第37話 お金を持ち歩く不便さ。
依頼の完了による報酬を得た俺達は部屋に帰ってきた。昼食を済ませ今は思い思いにのんびりしている。
「うニャ…。ゴロゴロゴロ…」
畳の上に寝そべりリーンが喉を鳴らしている。その上半身は俺の膝の上に預けている。
「戦利品はたくさんの魔石とカートゥーンボゥの毒針か」
「ニャ。また魔石を大きくするのニャ?」
閉じていた目を開けて俺を見上げながらリーンが聞いてきた。
「そうだな、まずは魔石からやってみよう、…合成!!」
グンッ、ゴッソリと魔力が抜けていく。確か俺の魔力は20、合成には魔力を10ほど要するから半分持っていかれた事になる。
ごろん…。
一つの大きな魔石の塊ができた。
「これだけでちょっとした稼ぎ」
出来上がった魔石を見てアンフルーが呟く。
「そうだな。それにしても良かったのか、アンフルー?」
俺は声をかけた。
「ベアイエロプー商会で蜂蜜を買わないっていうのは…」
「ん…」
アンフルーは少し思案してから再び口を開いた。
「蜂蜜は凄く高価」
「そうらしいな」
「こんな小瓶で金貨が何枚も飛ぶ」
おそらくその小瓶とやらのサイズなんだろう。アンフルーが両手を使って伝えようとしてくる。見ればミカン一つくらいの大きさだ、それで金貨が何枚も飛ぶのか…。どれだけ贅沢品なんだよ。
「だから、多少の値引きがあったとしてもどれほどの量も買えない」
「そりゃあ…そうだろうな…」
日本円で考えたら。小瓶一つで数十万円もするって事だもんな…。
「とにかく高い。だから、キノクが持っているその蜂蜜の量には正直驚いている。量だけなら数百万ゼニー級」
「ホントかよ…」
数百万ゼニー…、1ゼニーの価値は手っ取り早く言えば約1円。この世界ではそれだけの価値がある。
俺はお買い得大容量サイズの蜂蜜が入ったボトルを見た。900グラム入りと書いてある。それが量だけとは言え数百万ゼニーとは…。
「本当。間違い無い。マジマジ」
「アンフルー、あんまりそういうのは連呼すると信憑性が薄まるぞ」
俺はアンフルーに軽く助言した。それと同時にある事を閃いた。
「…だが、良い事を聞いたよ。商売のネタが出来たようだ」
「ん?」
「ああ、大儲けのヒントを貰ったよ」
「そう…。なら…」
アンフルーが俺の首に腕を絡めてきた。
「な、何だよ?」
「ご褒美…欲しい」
じっ…。アンフルーが見つめてくる。さすがにエルフ、真面目にしてると…、というか変な事を言ってない時のアンフルーの魅力度はかなりのものだ。
「じゃ、じゃあこの蜂蜜をだな…」
「む…。違うモノを…」
「なら、蜂蜜は要らないんだな?」
「ぐ…。欲しい」
「では蜂蜜で決定」
「く、悔しい。でも、欲しいの…。ビクンビクン」
「そのビクンビクンはやめなさい」
俺はアンフルーに窘めるようにそう言った。
「それと…これだな」
俺は預かっていた純金貨がぎっしり詰まった袋を取り出す。一枚ずつ真綿に包まれ互いに摩擦し合わないようになっている。
「一千万ゼニー…、改めて凄いと感じるよ」
さすがに金だ、重い。
「確かに大金だけど重いのニャ」
「でも、ここに預けておけば…」
「あっ、重さに悩まされなくなるニャ!」.
リーンとアンフルーがそんな話をしている。
「そう言えばさ、こんな風に大金を得た時にはどうしてるんだ?」
「ニャッ!?どうするって何をだニャ?」
「ああ、大量に金を得ても重いだろう?それを持って歩いてりゃ重いし、荷物になって動きを妨げるし…」
「ニャーんだ、そんな事かニャ!」
リーンが気軽な感じで応じる。
「そういう時は宝石に替えている」
アンフルーが回答えた。
「宝石?」
「これニャ!」
リーンが服のポケットをゴソゴソやって小さな宝石を取り出した。
「宝石は小さく軽い。だから街から街へ移動する時とかは特に宝石に替えて持ち歩く。軽い、かさばらない」
「なるほどね。身軽になれる訳だ」
「ニャッ!だけど、商業ギルドとか取引所でお金に戻す時は少し価値が減るのニャ」
「価値が減る?」
「引き取り価格は買った時のだいたい八割くらい」
「なるほど。身軽にはなれるけど、タダじゃないんだな。宝石に替えて便利さを取るか、重いけど金を取るか」
「今はお金をキノクの部屋に置けるから助かるニャ。両替もしてくれるからその時に必要な分だけ持ち歩けば良いのニャ。これなら宝石の取引で手持ちが減る事もないのニャ」
宝石を換金する時は二割取られるのか…。商業ギルドや取引所は買いとったそれをまた購入希望者に売って…。
「うーん。大きさも重さもないし高額で取引されるし…こりゃあ良い商売だな」
少し考えてみる。
地球ではお金として硬貨以外にも紙幣がある。これはその価値をその国の政府が保証しているから価値がある。そうでなければ紙クズだ。もちろん、政府が保証していても政情不安だったりすれば同様の事になる。
だが、金貨や銀貨などはそれ自体に価値がある。それで人々が安心して使うのだ。だけど大量に持つには重いし嵩張る、財布に入れて容易に持ち歩ける軽くて薄い紙幣のようにはいかない。それにこの異世界にはATM(現金自動預払機)なんか当然ないだろう。
「待てよ…」
お金は有ったら有ったで不便な事が如実に現れるのがこの異世界かも知れない…。それならビジネスチャンスはあるんじゃないか?
「キノク、どうしたのニャ?」
「ああ、少し考え事だ。だけど、その前に…このカートゥーンボゥの針も売らないとな」
俺は洗面器に入った大量の毒針を見てそう言った。
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