第36話 瞬殺!!高難度依頼。
金鶏菊を主原料にした蚊取り線香、これを大量に生産する事にした。作りながら効き目を確認すると色々な事が分かってきた。材料の比率である。
まずは薬効を増幅させる触媒茸、これは少量加えれば効果が十分出る事が分かった。具体的には全体比率として1パーセントもあれば効果がある。これはありがたい事だった。
触媒茸の用途は幅広い。例えば冒険者製応急薬にだって使う、詳しい処方箋は知らないが専門の薬師が作る薬にも使われているらしい。要はほとんどの薬に使われているという事だ。
そしてもう一つ、金鶏菊の比率である。
「ニャー。金鶏菊の匂いが含まれた煙なら良いんニャね」
街のドブ川にいる虫を相手に実験していると、金鶏菊もある程度含まれていれば良い事が分かった。
「ん、これなら煙がよく出る物に金鶏菊を混ぜたら良い」
「そうだな」
そうと分かれば日が暮れる前にと材木屋に行き、廃棄物となる樹皮をもらった。針葉樹の脂が多く含まれるものだ。よく煙が出る。それをアンフルーが小さなかまいたちのような竜巻を発生させ細かく砕き、それに金鶏菊と触媒茸を練った物を混ぜた。無論、温泉水も忘れない。
「す、凄いニャ」
実験用に小さな塊にした蚊取り線香を試してみると面白いように小バエが落ちる。煙の出も良い、質も量も十分だ。
「よし、大きな乳鉢を買って戻ろう。明日の準備だ」
□
翌朝…。
「旦那様より話は聞いております。よろしくお願いします」
ベアイエロプー商会所有の養蜂場に着いた俺達を出迎えた。ここの支配人との事だ。
「あなたが…任務達成の度合いも確認を?」
「はい、左様にございます」
「分かった」
「それではこちらへ…。くれぐれも大きな物音を立てませぬよう…」
養蜂場の小屋に案内される。
「あそこに…」
「あれが討伐対象か…」
小屋の跳ね上げ窓を上げると外の様子が見えた。
「はい、ウチの蜜蜂はあの似非世界樹の花の蜜を集めていましてね。質が良いのですよ、ところが…」
支配人が養蜂場中央にそびえ立つような巨木を指差した。
「あの凶悪な毒蜂が根城にしてしまいまして…」
凶悪な毒蜂と言われたのはカートゥーンボゥ(鳥型蜂)。雀とか燕くらいの大きさがある蜂だ。何より恐ろしいのはその毒針、人が刺されたら死に至る可能性がとても高い。
「それが蜜蜂の巣箱を襲ったんニャね。アイツら、自分では蜂蜜を得られニャいから」
「はい」
支配人が応じた。そんな彼に俺は尋ねた。
「確認しますが、巣はあの一つだけですね?」
「その通りです。あの枝にぶら下がっている大樽ほどもある巣、あれが奴らの住処なのです」
聞いてた話と一致する。では作戦通りいこうか。
「アンフルー」
「ん、潜在能力解放!これであなたの身体能力は四倍になる」
「うん、体が軽いニャ!」
「リーン。怖くないか?」
「大丈夫ニャ!だって、ボクに虫は近づいて来ないのニャ!行ってくるニャ!」
リーンが小屋の扉に手をかける。
「ま、まさかお一人で!!む、無茶だ!」
支配人が慌てる。
「平気ニャよ。アンフルー」
「ん、地面についた瞬間に効果が出るようにしてある」
「気をつけろよ」
「分かったニャ!」
バンッ!!扉を押し開けリーンが飛び出した!
「ひゃあああッ!!」
支配人が頭を抱えてうずくまった。
俺は扉を開けたまま保持しリーンを見守る。速い、もう似非世界樹の近くに到達した。
ぽいぽいッ!
