第41話 キノク、フリーマーケットに申し込む。
「キノク〜。自由市で売るのはやっぱりカートゥーンボゥの尾針かニャ?」
商業ギルドからの帰り道、リーンが聞いてきた。自由市、いわゆるフリーマーケットである。先程、商業ギルドで無事に手続きも完了、一日三千ゼニーで広さ二畳分のスペースを借り受ける事が出来た。
「そうだな、まずはカートゥーンボゥの尾針」
「でもそれは狩人とか冒険者とか、弓矢を使う人しか買わないニャ!」
「あとは…そうだな。冒険者製応急薬とか…」
「でも、薬草と触媒茸があればけっこうなんとでもなるからあまり高くは売れないニャ」
「確かにその通りなんだが…」
冒険者製応急薬…、材料さえあればすり潰すなりなんなりしてわりとなんとかなる傷薬である。だから、クエスト帰りの冒険者が様々な魔石や素材などと一緒に売りに出したりする。一つだいたい数百ゼニーになり、二つ三つ売って屋台で黒パンと薄いスープを買うような感覚だ。
「ちょっと今回のカートゥーンボゥの退治で思ったんだよ。単純に薬草と触媒茸の組み合わせだけで良いのか…ってさ」
あの大きな毒蜂、カートゥーンボゥを退治するのに特製蚊取り線香を使用した。最初は金鶏菊と触媒茸の組み合わせだったがその割合はどんどんと変わっていった。触媒茸は微量で良く金鶏菊も少なくし温泉水を混ぜ煙がよく出る材料を加えた。すると金鶏菊の殺虫成分を含んだ効き目は素晴らしく、まさに煙にかすっただけでカートゥーンボゥが面白いように落ちていった。殺虫成分の効き目はハッキリ言って凄かった。いかに煙の量を多く出すか…そちらの方が重要だった、その煙に含まれた殺虫成分は強力極まりなかったのだから。
そしてその結果、カートゥーンボゥを一匹残らず退治する事が出来たのだ。薬効とその他もろもろの要素を組み合わせればいわゆる霊薬という物が作れるのではないかと考えたのだ。
「そういう事…。なら…」
「どうした、アンフルー?」
俺の話を聞いてアンフルーが口を開いた。
「素材を集める。多種多様、色々な物を組み合わせる。意外な組み合わせが様々な薬を生む」
「そうなのか?」
「ん。それにキノクには『おんせんすい』がある」
「え、あれか?」
「そう、あれを使った水薬はそれだけで凄い。コッソリ蜂蜜入れて飲んだら頭スッキリ、魔力回復」
「お前、盗み食いしてたのか」
「実験と言って。でも、分かった。蜂蜜は薬の重要な材料になりうる。魔力回復霊薬、きっとバカ売れ」
「そうなのか?」
「ん。魔術師ギルド、冒険者ギルド、国の軍隊も欲しがる。間違いない」
「冒険者ギルドは論外だ。国も嫌だ、ハッキリ言って」
「ん。下手に売れば囲い込みにくる」
「囲い込みって言うより拉致だろうな。この異世界にすら転移させたんだから」
「国を出るというのも考慮。選択の余地はある」
「確かにな。だが、俺は…」
「俺は…、何?」
アンフルーが覗き込むように聞いてきた。
「何でもない、少し忘れ物があるだけだ」
「そう」
「ねえねえ、ところで自由市までこれから三日。どうするニャ?」
「出来れば色々と素材を集めて薬を作りたいな」
「それなら森に行こうニャ!色々採れるし、お魚も採れるのニャ」
「それが良いかも知れないな。アンフルー、どうだ?」
「ん、それで良い」
「よーし、ボク頑張るニャ!いっぱい色々集めるニャ!」
「ああ、頼むよ。意外な組み合わせが凄い物を生んだりするみたいだから」
《是。助言は私にお任せを》
おお、ナビシステム。
《呼び方として、ナビシステムは少し長いので今後はナビシスとお呼び下さい》
おや、なんだか人名っぽい。
《システムでありながら自我を持つ私。…ふふふ》
え、なんだ?ナビシス、なんだか厨二病っぽい設定に喜んでないか?
《いえいえ、それはむしろ御主人様の方かと…》
マ、御主人様だって?
《そうです、毎日一千ゼニーいただいておりますので》
あー、はいはい。雇い主だから、そういう事ね。でも、なんで俺が厨二病になるんだ?
《是。現状を報告いたします。現在、御主人様は私と脳内で会話出来る状態にあります》
うん。
《つまりこれは脳内会話で『どう思う?もう一人の俺』とか、『お、俺の中から内なる声が…』とかやりとり出来る訳で…》
却下だ、却下!
《でも、一回くらいは試してみたかったり…》
くっ!?妙に人間くさいシステムだ!
《まあ、話を戻しまして…。現状、薬品製造は良い選択かと》
おっ!やっぱりそう思う?
《是。その理由は…。おっとページの都合が…》
おい、なんだ!?そのページの都合ってのは!?
脳内で盛大にツッコミながら俺はリーンとアンフルーを連れ森へと向かうのだった。
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