第40話 販売と手数料。
我ながらドヤ顔というのをしていたかも知れない。自信たっぷりに受付嬢にカートゥーンボゥの尾針に毒が無い事をアピールし売り込んだ….、その時の事だ。
「買ったッ!」
「えっ!?」
不意に横から声がかかった。見れば毛皮を使った服を着た『ザ、猟師』みたいなオッサンが近づいてきた。
「まったく大した肝の太さだ。大丈夫とは思っていてもカートゥーンボゥの針を自分の腕に刺すなんざ、なかなかどうしてそこまで大胆にはなれねえもんだ。全部って訳にはいかねえが…、そうだな二十本買う。だから一本一万ゼニーって事にしちゃくんねえか?」.
それなら合計二十万ゼニーか。百本以上あったな、それなら…。
「商談成立だ。初のお客サマだし、そうだな二本オマケしよう」
「良いのか!よし、なら二十万!」
そう言って銀貨を二十枚出してくる。
「じゃあ、こちらも二十…。そしてオマケの二本だ」
「おう、もらってくぜ」
そう言うとオッサンは上機嫌でギルドを出ていっ、た。
「お、おい!それ、一つ一万って事で良いか?」
猟師と思しき他の男が声をかけてきた。
「ああ、良いよ。いくつ欲しい?」
「二つ…、いや三つくれ!」
「はいよ、三つ」
俺は金と尾針を交換する。
「こっちは五つだ!」
「俺は十個まとめて買うだから…」
「良いぜ。そちらの十個の旦那には一つオマケだ」
「良し、話が分かるぜ!兄ちゃんよお」
ギルドにいた十人程が買って言った。出ていった尾針の数は五十個少々、俺は受付嬢に向き直る。
「あー、悪いな。いくらか売れてしまった」
「い、いえ…」
目の前で繰り広げられた販売促進のプレゼンテーションと猟師や狩人と言われる人達の次から次へと行われる購入劇に受付嬢は呆気にとられていた。
「てな訳で狩人ギルドさんに売り込みに来てた訳だが…、買うかい?」
「え、ええ…。一個あたり一万ゼニーでよろしいですか?」
「ん、ああ。良いぜ」
「ちなみに商業ギルドに加入はされておりますか?」
「いや、してない。なんせ元手も何もなかったからな」
「そうなると…、大変申し訳ありませんが販売価格から手数料をいただきます。…二割ほど…」
「手数料…」
「はい。ギルドは半ば公的な機関でもありますから…。税金などが発生しまして…。商業ギルドの方でしたらそれらは不要なのですが…」
うーむ、そういうものなのか。そうなると一つあたり八千ゼニーの売り上げか…。
「そうか、でも場所を借りてしまったから売るのは二十個にとどめさせてくれ」
□
二十個のカートゥーンボゥの尾針を売った俺達がギルドから出てすぐの事だ。
「な、なあ。おみゃあさ」
「俺の事か?」
頭にターバンのようなものを巻いた一人の男が声をかけてきた。
「そ、そうだぎゃあ!!まだ残っておるがね、あの針?おみゃあさ、あれをすぐに売ってまうんがね?」
「いや、まだ決めていないが…」
「ほうか、ならどこ行けば売ってくれるだぎゃ?」
「どういう事だ?」
「俺もあのカートゥーンボゥの尾針を鏃にしてみたいんだがや、だけんじょそんなに懐が温かくにゃあて。だもんで、買っていった奴らの感想を聞いてから買おうと思ったんだぎゃあ」
「それならギルドで…」
「チッチッチッ!!そりゃおみゃあさ、高うついちまわあよう?ギルドだって儲けたい。だから一万ゼニーに二割乗っけて…。な、分かろうも?高くつくだぎゃあ!」
なるほどな。買うのは品質を知ってから、だけど安く済ませたい…か。
「確かに道理だな」
「じゃろう?それにおみゃあさ、よそのギルドでも二割引かれて売る事になるだぎゃ。だったら、後で売ってちょう。おみゃあさは手数料が引かれない、俺は安く買える!良い事ずくめだぎゃ!」
正直、調子の良い奴だが言ってる事は道理にかなう。しかし…。
「売れれば…な」
もしこの男の気が変わったら俺は在庫を抱えなくてはならない。
「まあ、そう言うなち!欲しいのは間違いないなも、あとは実際に使った奴が何て言うか…それだけッ!それだけなんだぎゃあ」
ふむ…。どうするか…。売れた商品がどんな評判になってるか知りたいと言うのもある。好評なものは売り続ければ良い。ましてや買う可能性がある相手、簡単に手放すのは惜しい…。
思案を巡らしあてもなく視線を彷徨わせると、街の広場が目に留まった。確かここは…。
「そうだな、なら…三日後」
「三日後?」
「あそこの広場は5と10の日に自由市をやってたよな?次は三日後…」
「そ、そうか!おみゃあさ、そこで尾針を売るんだぎゃ!?なら、その時に…」
「ああ、その時だな」
「こ、こうしちゃおられん!」
その男は荷物を背負い直すとどこかに行こうとする。
「どこ行くんだ?」
「森だぎゃあ!獲物でも薬草でもとって金を集めるぎゃあ!」
そう言うとその男は街の外へと駆けていったのだった。
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