第42話 精力剤を推すナビシス
「じゃあボクは水辺に行ってくるニャ!」
大きな布袋を持ってリーンが駆けて行った。素材と何か魚を狙うつもりなのだろう。
「私はキノクの護衛を兼ねて素材集め」
アンフルーが横に並ぶ。
「とりあえず予定通り日没まで色々やってみよう」
そう言って俺達は採取を始めた。今いるのはアブクソム近郊の森。ただ、昨日まで行っていた方角ではなく違う方へ。街の水源にもなっている湖の周りに広がる森である。
「水気が多いな」
水辺近くならいざ知らず、そうでない所にもぬかるんだりベチャベチャした所が意外とある。足を取られないように注意する。
「こういう所には茸が豊富」
アンフルーが見慣れぬ茸を摘み取っている。俺も一緒になって採取する。
《情報、これは減衰茸。食用であると同時に薬効成分を極少化します。薬品調合の素材となります》
え?なあ、ナビシス。それじゃ薬品調合の素材にする意味ないんじゃないか?だって薬効が極小…つまりほとんど効果がなくなっちゃうって事だろ?
《いえ、無くなる訳ではありません。限りなく薄まる…そんな風に考えていただければ…》
つまり効能が極限まで少なくなるんだよな、じゃあ傷薬ならほとんど回復効果がなくなるじゃないか。RPGで言えばHPが1しか回復しないみたいな…。
《数字や強い効き目だけが薬ではありませんよ》
どういう事だ?
《それはですね…》
俺はナビシスの話に耳を傾けた。
□
その日の夜…。
俺はアンフルーが採取した減衰茸を細かく切り、魔法でよく乾燥してもらった。それを乳鉢ですり潰していく。
「触媒茸とは違うニャんね。食べられるやつニャ!」
リーンが手元を覗き込んでくる。
「これは減衰茸と言って食べる事も出来るが調合にも使えるらしい」
「どんな効果ニャ?」
「触媒茸は効果を増大させるが、減衰茸は反対だ。効果をほとんど無くす」
「ニャッ!それじゃ駄目な薬ニャ、効き目が無いニャんて…」
「俺もそう思った。だけどな…」
俺はそう言って今度はカートゥーンボゥの毒蜂から取り除いた毒液を入れたジャムの空き瓶に手を伸ばした。
「ニャー!?それはカートゥーンボゥの毒液ニャ!」
リーンが慌てるが俺は冷静に別な容器にそれを少量入れた。ドロリとした黒い液体が広がる。そこに粉末状にした減衰茸をパラパラと入れていく。
するとドロリとしていた黒い毒液が色はそのままにサラサラの液体になった?。
《報告。毒の成分は極少化されました》
お!?こういう状態になるのか。
《是。ここに…》
飲む温泉水を入れるんだな。
《是。だんだん色が薄くなっていきます。そして…》
あっ、薄い黒から青色に。
《報告。抗毒薬:鳥型蜂の作成に成功しました!》
妙なファンファーレと共にナビシスの声が響いた。
おい。なんだ今の?
《新薬作成成功のお祝いです》
お祝いです、じゃねえよ。
《まあ、気にしないで下さい。さあ、次の新薬を作らないと!…おや、アンフルーの様子が….?》
えっ、アンフルー?
「キノク、…これ」
アンフルーが何かを差し出した。
「これは…、昨日手に集めてた虫の抜け殻?」
「栄養がある。だから精がつく。…精がつく、はあはあ」
「おいおい、アンフルー!」
「精が…つく。生卵を摂った時みたいに」
「生卵って、お前!?腹を壊すぞ!」
地球でも生卵を食えるのは地域が限られてるんだぞ!日本くらいのもんだ。
「生卵ぉ…」
ずいっ!
アンフルーが発情したような表情で迫ってくる。
「赤蝮ぃ…」
蝮を干した物だろうか、いつの間にかアンフルーはそれを持って迫ってくる。右手には虫の抜け殻、左手に蝮の干物…コイツ何を考えているんだ!?
《新しい調合があります》
な、なんだと!本当か、ナビシス?
《はい。まずその虫の抜け殻と赤蝮を粉末にして…》
「お、おい、アンフルー。その虫の抜け殻と赤蝮をくれないか?新しい薬が出来そうだ」
「ん…、はい」
「お、ありがと」
《その二つをすり潰したら触媒茸を加えて混ぜ合わせます。量は…、小さじ2ほどで…》
小さじ、持ってないよ。
《じゃあ、少しずつ手でちぎって…、はいOK。よく混ぜ合わせたらその両手鍋にいれて弱火でコトコト…》
な、なんか料理番組か小学校の理科の実験みたいだ。
《そこに蜂蜜を少量加え、最後に飲む温泉水を加えて練れば練るほど…》
おお、色が変わって…。
《うまい!!テーレッテレー♬》
「ねるねるね◯ねかよッ!!CMでおなじみの効果音までつけやがって!」
《報告。精力剤:夜王が作成に成功しました!》
おいっ!
《これはもう凄いですよ、飲んだその日は精力絶倫。もうまさに夜の王!ちなみに一部レシピを変えますと精力剤:夜姫が作成可能です》
ちなみにじゃねえよっ!
《先程の材料にいちごジャムを加える事により女性がより好む風味を実現、効果をさらに発揮するようになっております。とくにエルフ女性にオススメで…》
オススメしてんじゃねえよっ!
《さらにさらに!今、手持ちの材料にはありませんがいちごジャムではなくマタタビを加えると猫獣人族の女性によく効いて…》
なんでアンフルーとリーン向けみたいな物をオススメしてくるんだよ!
《ほら…、そこは…ねえ?》
口調まで変わってるぞ!オイ!
こうして俺は脳内でナビシスにツッコミながらも様々な薬品を作るのだった。
いかがでしたでしょうか?
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次回、第43話。
『繁盛祈願!キノクニ屋』
お楽しみに。




