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第39話 プレゼンして売ろう。


 リーン、アンフルーと共に俺は街を歩いていた。目的は当然、鳥型蜂…カートゥーンボゥの針を売る為だ。


 しかし、カートゥーンボゥの針は矢に取り付ける鏃として大変優秀な素材だが、猛毒を含んでいる事で知られる。それで獲物を射るとたちどころに毒が全身を回り食肉として適さなくなる。また、取り扱いが難しくうっかり指でも切ろうものなら今度は自分が死の恐怖と向かい合う羽目になる。そう言った面で扱いが難しく、それゆえ買いとってくれる所も限られている。


 その買いとってくれる先の一つが国の窓口だ。カートゥーンボゥの毒針を(やじり)にして確実に殺す為の武器として確保するのだという。戦争の為に備えておくのだ。相手が人間なら解体して食肉とするような事もない、ゆえに躊躇なく使うのである。


 しかし、そのカートゥーンボゥの毒蜂だが引き取り価格はとても安い。仮に百個売っても数万ゼニー、ひとかすりしたら命の危険にさらされる毒蜂と命がけで戦い得た物の対価としては馬鹿馬鹿しくなる程の安値である。


 …だが、もし毒を取り除けたらどうか?


 買い手が付くと思ったのだ。カートゥーンボゥの針は()と呼ばれる棒状の部分に取り付けて接着するだけで完成し、刺さった相手からは抜けにくい。


 ゆえに…。


「買い手はつく」


 そう考えたのだ。


「キノク〜。獲れたニャんよ」


 街の中を流れる小さな川のほとりからリーンが戻ってきた。


「ありがとう、リーン」


「でも、キノク〜。これ、何に使うのニャ?」


「ん、ああ?これはな…」


 そんな会話をしながら俺達はとある建物にたどり着いた。



 アイセル帝国の帝都アブクソム、ここには様々なギルドが存在する。冒険者ギルド、商業ギルドなどが一般的だが他にも様々なギルドが存在する。


 俺達がやってきたのは狩人ギルド。アブクソムにあるたくさんのギルド、そのうちの一つである。ギルドとはそもそも同業者同士が集まった組織である。盗賊や魔術師などのギルドもあるし、被服や小麦とかパンの販売者のギルドもある。日本で言えば『職業名』の後ろに協会とか連合会というような名称が付く団体のようなものだろうか。


「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 受付の担当嬢が出迎える。


「これを売りたいんだが…」


 そう言って俺は木箱に入れ換えたカートゥーンボゥの針をカウンターに置いた。


「これは…」


「見ての通りカートゥーンボゥの針だ。これを売りたい」


 受付嬢の片眉がわずかにピクリと動いた。


「お、お客様。せっかくのお持ち込みですが…こちらは獲物の肉にまで毒が回ってしまいますし取り扱いも…。需要が無い訳ではありませんが…」


 あまり買いたくないようだがさすがにギルドの顔とも言える受付嬢。そんな事は極力表情に出さず対応も丁寧だ。冒険者ギルドの受付嬢(パミチョ)とは違う、しっかりしたものだ。


「毒は回らないよ」


「…どういう事でしょう?」


「言葉通りの意味さ。実はこのカートゥーンボゥの尾針(おばり)からは毒を取り除いてある。安心してくれ」


「ご冗談を…」


 受付嬢から軽いため息が洩れた。


「確かにカートゥーンボゥの針は(やじり)にするには理想的な形状をしていると聞き及びます。それゆえ毒を取り除けば…、そう考えた人も確かにいました。しかし、いくら針を水で洗っても布で拭い取っても毒の成分が残留していて…。肉を持ち帰る事が稼ぎの大きな割合となる狩猟にはとても向きません」


「普通ならね」


 俺はここで切り込んだ。


「リーン!」


「ニャッ!!」


 リーンがカウンターのテーブルにガラスのコップを置いた。俺の家にあったものだ。中には水が満たされ一匹のメダカのような小さな魚が泳いでいる。


「すぐそこの川ですくった水にいたものだ。ここにカートゥーンボゥの針を入れたら…、どうなると思う?」


「そ、そんなの…」


「死んでしまうに決まってるじゃないか。そんな小さな魚じゃ…そう思ってる」


 俺は受付嬢の表情を見ながら言った。そして尾針の一つを手に取った。


「…違うんだな、これが」


「あっ」


 ぽちゃん…。


 コップに針を落とした。それに驚いた魚がコップの中をグルグルと泳ぎ回る。周りで見ている奴もいるんだろう。軽いざわめきが聞こえる。


「こんな小さな魚がこれだけ動いたら毒が回ってすぐに…ね?もしこれでもお疑いなら…ちょっとらこの中の針を一本指差してくれ」


 唖然としている受付嬢は俺の言う通り一本の針を指差した。


「これか?よし!!」


 そう言って俺は服の袖をめくった。


「な、何を…」


「まあ、見てなよ」


 そう言って俺は受付嬢が指し示した尾針を手に取った。


 ちくり…。


 俺は軽くだがその針を腕に刺した。


「きゃあっ!!」


 受付嬢が声を上げた。


「キノク〜ッ!」

「キノク!」


 リーンとアンフルーもだ。


「どうだい、俺が苦しんでいるように見えるかい?」


 俺は受付嬢に微笑みかけるようにそう言った。




 いかがでしたでしょうか?


 作者のモチベーションアップの為、良いねや評価、感想に応援メッセージをいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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