リーンが手に持っていた小判型にした蚊取り線香を木の根本に投げた。たちどころに煙が上がる。この頃には巣の周りを警備するように飛んでいたカートゥーンボゥがリーンの接近に気付いたようだ。
「来るのか?来るのか?」
リーンの後ろ姿を見守りながら俺は呟く。
「来ないッ!!」
巣を守ろうと接近してきたリーンを迎え撃とうとカートゥーンボゥは近づこうとした。しかし、すぐに後退った。
「あれが効いてる」
あれ…、アンフルーが口にしたのは蚊取り線香ともう一つ準備していた物。それは金鶏菊を擦り潰し触媒茸を加えたものを温泉水で薄くしたもの。俺達三人はそれを体に塗っていた。いわゆる手作り虫除け薬だ。
カートゥーンボゥに対する攻撃手段が蚊取り線香なら、防御手段はこの虫除け薬。今、この薬は最強のバリアになっていた。カートゥーンボゥは手を出せずにいる。だが、敵も何もしない訳ではない。手は出せないが次から次へと巣からカートゥーンボが飛び出てくる。
「ニャニャニャニャッ!!」
リーンが木の根本ギリギリを攻めるようなターンを見せる。腰に下げた布袋の紐を緩め中身をぶちまけつつ走り続けた。リーンの速さ、動きが相まって蚊取り線香が木の周辺にぶちまけられていく。
「良いぞ!帰ってこい、リーン!」
こちらに折り返したリーン、一目散に駆けてくる。しかし、カートゥーンボゥも黙ってはいない。リーンを追いかけようとした。そんなカートゥーンボゥを最初に投げた蚊取り線香の煙が撫でるように触れた。
「落ちろ、カートゥーンボゥ」
ぼとっ!
カートゥーンボゥが一匹…落ちた。
「効いてるぞッ!」
リーン、接近。
「ふニャーッ!!」
小屋に飛び込んでくる。俺はそれを確認すると外を覗けるように閉め切らず薄く扉を開けた状態にする。
「お、落ちてく…」
熟し切った果実のようにカートゥーンボゥが次々と落ちていく。奴らは木の周りを取り囲むようにばら撒かれた蚊取り線香から発する煙に取り囲まれこちらへと追ってこられなかったようだ。そして似非世界樹の周りにはいよいよ逃げ場は無くなっていく。
「終わりね」
アンフルーがそう言った時、最後の一匹が落ちた。五分もかからぬ一網打尽、スピード解決であった。
□
「お、終わったのですか。もう…?」
「ええ。あれをご覧下さい」
支配人は怖がってなかなか近づこうとしなかったが、リーンが落ちているカートゥーンボゥをククリナイフで解体しているとようやく確認の為にやってきた。
カートゥーンボゥからは魔石と毒針が得られる。毒針は木の棒の先に取り付ければそれだけで毒矢の完成だ。
「な、なんの損害もありませんです、ハイ」
「では、こちらの確認書及び調査書にそのようにご記入並びにご署名を願います」
そう言って俺はベアイエロプー商会主から預かった羊皮紙を差し出した。すぐに必要事項が記入された。
「残念ニャがらまだ女王蜂はいニャかったよ。まだ新しい巣ニャね」
解体を終えたリーンとアンフルーが戻ってきた。
「こちらも完了だ。さて、戻ろうか」
「わーい、これなら報告しても十分昼時には間に合うニャ!」
そうして俺達は街に戻った。こんなに早く戻ったのかとベアイエロプー氏は驚いていたが、報告書を確認すると約束の報酬を出してきた。一千万ゼニー、当初の倍額である。
「して、蜂蜜はいかほど買っていかれますかな?お代は勉強させていただきますよ」
驚きの顔を引っ込めて今度は商売人の顔になって揉み手をしながらベアイエロプーが問いかけてくる。
「ん…。今日のところは…」
「なっ!なんですと?エ、エルフのあなたが…」
驚くのも無理はない。エルフは果物や野菜、キノコなどを好む。そして蜂蜜も…。買わないとは思ってもいなかっただろう。
「ん…」
「では、これにて。リーン、アンフルー、お暇しよう。では、ベアイエロプーさん。今後ともご贔屓に…」
俺は部屋を後にする為、別れの挨拶を述べた。
「え、ええ…」
そう返事した時のベアイエロプーの顔はこの日一番の驚きを見せていた。
いかがでしたでしょつか?
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