぎ…」
「お、俺の服を脱がそうとするなぁッ!」
アンフルーが俺の服に手を伸ばす。
「ええい、大人しくするニャー!!」
「大人しく、大人しく…キノク」
こうして俺は入浴熱心な女二人によって風呂場に引きずられていった。しかし、そんなドタバタも悪くはないか…そんな風に思っている自分も確かにいるのを改めて感じていた。
いかがでしたでしょうか?
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次回、第48話。
『五千万パワーアップ』。お楽しみに。




